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追放聖女は無慈悲に慈悲を施す  作者: ふすま
第1章:メリー聖女になる
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第25話:幕間ニトと教皇


 リマゾンから大鷲便が届くと大聖堂は騒然となった、200年ぶりの聖女の誕生だ。



「では、これより女神より神託(しんたく)を受けてくる、私がベルを鳴らすまで何人(なんびと)も入れぬように」


「はっ」



 教皇が儀式の間に入る。この世界でただ一人教皇だけが女神と言葉を交すことが出来る(すべ)を与えられている。


 扉が閉じるのを確認すると早速、女神ニトとの交信の聖術を行使する。教皇が目を閉じ集中する。



「コンタクト」



 目を開けたとき目の前に美しい女性が立っていた。



 女性はにこやかに微笑んでいた。しかし、神であることはその存在感を見れば明らかだ。


 信者であれば命を投げうってでも一目見たい存在が目の前にいるというのに、教皇が向ける目は厳しい、むしろ睨んでいるようにすら見える。


 ニトの姿はヨハンが会ったときとまったく同じだ。四肢には鎖が巻き付き、その鎖の先にはライプニャーナがいる。


 一見すれば同情を誘う姿かもしれない。しかし、その姿を見ても教皇の表情は変わらない。いや、余計に眼光はきつくなった気さえする。



「ちっ、またふざけた格好をしおって」


「懐かしいやろ」



 その言葉と共に、鎖もライプニャーナも幻の如く消えてなくなる。替わりに現れた椅子にゆったりと座ると、足をくみ肘当てに右腕を立てそこに頬を乗せる。


 にこやかな顔は一転して嫌らしい笑みに変わっていた。



「……やってくれたな、女神ニト、いや邪神ライプニャーナ」


「どちらでもかまへんよ、ニト、ライプニャーナどちらもウチにとっては芸名みたいなもんや」



 人々に癒しを与える光の女神ニト、その対となる闇の邪神ライプニャーナは同一の存在である。



「何故メリーを聖女にした?」


「なんでもなにも、正当(せいとー)な手段を使(つこー)てきたんや。うちはそれに答えただけやで」


「どうだか、聖石多めに作ったのではないか?」


「いいや。うちは何もしてへんよ。そっちこそ4年も獅子(しし)身中(しんちゅう)の虫か囲っといてまったく気づかんかったやん」


「ぐ……」


「聖石の見張りもいーかげんになっていたしなー」


「ぐぐっ……」



 大聖堂という約束された将来を捨て、わざわざ禁忌の危険を冒す。そこまでしてなるのが、嫌われ者の聖女だ。


 禁忌以外に使い道の無い聖石をそこまで厳密に探す人はいるだろうか? その怠慢の答えはメリーが表していた。



「ゆーとくけど、うちは聖女にした以外はなんもやってへんよ。そーいうの飽きたってゆうとるやろ」


「全て偶然だと?」


「せや、聖石を見つけて、しかもちょーどいいタイミングで追放される。全て彼女の努力と運が呼び寄せた結果や」


「信じられるか!」


「別に信じてくれへんでもえーよ。嘘でも本当でも、メリーは聖女のままや。あんじょうがんばりや」


「ぐうっ……」



「さーて、おもろなってきたし何したろっかなー? 魔獣氾濫も起こしたるか。どこがいいかな♪ 気分もええし魔王も(つくー)たるか。異世界から人招くんも楽しいな」


「ふざけるな!! 人間を何だと思っているんだ!!」


「好きやで、ずっとゆーとるやろ。うちは人が大好きや。人間もエルフもドワーフも全部全部大好きや」



 彼女は、楽しんでいた。


 とても楽しんでいた。





 楽しい楽しい楽しい


 二人の神に別れて人々を育てたときより楽しい



 楽しい楽しい楽しい


 世界を二分して人々を殺し合わせたときよりも楽しい



 楽しい楽しい楽しい


 初代聖女を作った時よりも楽しい



 楽しい楽しい楽しい


 賢者を作った時よりも楽しい



 楽しい楽しい楽しい


 と て も 楽しい


 本当に人は……



『ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ』



 聖力の限界でこの空間から揺らぐ教皇を、最高の笑顔で送りだす。




 ニトは人々が大好きだ。



 豊作に冬を越せると喜ぶ人々を見るのが大好きだ。

 

