2つの計算外
前日の勝利で少しは気が楽になったシーサーズメンバーの表情は明るかった。
また、1勝でもすれば優勝といえ条件は変わらない鎌倉メンバーも初戦の敗北の悪い雰囲気を打ち消していた。
3連戦2戦目、ドームの外では雨こそ降っていないものの、朝からの曇り空でかなり涼しい天気となっている。
ロメロと外久保から話をされた柚垣と閨の2人は朝から会話を交わしていない。
そんな様子に大月をはじめとした全員が気付いていた。
両チームともにスタメンは前日と代わりなし。
選手がアップをしているのを見ている大月に開幕前に挨拶に来たGRADEスポーツの波が近寄ってきた。
「お久しぶりです、大月さん。昨日はすごかったですね。若梅の大当たり、それに触発された柚垣もシュートをバンバン決める。まさに個性派集団の理想の形ですね」
「そんなに褒めちぎっても、何も僕からは出ませんよ」
「またまた。シーサーズが活躍していただければ、うちの雑誌も売れますし、私の評価も上がりますからね」
「そうなるといいですね」
「今日はなぜ新旧エースの2人をスタメンに入れなかったんですか?短期決戦ですから、調子のよい選手を使うのが勝利への近道だと思うんですが?」
「波さん、まだまだですね。では、この辺で」
明確な答えを残さないまま、大月は波から離れて行った。
シーサーズは昨日の勢いそのままに1ピリオドから良い攻撃のリズムから得点を量産した。
いまいち攻撃も守備も噛みあわない鎌倉に対して、1ピリオドを28-15で終えた。
2ピリオドに入ってもシーサーズは調子を落とさずにいた。
「ロメロ!」
インサイドで高地に付かれミスマッチになっているロメロに対して柚垣からパスが入る。
ロメロはパワードリブルで高地を吹き飛ばすとダンクを決めた。
「おぉー!!!」
迫力のあるロメロのプレーに会場もどよめきが上がる。
ロメロも観客の声援に答えるように右拳を突き上げた。
この時点でスコアは50-23となっていた。
コンビネーションの合わない鎌倉は中滝が強引に切り込んでくる。
シュートコースにロメロがカバーに入ったのを見るとロメロのマークであるカーニーにパスを送る。
カーニーはボールをキャッチするとゴール下のシュートに行く。
ロメロがブロック飛ぶもカーニーのシュートはフェイクだった。
勢いのあまりカーニーに乗ったままバランスを崩し着地したロメロは自ら倒れ込んだ。
険しい顔で右足首を押さえたままもがいているロメロの柚垣らも駆け寄った。
「大丈夫か?」
柚垣の質問にも答えられないほどロメロは痛んでいた。
そのまま担架で運ばれたロメロに代わりルルプスがコートに入った。
さっきのプレーの判定はロメロのファールでカーニーに対してフリースロー2本が与えられた。
カーニーはフリースローをきっちり2本とも沈めた。
そしてもう1つ気がかりなことがあった。
ピッ!
「ディフェンスファール!」
2ピリオド目にして外久保は3回目のファールを犯してしまった。
ロメロと同様にシーサーズの主力である外久保が全力でプレー出来ない状況になった。
残り2回で退場、攻撃をコントロールしている外久保をコート外に追いやることは鎌倉にとってプラス要素となる。
またこの状況でコートに居てもディフェンスはもちろん、オフェンスでも強引なプレー、思い切ったプレーが出来なくなり、穴となる可能性がある。
外久保がファールアウト、穴となることを恐れた大月は閨との交代を命じた。
残り17秒で登場した閨はボールはハーフコートまで運ぶとドリブルでキープした。
10秒を切るとルルプスにスクリーンに来るように要求した。
スクリーンに来たルルプスを利用してドリブルで切り込んでいく。
しかし、1番してはいけないハンドリングミス。
「閨!取れ!」
閨と代わった外久保も思わずベンチから叫ぶ。
コロコロと転がるボールを閨がキャッチしようとした瞬間、吹春がボールを奪い去る。
吹春はフリーのままドリブルで運び、レイアップシュート。
2ピリオドの終了を告げるブザーと共にリングにボールが通った。
「おぉぉぉ!!!!」
吹春のブザービーターでシーサーズファンはため息、鎌倉ファンからは歓声が上がる。
スコアは50-35でまだシーサーズが15点リードしているものの、リズムは完全に鎌倉に傾いた。
シーサーズはロメロの退場以来、2ピリオドで得点をあげることが出来なかった。
ハーフタイムでロッカールームに引き上げると部屋にはロメロの姿があった。
「オツカレ、オツカレ、イイゾ」
手を叩きながら大きな声でみんなを迎えたロメロは怪我直後とは打って変わって元気そうだった。
「大丈夫なのか?」
「ウン、ダイジョウブ!」
右足首にテーピングはしているものの、バッシュもしっかりと履いていた。
最後にロッカールームに帰ってきたには柚垣と閨の2人だった。
笑顔で帰ってくる2人にチームメイトは一安心という気持ちと昨日までのことやさっきの閨のプレーから柚垣は怒っているだろうという予想とは違ったという不思議な感じが混ざっていた。
笑いながら閨の頭を軽くポンと叩くと2人は別々の椅子に座った。
大月が簡単な指示を与え、ハーフタイムも終了の時刻が近づくと選手達はまたコートへと戻って行った。
3ピリオドのスタートはルルプス、石井、閨、柚垣、そして、松本に代わり若梅が入った。
鎌倉も同じタイミングで昨日は若梅にやられた赤瀬を投入した。




