盗賊に乗っ取られた街 前編
日が暮れてキース達が身を隠しながらうろつく男たちを狩っていく。
物音を立てないようにそっと背後から近寄ってマジックバッグを頭から被せていく。
小さな小競り合いはあるものの大きな揉め事にはならずに人数を削っていく。
キースは領主邸の中に入り込み、領主邸の中で夜陰に紛れて人を削っていく。
二〜三人削っては移動して新たな場所でまた盗賊を捕まえる。
キースの印象では統率の取れた団体ではないこと。
互いに顔が知らないものもいるようで、ちょっとしたことで諍いを起こしている。
キースが四十人ほど削り取った頃、屋敷の中がバタバタし始めた。
「配置していたはずの野郎どもはどこ行った!!」
「居ないんですか?」
「どこでサボってやがる?!!」
「か、確認を取ってまいります」
怒鳴っていた男に見覚えがあった。あれはドロレアだ。こいつは盗賊団のトップクラスの奴だ。
そっと忍び寄りドロレアに声を掛ける。
「ドロレアさん!ちょっとこっちに来てください。一人倒れているんです」
「何だと?!」
キースの後をドロレアと何人かが付いてくる。角を曲がったところで振り返ってドロレアの顎を撫でるように意識を刈り取る。
後ろについてきた奴らが声を出す前に刀を抜いて歯をつぶしてある方を思いっきり振り下ろす。
全員の意識を奪ってキースはマジックバッグで盗賊たちを収納した。
キースは息を整えてドロレアがいた場所へと戻る。
そこに残っていた者たちに「ドロレアさんは?」と聞かれキースは「呼んでくるように言われました」と一瞬油断させて倒してはマジックバッグへ収納した。
ショウは自分の実力に過小評価も過大評価もしていなかった。
正しく自分の能力が解っていて、正面からぶつかってもなんとかなる相手だけを倒していった。
相手が自分より強そうだと判断するとその場を離れた。
そのうちゼロかヴィクがなんとかしてくれると信じていたので、見逃すことに罪悪感も何も感じなかった。
6人ほど捕まえた後、こいつには勝てないと思ってしまう男とばったり出くわしてしまった。
ま、まずい・・・!
逃げることも叶わない距離で戦わざるを得ない状況下になってしまってショウは焦った。
殺す覚悟を決め、自分が危ない覚悟も決めた。
二撃三撃と剣を交え、力でも劣っていることを理解する。
やべぇっ! 「ゼロ!ヴィク!!」名を呼ぶが応えはない。
剣が横薙ぎに払われた瞬間にショウの腕をかする。
どんどん後方に下がらされて四つ辻まで下がらされる。
「まじやべぇっ。誰でもいいから助けてくれ・・・」
相手に追い詰められ建物を背にしてしまい、ショウは逃げ場を失った。
相手との実力差が大きすぎて右にも左にも逃げられない。
「キースさん!!」
相対している男の後ろに建物の上から何かが落ちてきた。
ショウを追い詰めている男が崩れ落ちる。
「助かったのか?」
相対していた男の背後に新たに人を見つけて一瞬身構えるが、ショウを助けてくれた相手だと解った。
背にしていた家の男だった。
「大丈夫ですか?」
「すまない。助かった」
倒れた男は剣が左肩から真下に向かって突き刺さっていた。
即死だっただろう。
「助けてくれてありがとう。危ないから家の中で隠れてな。今街を取り返そうと冒険者が頑張っているから・・・大丈夫か?」
多分初めて人を殺してしまったんだろう。
手と体がブルブルと震え目の焦点が合っていない。