 飢饉に遭い僅かな食料を奪い合うのを見るのが大好きだ。



 手に手をとって協力するのを見るのが大好きだ。


 剣と剣をぶつけて殺し合うのを見るのが大好きだ。



 戦争に勝ち浴びるほどの酒を飲む人々を見るのが大好きだ。


 戦争に負け無残な屍をさらす人々を見るのが大好きだ。



 実験が成功し、新たな歴史の1ページを刻む人を見るのが大好きだ。


 実験が失敗し、大事な人を亡くし嘆き悲しむ人を見るのが大好きだ。



 努力が報われ、偉業を達成する人を見るのが大好きだ。


 努力が報われず、足掻いた末に死んでゆく人を見るのが大好きだ。



 浮浪者が、ちょっとした気づきで億万長者になるのを見るのが大好きだ。


 金持ちが、たった一度の失敗で全財産を無くすのを見るのが大好きだ。



 やる気の無い人間が何もせず自堕落に生きて死ぬのを見るのが大好きだ。


 やる気の溢れる人間が一人空回りするのを見るのが大好きだ。



 魔獣に愛する人を殺され、慟哭するのを見るのが大好きだ。


 魔獣を倒し、愛する人と抱き合い喜ぶのを見るのが大好きだ。



 人間への恨みを忘れず、勝利を捧げる相手もいないのに再戦を願う人が大好きだ。


 人間への恨みを封じ込め、森の奥でひっそり暮らす人を見るのが大好きだ。



 予期せぬ聖女への覚醒に、自暴自棄になって目に付く人にヒールをする聖女を見るのが大好きだ。


 予期せぬ聖女への覚醒に、悲嘆にくれて大聖堂で不自由はなくとも幽閉生活を送る聖女を見るのが大好きだ。



 自ら聖石を手に入れ、復讐に全てを捧げる人生を見るのも大好きだ。


 聖石を見つけられず、空洞のように治療師をする人生を見るのも大好きだ。


 聖堂騎士に捕まり、深穴に幽閉される人生を見るのも大好きだ。




 何も知らずにニトに祈りを捧げる人を見るのが大好きだ。


 全てを知り、誰とも共有できずに苦悩する教皇を見るのが大好きだ。




 彼女は種をまく。それが人々の努力でボヤで終わってもよし、努力空しく大火に成長してもよし、どんな結果でも彼女は楽しめるのだから。


 昔は直接的に操作してきた。だが、もうそんなことをする必要はない。人は十分に面白くなった。



 ニトは教皇を選出する、前教皇が死んだら、自分の信徒の中でこれだという人を選ぶ。人間の中からたった1人。


 聖女が女性からしか選ばれないように、教皇も男性からしか選ばれない。指名も世襲もさせない、必ずニト自身が選ぶ。


 そして教皇に全て打ち明けるのだ。


 初めは癒しの女神という神々しい立場で教皇の前に現れ。


 人の世に災いを呼ばんとする男神の計画を知らせるべく。


 そしてやり遂げたときに全てを暴露するのだ。



 世界中の人々はニトを善の女神と信じている。その信仰の長たる教皇ただ1人がその秘密を知っている。




 教皇の部屋からベルの音が鳴ったため他の教徒たちがドアを開ける。中には非常に衰弱した教皇が立ち上がることも出来ずに倒れていた。


 安静にするように勧められるが、教皇はそれを振り払いすぐに高位の神官を集める。



「何がありましたか!?」


「……ニト様の言葉を伝える。


 封印の歪み、聖気の巡り、魔気の流れ、全てが悪い方へと重なってしまった。人には非常に過酷な試練の日々となる。


 だが希望もある、聖石を持ち自ら聖女にならんとする者が現れた。人々を癒したいと願う思いに応え、彼女へと加護を与えた。


 とのことだ」



 教皇が語った内容に司祭達は全員頭を抱えた。全てを知る教皇だけが表情を悟られぬように俯きながら苦虫を嚙み潰している。



