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妹なんてお断り!  作者: 白井夢子


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20/22

20.新しい日常。そしてエンディング。


結局――正式なペアとなったティニアとヴァルドは、そこに兄オリオンを加えて、『三人のペア』を組むことになった。

前代未聞の特例が認められた形だ。


あの日、学園長室で兄オリオンが何を言ったのかは分からない。

ただ翌日、ティニアたちは再び学園長室に呼び出されて、その決定を告げられたのだ。




「オリオンくんを『治癒魔法剣士』と認める。君たちのペアに入れてやってくれ」


「え…?治癒…魔法…剣士……?」


初めて耳にする言葉に、ティニアは理解が追いつかず、ただ呆然と言葉を繰り返した。

学園長は軽く頷き、言葉を続ける。


「もともとこのアストラ学園は、剣士と治癒を学ぶための学園だ。

だが――危険度の高い討伐地では、別学園の魔法師が同行することもある。……私は、魔法学園へ転入することを勧めたんだがね。

オリオンくんは、その三つの分野をすべてアストラ学園で修めると宣言したんだ。『だから三人でひとつのペアにするべきだ』と、譲らなくてね……」


そう言って学園長は、こめかみを押さえながら深くため息をついた。



「学園長、ありがとうございます!僕たち、力を合わせて頑張りますから!」


オリオンは勢いよく頭を下げ、すぐにティニアの方に向き直った。


「ティニア!これからは兄さんも正式なペアだよ!」


「あ……うん。そうね、兄さん……」


ティニアは浮き浮きした兄の顔を見つめながら、曖昧に頷いた。

何がどうなっているのか、正直まだ理解できていない。だけど、兄の嬉しそうな顔を見つめながら、考えるのも馬鹿らしくなって、ただ受け入れることにした。


三年前に、剣士と治癒師を兼ねると聞かされたときでも、「そうなんだ……」と受け入れたのだ。

そこに魔法師が加わったところで、もはや驚くことではないような気がしていた。



「……ティニアくん、悪いがオリオンくんのことを頼む。魔法学園から出張してくる講師の授業だけは、ちゃんと受けるようにさせてくれ」


「は、はい……!」


再び重い息を吐く学園長に、ティニアは慌てて返事を返した。




それでもどこか混乱しながら一日を終えた。

帰宅するころには気持ちも落ち着いていた。

だけどそうなると、今度は別の不安が湧いてくる。


天才と呼ばれる兄オリオンならば、きっと難なく魔法師になってしまう。

だけど学園長は、「危険度の高い討伐地では、別学園の魔法師が同行することもある」と話していた。


本当に兄が魔法師になってしまったら、これから先、危険な場所に行かなくてはいけなくなる。


(父さんと母さんに話して、止めてもらおう)


ティニアはそう考えて、帰るなり、今日の学園長の話を両親に伝えた。

だが―――


母セレナは、兄が魔法師を兼ねることを聞くと、「オリオンは、魔法学園からも声がかかっていたものね。色々やってみたらいいじゃない」と、穏やかに笑っただけだった。


父カインも、「可愛いティニアに危険がないよう、しっかり魔法を学ぶんだぞ」と兄に声をかけただけだ。


少しくらいは兄を注意してくれると思っていたのに、両親にとっては、それほど心配するようなことではないらしい。


やがて始まった夕食の時間は、あまりにもいつも通りで、(父さんと母さんが心配していないなら、大丈夫……よね?)と、納得することにした。





そして―――

時に魔法の講師を招いた討伐訓練を重ねる日々が、ティニアの新しい日常になっていった。

ティニアの側には、いつも兄オリオンと、そしてヴァルドがいる。



ヴァルドへの気持ちを自覚したティニアだが、自覚してそこから、ヴァルドとの関係に変化があったかというと―――そういう訳でもない。

恥ずかしくて、その想いを伝えることは、まだ一度もなかった。


だけど、たぶん。………もしかして、だが。

ティニアの気持ちは、言葉にしなくても、魔力を通してヴァルドに届いているような気がする。


ティニアの魔法は、ヴァルドだけに特別な輝きを見せる。

まるで気持ちを隠せないように、勝手に輝きを増してしまうのだ。

キラキラと煌めく光が、ティニアの特別な想いを映していた。


 

