#1 プロローグ
昔から物事に集中し始めると、周りが見えなくなったり時間を忘れてしまうことがよくあった。そのせいで学校に遅刻をしたり、逆に家に帰るのを忘れたりすることがよくあった。それは春休みや夏休み、冬休みといった長期の休みに入るとさらに悪化する。
一週間ほど寝ずに作業などをして倒れたりするなどいつものこと、両親や医者も止めることを諦め好きにやらせる形に変更した。
何時倒れたのかは忘れたが、久しぶりに目を覚ました。太陽は既に沈み、月が顔を出していた。清潔を保たれた真っ白なベッドから体を起こし、近くの机に置いてある電子時計に目を向ける。
「12月……15日か…。あいつを失った日だったな。花は…買えないか。好きだった飲み物くらいしか買えないな」
今日は12月15日、唯一の友達が死んでしまったそんな大切の日だった。そんな日に目を覚ますことができたのは正直に言えば幸運だったのだろう。
今まで来ていた服を脱ぎ、厚めの黒色のパーカーと白衣に着替えると、充電済みのスマホとイヤホンを持ち、外に出かける。親とは別居中。そのため、よほどのことが無い限り家に両親が来ることはない。だからこそこんな時間に出かけても文句を言う存在もいない。
「はぁ……やっぱり寒いな。久しぶりに出かけるのがこんなに寒い日なのは少し嫌だがな」
冷たい風と雪が頬を裂くように吹き付ける。一応のために持ってきたマフラーを首に巻くが、それでも寒いことに変わりはない。あいつもこんな寒い日にこの世界を旅だったことを考えると、温かい物を持ってきたらよかったと少しだけ後悔する。
自宅であるマンションの一室から出て一番最初に向かったのは近くにあったコンビニエンスストアだった。あいつの好きだったお茶と自分用のお茶を買うとすぐにコンビニエンスストアを出る。乾いた喉を買ってきたお茶で潤す。
「ふぅ……、寒いときには温かいお茶を飲むに限るな」
肌を裂くほどの冷たい風を浴びながら、目的の場所へ向かう。そこは町を見下ろすことができるほど高い場所にぽつんと立つ小さなお墓。そこにはきれいな文字で
『唯一の友、長瀬柚月ここに眠る』
と書かれている。たった一人だけの親友、柚月の墓が雪まみれの状態で底にあった。
「おかしいな。前に屋根と壁をつくったはずなのだが……。今は素材が無いから作り直させないな。悪いな、柚月」
小さな墓の前にお茶を置き、ふたを開ける。強風によって倒れそうになるお茶を手で支えると、墓に背を預け、座る。冷たい石なはずなのに、あいつ…いや、柚月の背中に預けいる様に安心できる。何時までもこうしていたいと思えるほど、柚月は大切な存在だった。
小さな背中だった。オレと同じように集中すると時間を忘れて作業をする人だった。二人で作業すると、いつも以上に時間を忘れて作業をすることが多かった。三徹して、一緒に倒れてなんてことはよくあった。
だが、柚月はオレと違って体がよかった。徹夜や休憩をはさめずの作業などで免疫力などが低下したところに流行り病がかかり他界した。その最後の瞬間だけは見ることはできたが、それでもそれだけ。
「笑って逝ったよなお前は。オレを残してさ。柚月がいなくなってから、この世界が灰色にしか見えないんだ。作業をしてつまらない。お前と作業していたころが懐かしいよ」
柚月がいなくなってからの作業は楽しい物から既に本当の作業へと変わっていた。何を見ても何も思えず、いろんなものを見てもすべてが色褪せて見える。ゆえに、忘れられる作業をして時間をつぶしている。だからこそ、前よりも倒れる頻度が上がり、倒れて寝ている期間も増えている。
「ずっとこうしていたいという気持ちもあるけど、こうしていられないな。…ふぁぁ、でも、少しなんだか眠くなってきたよ。オレも少し柚月の隣で休ませてもらうよ。……また一緒に何かを作りたいよ」
目を閉じる。息を吸うたびに冷たい空気が肺を満たす。少しずつ吐く息が弱くなっていくのを感じる。
しかし、柚月に近づいているような気がして、頬が勝手に緩んでしまう。手に力が入らない。目がかすむ。
「……あはは、ゆづ…。来世は一緒に…さ、……また、作ろ…う……ね…」
柚月の居なくなったその日、俺もまた、この世界から旅立った。