ショウは相手を抱きしめ「ありがとう。君が助けてくれなかったら俺が死んでいた。君のおかげだ。本当に助かった」
二階を見上げると家族だろうか?心配してショウたちを見下ろしている。
「すまない彼を家の中に入れやってくれ」
家の中で慌てて人が降りてくる音がして扉が開く。
「本当に感謝している。俺が生きているのは君のおかげだ。君は俺のヒーローだよ」
手を震わせて目の焦点が揺れていた男の焦点が合い始める。
ショウはもう一度男の目を覗き込んで「ありがとう。君のお陰で俺は助かった。君は俺のヒーローだよ」とゆっくり噛んで含めるように伝えた。
家族が男を抱きしめ家の中につれて入る。
家族全員に向けて「必ず街を取り戻すから」と約束した。
ゼロは五人に囲まれていた。
ゼロは囲まれると一気に機嫌が悪くなる。
ハッキリ言って八つ当たりが発動するのだ。
ゼロは発育の遅いタイプの子供だったので、年齢より幼く見えたらしく、キースに守られ、キースの師匠に守られていたことを思い出してしまう。
それはゼロにとっては不本意で、あの頃でも戦えたという思いがせり上がってくる。
取り囲む男たちに向けて八つ当たりを発動させて瞬殺していく。
腕や足を傷つけて動けなくして得物を取り上げてマジックバッグに収納した。
ほんの少しだけ憂さが晴れて次の獲物を探しに一歩足を踏み出す。
音を聞きつけたのかまた新たな獲物に囲まれる。
ゼロはなんで俺だけこう、毎回囲まれるのか、と腹立たしく思いながらも敵を倒していく。
キースのように圧倒的な強さで戦うことは出来ないが、危なげない戦いで自分を有利に持って行く。
さて。そろそろ引き上げる時間かな。
ゼロだけで十六人は捕まえた。
陽が昇りつつある。
少し眠ったら領主邸の様子をうかがって突入する可能性があるとキースが言っていた。
体を休めようと宿へと足を向けた。
ヴィクはショウが心配だったので異変を感じたらすぐに助けに行けるようにと比較的近くに陣取っていた。
ショウがまずい状況になっている時、ヴィクもまずい状況ではないが次から次へと襲いか掛かってくる奴らに辟易としていた。
ショウのいる方へと向かいながらも一人ひとり確実に倒してマジックバッグに収納していく。
その中のひとりを逃してしまったのはもしかするとキースに怒られる案件かもしれないと思ったが、それよりショウを助けに行くことを優先させた。
ショウのところに駆けつけたとき男に感謝を告げているところで、ヴィクは間に合わなかったがショウは助かったのだとホッと息を吐く。
族を逃したことも怒られ、ショウを助けるのにも間に合わなかった儂は、ため息を吐かれるレベルではないかと内心頭を抱えた。
ショウが男とその家族らしきものと別れるのを遠目に眺めて、ショウが少し怪我をしていることに気がついた。
「ショウ」
びくっと体を震わせたショウが慌ててこちらを振り向く。
「ヴィクか・・・」
ホウとショウが息を吐き体から力を抜く。
「そろそろいい時間だろう。引き上げようか。怪我の手当をせねばなるまい」
「ちょっとドジっちまって」
「そういうことは誰にでもある。ショウはこのまま宿に帰りなさい」
「そう、だな。わかった。そうする」
屋根に飛び上がって人の気配を探す。
二人ほど見つけたのでそちらへと向かう。
外に出てきている奴らを取りこぼしたら、ため息も吐いて貰えんかもしれんからな。
追いかけた男たちが街の門から抜け出すのが見える。
どこに行く気なのか?