「非常に過酷な試練とは……」


「魔獣の暴走、魔王の復活、異世界の来訪者……ニト様の予見ではこれらが発生する可能性が高いようだ……」


「なんということだ……」



 司祭達は微動だにしない、ずっと同じ姿勢のまま固まっている。教皇だけが憤っている。予見ではない、ニトが自分で企てているのだから。


 すべてぶちまけた所で誰も信じてくれない。そしてこの苦悩すらニトは楽しんでいる。



「「「おお、神よ……」」」



 司祭たちは神に祈るが、教皇にとっては口の中に苦虫を捻じ込まれるに等しい感覚を覚えていた。


 お隠れになったニト様は世界の様子を見ることができない。当然メリーがどんな人物かもわからない……ことになっている。



「自ら聖女になりたいと申す者は……」


「言うまでもなかろう……」


「「「おお、神よ……」」」



 司祭たちは神に祈る。


 教皇だけは神を呪う。



 思えば、メリーは頑なにヒールばかりを極め続けた。


 思えば、メリーが学ぶ聖術は全て聖女になったときを見越していた。


 思えば、彼女は最初から聖女になることを狙っていた……



 理由はわからない。だが、最悪の意思と、災厄の力を持った聖女が生まれたのは確かだ。


 報告ではすでに100人近い被害者が出てる。たった2日でだ。死者はいない、怪我人もいない、病人も! 中毒者も! それが何の慰めになる……



「とにかく全国に知らせろ。それとヒール封じの札を用意させろ。魔術協会にも応援を求めろ」


「彼等は動いてくれるでしょうか?」


「動くだろう、聖女の恐怖を彼等は知らぬわけではあるまい」


「わかりました」



* * *



 大聖堂の中には教皇の部屋がある。神託の間同様こちらも教皇以外は入ることは許されない。


 教皇の部屋の奥にはさらに秘密の部屋がある。厳重に音が漏れぬよう設計された部屋は、初代教皇が黙想のために用意したとされている。


 部屋の中には欠けた皿や、失敗したと思われる壺、木の棒なんかが用意されていた。



 現教皇もニト様から神託を頂き、教皇となりこの部屋に入ったときは何故こんなものが用意されているか解らなかった。


 部屋には欠けた皿やひび割れた壺が乱雑に置かれている。ゴミ捨て場へと続く秘密の通路も用意されている。



「我慢できなくなったら使え。初代教皇エト」。



 今日も部屋の中で破壊音が響く。皿を壁に叩きつけ、棒で叩き、木端微塵に割り砕く。



「あの、性悪女神がぁぁぁぁ!! 死ねぇ!! ちくしょうがぁぁぁ!!」


『ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ』



 どこかからか女神の笑い声が聞こえた気がする、それが教皇の破壊衝動を増幅させる。



「ああああああああ!!!」



ガシャーン


パリーン


ドンガラガッシャン



「はぁ、はぁ、はぁ………………あーーー!!」



 決して外には音が漏れぬ部屋に、破壊音はいつまでも鳴り響くのだった。



* * *



「あ、すでに異世界からの召喚も、魔王も作り終わってんの伝え忘れてたわ。いやぁうっかり、うっかり」



 これで1章は完了となります。拙い文章ですが次章も楽しみにして頂ければ幸いです。よろしければ、ブックマーク、評価、感想なんかもお願いします。

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