22.夢想と真実
「セディルナ様。良い事を思いついたよ」
スピィーシアーリは、人間の姿で暇つぶし中のセディルナ様に声をかけた。
岩石を粉々に変えてから、握り込んで黒々とした小さな岩石を生み出し、それをヒュッと別方向に放り投げ、セディルナ様はスピィーシアーリの声に反応した。
「え、何なに?」
ゴガーン!
セディルナ様の後ろで、放り投げた石が爆音と砂煙を上げる。
「・・・セディルナ様。あのね。いくら他に誰も住んでいないからって、荒すのは止めてくれないかな。ここは僕の種族が代々好んできた場所だ」
「まぁ」
知っているくせにわざと理解を浅く留めたりするセディルナ様は、目を丸くして見せてから美しく笑った。
「ごめんなさい。ちょっと遊びすぎてしまったわ」
「そんなに面白いように思えないけど」
「面白いというより、不思議よ。握り込むだけ小さい石ができるから、どこまで小さくなるのかしらって」
「どんどん威力も膨らんでいってたね」
「ねぇ、スピィーシアーリも一緒にやってみましょうよ!」
「ねぇ、聞いてた? セディルナ様。お願いだから荒さないで」
少し悲しみを込めて訴えたら、急に心に響いたようにセディルナ様はシュンと反省した。
「ごめんなさい。次からは他の場所でするわ」
「うーん」
他の場所の耐久性の方が脆弱だと思うんだけど。
スピィーシアーリは首を横に振ってみせた。セディルナ様は拗ねた。
セディルナ様は、話題を変えるためにスピィーシアーリをつついた。
「ねぇ、それで何を言いかけたの。何か思いついたって」
「あぁ」
スピィーシアーリは、少し首を空に伸ばす。
「人間たちは、また召喚の術を使うのかなぁ」
「さぁ?」
「どちらでもいいけれど、もしまた『勇者』が現れたらって、考えたんだ」
「どうして楽しそうなの」
セディルナ様がスピィーシアーリの首に飛びつき、頭の上に登ってくる。
スピィーシアーリは動きを止めて、セディルナ様が頭上にたどり着くのを待ってみる。
トントトト、と軽やかに駆けのぼり、セディルナ様がスピィーシアーリの鼻筋の上に腰かける。
一緒の景色を見つめる。
「『勇者』は、僕のところに来てくれるかなと、考えたんだ」
「うーん。どうして」
「想像してたんだよ。空想だ。勇者が、僕を訪れて、『きみは大昔に勇者の仲間になったんだろう、今度は僕の仲間になってくれ』なんて頼んできたら、どうしようかな」
スピィーシアーリがワクワクとしたのが伝わって、セディルナ様もクスリと小さく笑い声を立てた。
「勇者の仲間なんかになりたいの、スピィーシアーリは? ねぇ、じゃあ私はどうするの? 置いて行かれるなんて真っ平よ」
「もちろんセディルナ様も一緒だ。だけど、そうだな、セディルナ様はドラゴン役はしないで欲しい。僕が皆を運んであげるよ」
「ふぅん? 良いけど」
「セディルナ様は人間の姿で、勇者を助けるんだよ」
「ふぅん?」
セディルナ様はあまり面白味を感じないらしい。
「僕とセディルナ様で、一緒に勇者と旅をして・・・人間の町を巡るんだ。人間にしか入れない場所も、きっと入る事ができると思うよ。封じられた書物や秘宝なんかも、手に入れるかもしれないね」
スピィーシアーリの話す様子に、セディルナ様の機嫌が良くなってきた。
「良いわね。冒険よ!」
「うん」
興味を引けた?
