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ヘッドコーチ  作者: 神楽
琉球シーサーズ編
24/28

優勝への道

「閨!出せ!」

速攻で閨からパスを受けた柚垣がシュートを決める。

今までの関係が嘘のように息の合ったコンビネーションを見せる。



ハーフタイムにロッカールームに引き返す時、2人はこんな会話をしていた。

「閨、観客席に可愛い女の子がお前のネームプレート持ってたの気付いたか?」

「マジですか!どこですか?!」

「鎌倉のベンチの裏だよ。いいなぁ、お前はモテて」

「知らなかったです!柚さんのおかげです!ありがとうございます!」

「おう!あの女の子、ゲットしろよ!」

柚垣はそう言って笑いながら閨の頭を軽くポンと叩いた。



ナイスパスを出した閨は歓声のあがる中、鎌倉のベンチ裏に目を向けたが可愛い女の人を発見できずにいた。

ひょんなことから意気投合した閨と柚垣を中心に得点を重ねた。


だが一方の鎌倉はシーサーズ以上のハイペースで得点をあげていった。

ロメロの代わりに入ったルルプスがカーニーのパワーとテクニックを織り交ぜたプレーに対応できずにいた。

そしてもう1人、若梅が前日とは対照的に赤瀬にやられていた。

スパッ!

ぴったりと付いていた若梅は赤瀬にピポットで抜かれ、レイアップを決められてしまう。

スパッ!

今度は距離を放しすぎて、3ポイントを決められる。

スパッ!

変に迷いが生じた若梅は簡単なシュートフェイクに飛んでしまい、赤瀬にジャンプシュートを決められた。

みるみるうちに15点差は詰められ、3ピリオドが終わると67-65の2点差となっていた。


ベンチに戻る5人をロメロ、外久保、松本の3人が明るく迎える。

「みんな、1回、輪になろうか」

大月の言葉で8人の選手と大月を合わせた9名が1つに輪になった。

「このまま逆転されれば鎌倉の優勝。小樽の結果によっては昇格も厳しくなる」

「……」

「オレはお前らと優勝がしたい……、どうしても、優勝がしたい」

「はい」

「今日の試合、全員で取りにいくぞ!」

「はい!!」

普段とは違う熱い大月の言葉と雰囲気に選手達にきが引き締まる。

「石井に代わって外久保が入れ」

「はい」

選手達が気合いが入っている中、ルルプスが通訳と共に大月のところにやってきる。

そしてルルプスの言葉を通訳が大月に伝える。

「ヘッドコーチ、僕をロメロと代えた方がいいと思います。僕にはカーニーを抑えられない」

ルルプスの言葉を聞いた大月はルルプスの目をしっかりと見て話す。

「ルルプス、オレはお前にコートに立つように言ったんだ」

「しかし、それではチームの勝利のためにならないと思うんです」

「ロメロは今日、プレーできない」

「嘘つかないでください、さっきロメロが大丈夫だって!」

「あいつなりの気遣いだろう。今日、あいつはプレーできない。ロメロの穴を埋めれるのは……ルルプスだけだ!」

「そう言われても……」

「ここがお前の居場所だ。自分の居場所は自分で守れ、自分から手放すな。もう一度言う、ルルプスの居場所はシーサーズ、ここだ」

大月の言葉を聞いたルルプスはもやもやとしていた気持ちが晴れたように笑顔を見せた。

ルルプスは大月と強く握手を交わすと足取り軽く、コートに駆け足で向かった。


4ピリオドが始まっても鎌倉の勢いは止まらない。

むしろ赤瀬に関しては3ピリオドよりも勢いを増していた。

それに対して、柚垣と閨のコンビに加え、3年来の柚垣と外久保とのコンビ、また昔からの閨と外久保のコンビで鎌倉ディフェンスを翻弄していく。

調子が上がらない若梅とルルプスもこの3人からのキラーパスで得点をあげていく。

一進一退の攻防が続き、9分の間、2点差前後の得点差で試合が展開された。

シュートを打つのも怖くなる中、10名の選手はその恐怖を跳ね返して、シュートを決め続けた。


シーサーズが2点リードの中、残り60秒をきると鎌倉はファールゲームを仕掛けてくる。

フリースローの成功率が高い柚垣と若梅を避け、成功率の低いルルプスに対してファールをしてきた。

ファールを受け、フリースローラインに立ったルルプスは大月の言葉を思い出していた。

「My whereabouts is defended for myself. I do not part with it.」

あの言葉をつぶやき、フリースローを決めた。


シーサーズがフリースローを決め、鎌倉がシュートを決める展開が数回続き、残り7秒の時点でスコアは92-90となった。

ピッ!

審判の笛でファールを受けたのはルルプスではなく若梅だった。

鎌倉サイドも残り7秒となってはルルプスにファールするなどとこだわってはいられなかった。

「若梅、落ちつけよ」

柚垣の言葉にも若梅は小さく頷くだけだった。

昨日がいくら調子が良かったとはいえ、今日は全然ダメ、それなのに試合に出し続ける大月の采配に若梅は理解できなかった。

今日の自分は何をやっても駄目だという気持ちでラインに立った若梅がフリースローを放つ。

ボーン

「ああぁぁぁ……」

シュートはリングに弾かれ、観客からはため息と悲鳴、そして、鎌倉ファンから歓声があがる。

シーサーズはリバウンドに入らずに自陣でディフェンスを固めていたが、この様子を見て、柚垣が若梅の所に駆け寄った。

「若梅、大月監督とみんなと優勝するんだ!絶対に決めろ!」

柚垣の激励に若梅は目が覚めた。

自分は何を迷っていたんだ、なんで弱気になっていたんだ、自分が試合を決めるといった気持ちがふつふつと沸いてきた。

審判から2投目を受けると深く息を吐き、ゴールに集中し、シュートを放つ。






ボーン




若梅のシュートはさきほどと同じ軌道をたどり、リングに弾かれた。

シーサーズは誰もリバウンドに入っていないため、鎌倉にリバウンドを奪われる。

若梅は戻り、リバウンドに入っていたカーニーと剱田、リバウンドをキャッチした吹春が攻め込む。

吹春から中滝にパス、パスを受けた中滝はマークの閨を抜きにかかる。

閨はしっかりとコースに入ると中滝はドリブルを止め、吹春にボールを戻す。

だがそのパスに反応した若梅がカットしようと手を伸ばしボールは指先に当たる。

ふわっと浮いたボールを空中でキャッチした吹春は取ったと同時に空中でパスを出す。

そのパスを受けたのは赤瀬だった。

赤瀬のマークである若梅はカットしに行ったため、マークが外れていた。

それを見逃さなかった吹春が赤瀬の構えているところに確実なパスを送る。

パスを受けた赤瀬は距離のある若梅をほぼ気にすることなく、3ポイントシュートを打った。

若梅も懸命にチェックに行くも間に合わない。











スパッ!




ビビビーーーーーー






「ううあああぁぁぁぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」






歓声でドームが揺れる。






92-90






92-93






観客席から鎌倉パープルソードのチームカラーである紫の紙テープが飛び交う。




電光掲示板に (鎌倉パープルソード 優勝) の文字が躍る。




鎌倉の選手同士が抱き合い、拳をかかげ、前堂監督を胴上げした。




大月はその姿をじっと見ていた。




シーサーズの選手、ファンの前で鎌倉パープルソードに優勝を決められた。




8名の選手もその姿をじっと見ていた。






優勝への道が断たれた……。

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