同じ相手を追ってきたのかゼロと出くわす。
「どうやら街から抜け出すみたいだ。儂が跡をつけるのでキースに伝えてくれるか?」
「解りました。気をつけて」
「おまえもな。なるべく取りこぼしの無いように頼む。儂は十八人捉えた」
「伝えます」
男二人は馬にまたがり東に向けて走り出す。
ヴィクは慌てて門に繋がれている馬を拝借して見失わないように跡をつけた。
三十分ほど走らせたところで、廃村へ入っていく。
「廃村の割に明明と明かりがついてるのう。さてどうしたもんか」
遠巻きに眺めていると建物の中から人が出てくる。
建物全部に声がかけられ全員が馬にまたがるのを見て、ヴィクは慌てて街へと引き返した。
全速力で駆け門の中に入る。
既に門を守るものは居ない。
中から門を閉めて憲兵の詰め所に声を掛ける。
「これから盗賊がこの街に入ってこようとしている。今日は何があっても門を開けるな!!」
憲兵たちは怯えているのか詰め所から出てこず震えた声で返事をよこす。
「そんなことしたら大変なことになるんじゃ・・・」
「盗賊を入れるほうが大変なことになるだろうがっ!」
「そ、それは・・・そうだが・・・」
「絶対に開けるな!開けたら五十人ほどの盗賊がこの街に入ってくる」
「もう既にこの街は盗賊の街になっているじゃないか」
「今それを取り戻そうと冒険者が頑張っている。だから少しはお前らも頑張れ!!無理を言っているんじゃない。ただ開けるなと言っているんだ」
「わ、解った。でも乗り越えられたら俺達には何も出来ない」
「それは・・・仕方ない。詰め所から出てすぐに家に帰れ」
「いいのか?」
「ここに居て巻き込まれることを考えたら逃げたほうがいい」
「解った。家に帰る」
ヴィクはキースは帰っているだろうか?と考えながら宿へと馬を走らせた。
キースはうろうろしている者を次々と捕まえて人数を削れるだけ削った。
はっきりしないのがこの集団のトップが誰なのかということだった。
バードン・アンバレラもうろうろしていたので背後からマジックバッグを被せて捕まえてある。
そこそこ名のある輩が多くいて、この集団の異様さがうかがえる。
そろそろ夜が明ける。一度戻るべきだと思ったので引き上げることにした。
不運にも出くわした男たちを捕まえながら。
屋敷から出ようとしたところに息荒く走り寄ってくる男が一人。
「大変だっ!!」
「どうした?!」
「誰か解らないが俺達を捕まえに来た奴らがいる!!」
「本当か?」
「みんな捕まってる!!ゴースト村にいる奴らを呼びに行かせた!」
「ゴースト村?」
「お前は知らないのか?ほら、ここから三十分くらいのところに廃村があるだろう?あそこに50人ばかり後援組として待機させてるんだ」
「へぇ~、俺は知らなかったよ」
「だろうな。俺達マウルカ団が後援組だからな。お前はどこの組なんだ?」
「アンバレラのところだ」
「へ〜!!大きいところにいるんだな」
「あっ、急いで大将のところに行かなきゃならない!」
「そうだな。だが時間も時間だ、静かに行かないとどやされるぜ」
「そ、そうだな」
「一緒に行ってやるよ」
「おう、心強いぜ!!」
キースは走り込んできた男に先導させ大将がいるところへと案内させる。
多分領主の部屋なんじゃないかと思われる部屋の前で男が立ち止まり、ノックしようとしたところをマジックバッグに収納した。
キースは細心の注意を払いながら扉を細く開け中の様子をうかがう。
部屋は静かで誰かが動いている気配はなかった。
そっと部屋の中に入り込みベッドへ足を運ぶ。
二人の人間が寝ている膨らみがある。
マジックバッグを開いて二人の人間を収納した。
こいつが総大将なら楽なんだが・・・。
今度こそ本当に領主邸を後にすることにした。
宿に戻るとショウがかすり傷を負っていてゼロはピンピンしていた。
ゼロがヴィクの状況を報告してきて、少し考える。
「逃げたのならいいが、味方を呼びに行ったんなら敵がまた増えることになるな」
「何人くらい捕まえた?」
ゼロが二十一人、ショウが七人、ヴィクが十八人ということだった。
ショウが自分の人数の少なさに肩を落としていたが、十分な働きだと肩を叩いておく。
後は自分で立ち直るなり、腐っていくなり好きに選べばいい。
ここにいる誰もがプロなのだから。
さてどうするかとキースが考え始めた頃、ヴィクが窓から帰ってきた。
「キース。五十人ほどやってくる」
「応援を呼んだか」
「一応門は開けるなと言って、詰め所の憲兵は家に帰らせた」
キースは一つ溜息を吐いて「外から片付けるか」と三人を見回した。
本当に一話完結型といえなくなっています・・・。




