11 赤ん坊を殺すのが趣味と言った男を取り逃がす。
少し話が続いてしまっています。
単品で読んでも大丈夫だと思っていますが・・・。
赤ん坊を殺してから「赤ん坊を狙って殺すのが趣味だ」と赤ん坊の母親に言って去っていく男の犯行はキースが知るだけで既に十を超える数になっていた。
キースがたどり着くと犯行は終わった後で、ずっと出遅れている。キースは歯を噛みしめながら赤ん坊に布団をかけてやって、母親を落ち着かせ、近隣の覗きにきた者に「憲兵を呼んでくれ。赤ん坊が殺された」と伝えて冒険者カードを見せる。
後は任せて、キースは馬に乗り先を急ぐ。
殺された赤ん坊を初めて見た。それはひどい有り様だった。
我が子がそんな姿になっていくところを見せられて、母親は気が触れてしまって現実の世界に帰ってこれなくなってしまった者も多いと聞いている。
これ以上の被害者を出したくなくて、キースは先を急ぐ。
普段なら向かうはずの今、犯罪が行われていると思える現場を通り過ぎることにした。いや、してしまった。
キースはひたすら赤ん坊を殺して楽しむ男を追い掛けた。
何件出遅れただろう。
やっと、やっと!!犯行が行われる現場に間に合った。
キースは赤ん坊の無事を確かめて母親に渡す。
対峙した犯人はキースを見て楽しそうに笑っている。
「困るなぁ〜俺は柔らかい赤ん坊を切り裂くのが好きなだけで、それ以外は興味ないんだよ。でも、君のことは殺さないと後々面倒なことになりそうな気がするよ・・・」
「ああ、ここで俺を殺しておくべきだな」
キースはここで逃がしたくなくて、自分を殺すように誘いをかける。
ニヤっと笑った犯人は「私はグアンテ。覚えておいてくれると嬉しいよ」そう言って窓から逃げ出していった。
キースは投げナイフを投げながら、走り出す。
まずはずすことなどない投げナイフなのに犯人に当たることなくカチャッと音を立てて地面に落ちた。
グアンテと名乗った男から目を離さなかったのに、キースはグアンテを逃してしまった。
グアンテが逃げていった方向に歩を進めても勘が何も告げなかった。
「くそっ!!」
キースはその場にあった井戸に八つ当たりをして周りを見回しても、犯人の気配はどの方角にも見つけられなかった。
ただ自分が向かわなければならない方角だけは解った。
ここに来るまでに見過ごしてしまった村へとキースは馬を走らせた。
キースはグアンテを取り逃がした鬱憤を村を襲っている男達で晴らした。
いつもならかすり傷程度で捕まえるのに、腕を折ったり足を折ったりしてしまった。
冷静さを取り戻さなければと思うのに、ニヤと笑ったグアンテがキースの頭の中に浮かんでしまう。
一人の首の骨を折ってしまって、ここまでする必要なかったと反省した。
村を襲った犯人達を収納して、村人達の無事の確認を取った。
八十人ほどの集落で十五人程が殺されていた。
グアンテを追い掛けていなかったら助けられたかもしれない命だと思うと、ひどく心が痛んだ。
村長に殺された人達の名前と年齢を書き出してもらい、キースはその村から立ち去ることにした。
キースは近くの街に出向き冒険者ギルドのギルマスに話を聞いて欲しいと頼んだ。
この街の冒険者ギルドのギルマスのことは全く知らない相手だったが、グアンテを取り逃がしたことと村を襲撃されて十五人も殺されてしまったことを伝えた。
キースはどちらを優先すべきなのか判断をギルマスに委ねたのだ。
これからも同じことが何度も起こるだろう。
必ずどちらかに被害が出る。
どうすればいいのかとギルマスに尋ねた。
ギルマスは腕を組んで長い長い間、目を瞑って考えて出した答えは「キースの思うままにしろ」だった。
「キースに十五人の精鋭を付けてやる。助けが必要だと思うところに十五人の男達を向かわせろ。十五人をグアンテに差し向けてもいいし、他の犯罪現場に差し向けても構わない。機動性は落ちるかもしれんが、一度それでやってみろ」
「解った。一度それで試してみる・・・だが、間に合わない可能性が出てくるかもしれん」
「それも運命だ。何もかもを己の責任と思うのは傲慢だ。助けられない命も時にはある」
キースはほんの少しだけ心が救われた気がした。
だがここで緩めてはいけない。
グアンテを捕まえるまで己自信をもっともっと研ぎ澄まさせなければならない。
「役立たずはつけないでくれ・・・」
「キースに並ぶものは付けられないが、一応一流と言える者達を付けてやる。この街では揃わないから一度王都へ戻れ」
「解った」
キースは先程の村で捕まえた男達をギルドに引き渡して、この街でこれから必要になるだろうと思う物を金に糸目を付けずに買い漁った。
当分はのんびりした気持ちでバウンティハンターをやっていられない。
何としてもグアンテを捕まえるのだ。
あの輝くような目をして赤ん坊に触れていた男を思い出しながら手配書に人物像を書き足していく。
赤ん坊を目の前にしていない時は冴えない男で間違いない。それほど見事に気配を消してしまうのだ。
グアンテの背景を想像する。
特殊な立場にいたやつ?
