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追放聖女は無慈悲に慈悲を施す  作者: ふすま
第1章:メリー聖女になる
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第18話:私メリーさん今ヒール休めしているの2


 女神ニトに魔王討伐を頼まれたヨハンは、有無を言わされずこの世界へ転生させられた。脳内サポートのテトと共に彼の冒険が始まる。



『さて、いつまでもここで話していても仕方ありません。まずは街へ行きませんか?』


「そうだね」



 テトに案内されながら森を歩く。鬱蒼とした森の地面は、落ち葉と、それに隠れた木の根だらけだった。


 日本の整備された道に慣れたヨハンには歩きづらく、何度も足を取られる。悪戦苦闘の末、ようやく木々が途切れた。


 だが、開けた視界の先に広がっていたのは、青空ではなく赤く染まった空だった。


 ヨハンは思わず足を止め、空を見上げる。



「夕焼け?……でも太陽は……」


『こちらではこれが普通ですよ。確か「昼の赤焼け」でしたかね。だいたい昼焼けとか呼ばれてますねー。そのうち戻りますよ』


「へー、夕焼けとか朝焼けはないの?」


『んー、どうでしたかね。特に気にしてなかったからわかりません』


「そういえば、昔の人って夕焼けをどう思ってたんだろう?」


『日本でいう()()びでしょうか? 祇園(ぎおん)精舎(しょうじゃ)の鐘の声 諸行(しょぎょう)無常(むじょう)の響きありって聞いたら夕暮れを思い浮かべません?


 寂しい、不吉、だけど美しい。外国もそんな感じですね。


 こっちでも、ニト様がーとかライプニャーナがーとか、色々言われてますが、赤い空が落ち着かないのは、どこも一緒です』



 街道に沿って歩いていると、昼焼けも薄れ、ようやく空は本来の色を取り戻してきた。


 荷馬車が一台、ヨハンを追い越していく。自然とその先へ目をやると街を囲む城壁が姿を現した。



「そこそこ大きな街なの?」


『そうですね、人口は1500人弱。この国では、それなりに栄えている街ですよ』



「冒険者ギルドとかあるのかな?」


『とりあえずギルドという単語はないですね。街役組(まちやくぐみ)というものがあります』


「街役組って?」


『店の手伝いや清掃など、街の雑務を斡旋してくれる組織です。日雇い専用職業案内所といったところですか』


「英語ってないの?」



『使われていないですね。


 思うんですけど、冒険って収入になるんですかね? 見てくれる人や聞いてくれる人が、商売になるほどいるんでしょうか?』


「たしかに……」



 テトと話し合いながら街を歩くと、周りの人達から奇異の目を向けられる。



「なんか注目されてない?」


『そりゃ私はあなたの頭の中にいますからね。独り言を話してるやばい奴は注目するんじゃないですか』


「!?!?!?」



 叫びそうになる口を慌てて抑える。



『心の中で語れば通じますよ』


(先に言ってよ! 恥ずかしい)