「でも勇者だったら、悪者を退治するんでしょう? 最後まで付き合うの?」
セディルナ様は、面倒くさい、と思ってしまったようだ。
「そうだね。まぁ、途中で抜けても良いかもしれない。でも、きっと、ここでじっと見ているよりは、セディルナ様はとても楽しいと思う」
「スピィーシアーリは、随分、勇者について、勉強したものね」
と、セディルナ様が、コロリ、と鈴を転がしたように話題を変える。
「少しだけだ」
恥ずかしくなってスピィーシアーリは誤魔化すように答えたが、セディルナ様にはお見通しだ。
スピィーシアーリは、人間の国にたくさんある勇者の冒険の物語を、ある時期によく読むようになった。
基本的に、魔族が酷い書かれようでひどい扱いを受けているので、魔族の読むものではない。
だけど、スピィーシアーリは、時折、勇者ダイチについて思い出してしまうから、全く違う冒険譚だというのに、勇者の本に興味を引かれてしまったのだ。
そして、魔族と人間の立場を置き換えて読んでみれば、精神的にも悪くない。
セディルナ様は、スピィーシアーリが興味を持って読んだ事自体に興味を持ってくれたから、やはり魔族と人間の立場を置き換えて、セディルナ様に話して聞かせてみたりした。
楽しそうに話すスピィーシアーリを見ていられるのが嬉しいのだと、セディルナ様はものすごく上機嫌で聞いてくれた。
「じゃあ、そうしても良いわよ」
セディルナ様が、勇者との冒険の話に、くすくす楽しそうに同意してくれた。空想の話だけれど。
「うん」
スピィーシアーリは照れた。
「じゃあ、勇者が召喚されたとして、そうね、まず、悪者を倒せと言われるのよね。で、勇者はよく分からないながらも考えて、まず旅に出る」
「そう」
楽しい。
***
夢想しよう。現実になるかどうかは、また別の話。
「旅で、仲間が増えていくんだ。小人族も可愛いよね。鉄器族も格好いい。挿絵になったら見栄えするよ」
「ネコも入れましょうよ」
「ネコ? セディルナ様はネコ姿で参加するつもり?」
「違うわよ。私は人型で、でも分体のネコも連れていくの。美人にネコって絵になるでしょ?」
謙遜など必要ないセディルナ様だ。スピィーシアーリも目を細めた。
「うん。とても綺麗な絵になる。僕は見たい。じゃあネコは決まりだ」
話を続けよう。
「色んな場所を訪れたい。地下迷宮はどこが良いかな」
「あ、そうだ、イーギルドとサァサクィアラのところに、何も知らないふりしていくの! サァサクィアラが入り口? うーん、少し奥に行ったところかしら。とにかく困って泣いてるの。それを話を聞いてあげて、なんとかしてあげましょうって一緒に奥に行くのよ!」
「イーギルド様とはどうしようか」
「まずは軽く威嚇し合って、ケンカよね」
「ケンカ・・・酒の飲み比べとかの方が絵になりそうだね」
「そう? じゃあそれで良いわ。でもイーギルド、そんなにお酒強いわけでもなかったと思うんだけど」
「じゃあ簡単に勝ちすぎて面白くないだろうか。でも勇者も強くないかもしれない」
「勝負の方法はイーギルドに提案して貰えば良いのよ」
「・・・」
セディルナ様は、細かいところは面倒くさくなるようだ。
空想を楽しんでいるスピィーシアーリは少し残念に思ってしまった。
その気落ちにセディルナ様は気づいて、少しマズイと慌てたらしい。セディルナ様も、スピィーシアーリにはベタ惚れだからだ。
セディルナ様は慌ててフォローの提案を続けてきた。
「こうなれば、ルディアンお兄様にも出てきてもらいましょう。いっそ、封印解いてくれないかしら。解いちゃえば良いのよ」
話題を続けてくれたことが嬉しくて、スピィーシアーリの気分は簡単に上昇する。シッポを揺らす。
「あぁ。そうだね。それは本当にやって欲しい」
言ってみてから、本当にその通りだな、などと気付いたりする。
少しだけ無言になり、スピィーシアーリとセディルナ様でぼんやり考え事をしてしまう。
「いい加減、人の夢を徘徊するのやめて、出て来てくれたらいいのよ」
とセディルナ様が呟いた。
「どうも、ルディアン様って未だに封印されている自覚がない様子だね。封印がまだ強いということなのかな」
「そこがねぇ。本当に、いい加減誰かに解いてもらいたいわ」
「寂しい?」
「・・・」
セディルナ様は複雑な気分の様子で、黙ってしまった。
少し待って、スピィーシアーリは話を続けた。
「勇者なら解いてくれそうだ」
セディルナ様も、同意した。
「そうよ。楽しそう。どんな世界になるかしら。ねぇ、でも、きっととても良い場所になるわ」
心地の良い風が通っていく。
***
平和だ。
世界はすでに、敵が誰かを知っている。
敵だともう決めてしまったのだ。
ただ、今は剣を振り下ろさない。最後の猶予期間なのだから。
召喚は、敵自らが高らかに上げる、最期の声。
仲間に助けられ、神に支持を受けながら。勇者は正しくその名を遺すだろう。
ちょっと試してみたら、あいつらまた勇者召喚しやがった END




