視線の先
「そうね……私は人の心を理解できていなかったわ。だから『感情』の本質に気づくのが遅れたのね……」
敢えて言葉を発する。発し続ける。
それが炎を灯す力になると確信しているから。
ネラは静かに息を吸い、言葉を紡ぎ続ける。
胸の奥で、白き炎が小さく、しかし確かに灯り続ける。
ウルフが続ける。
彼の言葉に少しの熱を帯びているのを感じる。
「あの裸で踊ってる姉ちゃんの事も、普通に働けばいいのに、何でこんな事してるのかなだとか、ここに集まってる男達もこんな所の何が楽しいんだろうなんて思ってるだろ? それに気づいて貰う為にこの店を選んだんだよ」
ウルフは一階の舞台を指差しながら言った。
その指先を追うように視線を滑らせた。
ーー目に映る景色は変わっていた。
不快だった。
軽蔑していた。
視界に入れたくなかった。
あれは私の森を荒らす野獣の群れだと思っていた。
ーーでも、今は違う
あの裸体で踊る女性は何故、あのような恍惚な表情を浮かべているのだろう。
私にはわからない。
あの騒いでいる男性は何故、あのような笑みを浮かべて必死なんだろう。
私にはわからない。
あの舞台を見ずに酒を飲んでいる男性は何故、あのような行動をしているのだろう?
私にはわからない。
でも、きっと、それぞれにそれぞれの心があるはずだ。
恍惚な表情を浮かべる心の理由がある。
笑みを浮かべて騒ぐ心の理由がある。
舞台を見ずに酒を飲む心の理由がある。
私には全てわからない。
それは即ち『彼らを死者蘇生させる事は不可能』という結論になる。
魂。
肉体。
それが再現出来たとしても、心は別の偽物になってしまうから。
ネラはグラスを手に取り、ゆっくりと息を吐く。
ワインの赤が、揺らめく瞳を映す。