 とりあえず門番の人に聞いていた宿屋に宿泊する。部屋に入って、ようやく一息つけた。



「えっと、つまりこの魔術ポイントを使って魔術をつくればいいんだ?」


『ええ。そしてなんと、それはあなただけのチートスキルですよ!』



「作るにはどうしたらいいの?」


『ちょっとまってくださいねー、いま作製用のウィンドウを開きますから』



「うわっ、なにこれ量が凄いんだけど」


『こちらの世界で魔法とは、因子と接続子の組み合わせでできています』



 姿は見えないのに眼鏡をくいくいさせている姿が思い浮かぶ。



「因子と接続子?」


『まず因子の説明をしますと……因子とは事象を示します、そうですね、例えば炎の球を飛ばす魔術を考えてください』


「うん」



『どんな因子が必要になるかわかりますか?』


「えっと、まず【炎】でしょ……それだけ?」


『それだけじゃだめです。炎の大きさ、形状、それから【飛翔】の因子が他に必要になります』


「結構必要になるんだね」



『それから、どこから飛ばすかですね。ヨハンさんなら【尻】なんかおすすめです』


「絶対に嫌だ!」



『いいと思うんですけどねー尻。私は絶対いやですけど』


「自分が嫌なこと勧めないで」



『とにかくそういった因子を繋げれば完成なんですが……』


「繋げられないの?」



『う~ん、ほらスマホって充電ケーブルの規格が色々あるじゃないですか』


「あぁ、前スマホ買い替えたとき充電ケーブルが違ってて、買い直す羽目になったことある」



『なんであれ、あんなころころ変えるんですかね。おっと、因子にもそれがあるんですよ。なんと16パターンです』


「多!」



『しかも文章として繋げるのだから左右? 前後? がありますね』


「それって無理なんじゃない? 絶対繋がらないもの出てきそう」



『そのための接続子です。変換ケーブルみたいなもんですね』


「どうやっても合わない場合はどうするの?」



『接続子を重ねてください』


「なんかパズルみたい」



『まんまパズルですよ』


「こっちの人達もみんなやってるんだ」


『ウィンドウなんて便利なものないからもっと大変ですよー。まぁ有用な魔法は魔導書という形で残してくれてますよ』


「僕も読めば覚えられる?」


『覚えられますよー』



 魔法は魔法陣と魔法名が解ればすぐに使うことができる。


 だが、高度な魔法ほど魔法陣は複雑になり、構築も難しくなる。魔力量や聖力量の問題もあるが、そもそも集中力が持たないだろう。



「読むだけで使えるなら、僕もそれを読めばわざわざ作る必要ないんじゃないかな?」


『あのですねー、そんなものを自由に見ることができると思います?』



 現在魔術の魔導書は魔術協会によって管理されている。簡単な魔法くらいなら閲覧できるが、他は難しいだろう。


 ただし、自分が聖術、魔術どちらの才能があるかは魔法陣を読まなければわからないため【送風】と【ヒール】は公開されている。


 逆に秘匿されたり、一子相伝のようなものもあるかもしれないが、どちらにしろヨハンの立場では目にすることはできないだろう。



「なんで読むだけで覚えられるの?」


『ニト様とライプニャーナがそういうふうに造ったからですよ。魔法文字もうろ覚えで発動するようになってます』


「うろ覚えで発動するんだったら接続子はいらないんじゃ」



『う~ん、スーパー、りんご、帰る。この単語で文章を作ってください』


「え? えーっと、スーパーでりんごを買って帰るかなぁ」


『いいですね。今ヨハンさんが自分で補完したように、魔法もうろ覚えであってもある程度因子を知っていれば自分で接続子を埋めてくれます』


「へー」


『では、同じ文を英語でどうぞ!』


「え……えーっと……」


『ヨハンさんも含めて、地球の人間をベースにしてそれをできるように造られたのが、この世界の人たちです。


 ニト様によると魔法辞書を持ってるイメージですね。曖昧だと検索に時間がかかるみたいな』


「なるほど」


『で、ゲームみたいに魔術を使うと魔力、まーMPですね。それが減ります。文章自体を理解すると使用MPが減るうえ、発動も速くなるって寸法です』


「じゃあ単語の意味を知ればもっと早くなるんじゃ」



『はい。その通りです。この単語はこういう意味だと理解するほど、必要魔力が減って威力も上がります』


「なるほど」



『完全に理解していなくても、なんとなくこういう意味かなーって程度でも多少は効果がありますね。


 さらに慣れてくると、上位魔法を見ても「この単語はこの因子だな」って感じで解析できるようになります』