赤ん坊を殺す時以外は生きている気がしない男?
グアンテを!グアンテを捕まえるのだ!!
キースは自分に言い聞かせる。
あの気配を探すのだ!
ギルマスに言われたとおりに王都へと方向を変更した。
グアンテの気配はどこに感じない。
王都へ行くまでに十人捕まえた。
普段なら見逃す犯罪者にも体が、意識が、反応していく。
キースの後ろに付いて馬を走らせて付いてくる男がいる。
キースがフッと思いついた方角へも付いてくる。
多分俺に付けられる男の一人なんだろう。
キースが馬から降りて口元に手をやると、付いて来た男も周辺の異様さに気がついたのか、静かに身を潜める。
この男がどのくらいやれるのか解らないから「今回は見ていてくれ」と言って少し離れた場所からキースを見ている。
時間を掛けたくなかったので一軒目に声かけて「今夜泊めてもらえる家はあるか?」ときいたら「この村にはない」と言われたのでその場で一撃でその男を沈めた。
そこからはいつもっと一緒だ。黒と思えば倒して、白だと思えば「静かに隠れていろ」と告げて置いていく。
一番奥の家まで行くのに一時間かからなかった。
犯人は全て捕まえたと認識できて村人を集めた。
キースの後をつけていた男も出てくる。
「何があったんだ?」と聞くと「住むところがないと言って空き家に住み着き出したんだが、なんだか様子のおかしなやつばかりで困っていた」とのことだった。
「村人がなにかされたとかはないんだな?」
「はい。何もされていません。ですが、助かりました」
「二十三人捕まえたが、これ以上はもういないな?」
「はい。もういません」
「なら、俺達はもう行く」
「はい。ありがとうございました」
「まだ何もやっていないかもしれない男達まで捕まえるんですか?」
「何もしていない相手は捕まえない。なにかしたことのあるやつは対面したら解るもんだ」
「・・・それがあっしらとキースさんの違いなんですかね?」
「さあな。意識を研ぎ澄ませ。空気の重さを感じろ。被害にあっている人の恨みを抱えている奴を嗅ぎ取れ。なにかしているやつは、どこかがおかしなところがあるもんだ」
「無罪の人を捕まえたことはないんですか?」
「一度だけある。離した途端にギルドの中で人を殺して回ったがな」
「あぁ、その話は知ってますよ」
「生き物も入れられるマジックバックに入れられても心が折れなかったんでしょう?」
「そうだ。正真正銘の殺人鬼だった。たった十二歳だったけどな」
「あっしはキースさんに付いて行くことになりますが、そこまでのことを求められても出来ません。しっかり指示を下さいね」
「・・・・・・」
キースには人に指示を出す自信がなかった為に返答に詰まった。
「努力する」
王都について門から出てくる男を二人指さして「この男とこの男の違いが解るか?」
キースに付いてきた男、ハルテは首を傾げるだけで「解りません」と答えた。
キースから見て右側の男は「こいつは手配書に載っていて、左の男は手配書に載っていないが、ご禁制の商品を運んでいる男だ」と言ってキースは二人をマジックバックに収納した。
憲兵がワラワラとキース達を取り囲んだが、冒険者カードを見せて、手配書を見せると憲兵達はスゴスゴト門へと戻っていった。
そしてキースは男女の二人の前に立ちふさがり「美人局が犯罪だって知っているか?」と聞いてその二人も捕まえた。
冒険者ギルドに戻ると、冒険者ギルドがない唯一の街に言っていたギルマスが戻っていて、一癖も二癖もある男達がたむろっているのを見て、キースは溜息を吐いた。
読んでいただきありがとうございます。