そして、たぶん。

………これも本当に、もしかして、だが。


ヴァルドも、ティニアの想いを知った上で、その魔力を受け取ってくれている気がする。

なぜなら、いつだって、誰よりも早くティニアの魔法が彼に馴染んでいくのだ。


「もしかして、私の気持ちに気がついてますか?」


そんな言葉は、恥ずかしくて絶対に言えないが、言葉にしなくても、想いそのものが伝わっていることを感じていた。


(いつか……もっと強くなれた時に、ヴァルドさんに言葉で気持ちを伝えられたらいいな)


それでも、もっと自分に自信が持てたら、告白する勇気を持ちたいとティニアは思っている。

ヴァルドは、ティニアを対等な相手として見てくれる、誰よりも誇らしく、そして素敵な人なのだから。








結局ヴァルドは、ティニアと正式なペアを認められたものの―――オリオンも交えた三人でペアを組むことになった。


(三人のペアってなんだよ……)


そう思わないでもなかったが、学園長の決定に逆らえるはずがない。

ヴァルドは、変わり者のオリオンとは違う。余計なことを言って、波風を立てる気はなかった。


アストラ学園には、もはやヴァルドたちの実力に釣り合う相手はいない。

そのため対戦の訓練は、休日にガーディン騎士団を相手に行われている。


今日はその休日の訓練の日だ。

魔法師を招いての模擬戦ということで、好き放題暴れる魔法師に、騎士たちの顔にはいつも以上の緊張が走っていた。

今は、もうすぐ来る魔法師を待っているところだ。




ヴァルドの横では、ティニアが真面目な顔をして、オリオンに話しかけていた。


「ねえ、兄さん。こんな風に出張授業を受けるんじゃなくて、ちゃんと毎日、魔法学園に通った方がいいんじゃない?

学園長は、『危険度の高い討伐地では、魔法師が同行することもある』って話していたでしょう?ちゃんと勉強しておかないと、いくら兄さんでも危険があるかもしれないわ」


ティニアは、オリオンが中途半端に魔法学を学ぶことを心配しているようだった。

いつになく真剣なティニアの顔に、オリオンも珍しく真面目な顔で答えている。


「ティニア。僕が魔法学園を選ばなかったのは、ちゃんとした理由があるんだ。

『魔法師は、変わり者が多い』って聞くだろう?『付き合う相手を、厳しく選ぶ』って。

――ほら、兄さん、人見知りするから……。せっかく仲良くなった、ヴァルドとも離れたくないしね」


寂しそうな声色で話すオリオンに、ヴァルドは喉元まで出かけた言葉を飲み込んだ



ふざけるな。

お前はただティニアの近くにいたいだけだろう?

お前が一番変わり者で、お前こそが一番相手を厳しく選んでんじゃねえか。


いつも、「オリオンちゃ〜ん。妹ちゃ〜ん」なんて気持ちの悪い声をかけ、ヴァルドをいない者として扱おうとする、あの、厳しく人を選ぶ、これから来る魔法師と同じじゃねえか。


―――そう言ってやりたい。

ティニアの手前、口にすることはない言葉だが。



本当に、この男は鬱陶しい。


心の奥底を震わせるだけではなく、目に見えてまで気持ちを伝えるティニアの魔法に、ヴァルドも自分の気持ちを言葉にして伝えたいと思っている。


だが、妹を異常に妹を溺愛するこの男が、必ずヴァルドの邪魔をしてきて、いまだに気持ち一つ伝えられたことはない。


ヴァルドは、いつか必ずこの天才より実力を付けて、ティニアにしっかりと自分の気持ちを伝えたいと思っている。




ティニアとヴァルドは、恋人どころか、まだ『始まってすらいない』関係だ。

それでも――誰よりも深い絆を、確かに感じ合っている。






エンディングを名乗りながら……

実はまだ少し続きます。

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― 新着の感想 ―
いけ好かないロイクがちったぁ後悔するところがみたかったです…… 後悔しなかったのかな?本当に妹としてしかみてなかったのかぁ、、 あの口うるさいペアの女が好きだったんならしかたないね、お似合いお似合い
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