 メリーが聖女聖術を使いこなしているのも、ヒールを1聖力で扱えるまで極め抜いているからだ。



「なるほどね~。接続子の結合もそれでわかるの?」


『わからないですよ、こちらの研究者も因子と接続子があるのは理解しているみたいで、じゃぁ総当たりだ! って感じで試しているみたいです』


「よく作れるね」


『たぶん接続子が持つパターンも判明しているんじゃないでしょうかね? 全部はわからなくてもかなり絞り込めるでしょうし』


「あー、なるほど。魔力はどうやったら回復するの? 宿屋なんかで寝たら回復する?」


『いえ、食事です。特に果物なんかは回復量が多いのでお勧めです。それじゃ、さっそく簡単な魔法から作ってみましょうか』



「わかった。えっと、属性の因子って【火】と【風】しかないの?」


『そりゃそうですよ。こちらの世界の魔法って、万能じゃないんです。水や土みたいな物質を、無から生み出せるわけないでしょう』


「ゲームなら大抵4種類とかあるのに」


『ヨハンさん、ゲームと現実は違うんです。いい歳なんですからそれくらい区別できるようになりましょう、ね』


「残念な子扱いされてる!?」



『とりあえず風球か火球でもつくってみたらどうですか?』

 

「わかった。それじゃさっそく火球を。えーと必要な因子がこれとこれで……」


『風球じゃないんですか?』


「これから冒険に出るんでしょ、火をどこでも起こせるのは便利かなって」


『おおっ! ちゃんと考えてるんですね。えらいえらい。』


「やっぱり残念な子扱いされてる!?」



 ……1時間後



「出来た!」


『おめでとうございます。新記録ですね!』


「新記録もなにも初めて作ったんだけど」


『なら新記録で間違いないですね』


「うーん……まあいいや。とりあえず使ってみる」



 無意識のうちに、手を前に構えた。



「わっ凄い! 勝手に魔術が構築されていく」


『部屋の中で使う気ですか? 放火したいんですか?』


「えっ、ちょっ、中止中止」



 慌てて魔術の構築を中断した。



「ふう、危なかった……外で試してみるよ」


『街中で放火するんですね!』


「しないよ!」


『する気が無くても衛兵が来ますよ』



「人気の無い森まで行って」


『森林に放火するんですね!』


「しないよ!」


『知ってますか? 殺す気がなくても包丁で刺すと相手は死ぬんですよ』


「……水辺の近くとか燃えるものが無い場所で頑張ります。こんなことなら風球にしておけばよかった」



 ヨハンは生前、少し浅慮なところがあった。


 そのことは自分でもわかっているため、医療ミスなど重要なものが起きないように何度も確認するようにしていた。その慎重さが幸いして、仕事では信頼されていた。



 それでも即答を求められる場面は苦手だ。つい不用意な言葉が出てしまう。娘を亡くして悲しみに沈む母親にも、それをやってしまった。


 ……そして刺された結果、こうして魔王を倒す旅をすることになってしまった。



 ……翌日……


 ヨハンは近くの湖に向かって歩いていた。



「そういえば魔力の容量を増やすことはできないの? レベルを上げるとか?」


『レベルなんてものは無いですね。魔力の容量を増やす方法ですが、魔力を使い切れば上がりますよー』


「なるほど」



 1時間ほど歩いて湖に辿り着く。



「はぁ、はぁ、結構、距離あるんだね」


『それじゃ、さっそく試してみましょうか』


「ちょっ、ちょっと休ませて……」


『体力ないですねー。今後旅をする必要がありますし、なんとかしないとですね』



 ……



「【火球】! うーん、使い切ったのに伸びない……」


『ステータスに表示されているのは自由に使える魔力なんです。それとは別に生きるために必要な潜在魔力ってものがあるんですよ。


 この潜在魔力を使えば魔力量があがるんですが、火事場の馬鹿力みたいにリミッターをはずさないといけないんですよね』



 この仕組みは聖力も同じだ。



「なんで教えてくれなかったの!?」


『知らなければ、勢いで出来るかなーって思ったんですけどね』



「いや、できないよ。下手したら死んじゃうじゃん」


『まーまー、運動だってやりすぎれば筋肉痛になるし、へたすれば腱が切れたりするじゃないですか。無理をすればそれ相応のしっぺ返しがくるのは道理じゃないですか?』


「それとこれとは別なような……」


(今度回復魔法ができないか探してみよう)


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