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ひとかけの名残と紫苑の刃  作者: 紫木
大決戦
96/111

倭国の侍

 この国に来てから幾度も死戦はあった。

 だが、この状況に比べれば、それは全てお遊戯のようなものだ。

 全ての戦歴が霞む。

 勝利への道筋などない。

 久方ぶりに感じる圧倒的死線が目の前に立っている。

「参位の配慮で国外へと追放されたと聞いておりましたが、まさかこの国にいらっしゃったとは……あなたもツイていませんね」

 黒鎧に身を包んだ童顔かつ小柄な女はこう見えても倭国の侍だ。女王が選定する序列において第拾四位——神楽愛里州かぐらありす。今の俺でなんとか敵うかどうかといった実力者をもっている。そして……

「ふわぁあ……かったるい。テメーがなんでこの場所にいるのかは知らねぇが、女王も面倒な任務を与えてくれたもんだ。こんな雑魚揃いの国に飛ばしてくれやがって。早く終わらせてとっとと戻ろうぜ」

 問題はこの男。正面に立つだけで、さっきから冷や汗が止まらない。白い髪に漆黒の黒衣。細身であり気怠そうに振舞ってはいるものの、内面から滲み出る剣気が半端じゃない。

 倭国 侍序列における第壱位——新免武蔵守狂夜しんめんむさしのもりきょうや

 俺の剣術を刀も抜かずに捌いただけでその実力差は歴然。

 序列自体、剣の技量のみを鑑みたものじゃないが、この男だけは別格。相対すれば生き残ることは……

「律!」

「っ、馬鹿か!」

 あいつ……人の忠告も聞かずに、まだこの場所にいたのか。

「あらあら、もたもたし過ぎましたわね。そちらの国と関わるつもりは無かったのですが」

「……かったりぃ」

「まったく、誰のせいでここまで遅れたと思っているのでしょう。道中であなたが少しでも動いてくだされば、今頃は全て終わっていたでしょうに」

 神楽が動く——掲げるは鉄扇。

「仕方ありません——ひとつ、舞うとしましょう」  

 その予備動作から危険を察したのか、ヴィンを囲っていた聖騎士たちも剣を掲げる。

「止めろ! おまえ達の敵う相手じゃ……」

「雅流一刃 扇奏 羽衣」

 鎧を着込んでいるとは思えないほど滑らかに足を滑らせ、神楽は聖騎士達と間合いを詰める。その名の通り舞うように鉄扇を振るい、その度に聖騎士達の首が跳ね飛んでいく。赤く赤く、血しぶきが舞い散る。

「ふふっ、無言の歓声は心地よいものです」

「ふざけろっ!」

 悪趣味な技を使いやがって。これが神楽の使う殺人術だ。相手に死んだことすら認識させない殺人舞。先の言葉通り、ここに来るまでに転がっていた死体はコイツの仕業で間違いない。   

 刀を握りしめ、俺は神楽との距離を詰めようとするが、

「坊主、大人しくしとけ」

 いつの間に背後に!? 俺は狂夜に肩を掴まれ、そのまま力任せに地面へと叩きつけられる。

「ぐっ……あんた等、いったい何が目的でこんな……」

「ああ? それはあれだ、うちの女王が……」

 

「この国の魔鉱石に目をつけたから……じゃろう?」


 何の気配も感じなかった場所から着物を着崩した女剣士が現れる。そして……

「何ですって!?」

 これもまた目にも留まらぬ速さで神楽の鉄扇を刀で弾き、玉間の中央に踊り立つ。

 ちっ、やっぱり道中で感じた気配はアンタのものか。

「どっ……どうして貴女様がここに……」

 神楽は突然の闖入者に動揺を隠しきれていない。

「へぇ……」

 狂夜は嗤う。

 くそっ、何がどうなってやがる。訳が分からないにも程があるだろ。

「ふむ、少年。息災のようで何よりじゃ」

 この姿のどこを見てそんなことを……相変わらず人の神経を逆なでするババアだ。  

「どうして……どうして貴女様がこの国にいるのですか……。かつて女王の片腕とまで言われた貴女様が、どうしてこのような場所に……。答えてくださいませ——剣鬼 上泉妖姫様」

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