カエラ
「……うそつき」
自然と口から溢れ出た言葉にわたしは驚く。
私は他人に興味がない――馴れ合いは苦手だ。
信じる価値も、裏切られる労力もいらない。
わたしは一人で生きていく。
そう決めたはずだった。
「死ねえい!」
「ん!」
向かってきた敵兵を懐に潜るように小太刀で貫く。
開戦の火蓋は切って落とされた。
私の所属する部隊の前には恐ろしい数の敵兵が立ち塞がっている。
今はただ、殺すために武器を振るえばいい。
「邪魔。退いて」
「ぐあ!」
斬る、斬る、斬る……ただそれだけを考えて身体を動かす。
周りの心配ができるほど、わたしは強くない。
そもそも、わたしに守るものなんてない。
ただ与えられた任務を着実にこなし、自分の力へと変えていく。
わたしの望みはただ一つ――『復讐』を成し遂げる。
それだけを頼りに泥水をすすってきた。
それだけを頼りに今もこうして生きながらえている。
だから、私には何も要らない。
『復讐』を遂げられるだけの力があればいい。
「頼んだぜ、相棒」
「ん。任せて」
それなのにどうしてか、あの人とのやり取りは嫌いじゃなかった。
「カエラ、次の任務には君に相方を付ける」
「ん。いらない、わたし一人で十分」
「そう言うな。少し試したい奴がいるんだ。オレの考えが正しければ、奴は『特務』にうってつけ――キミとの相性もきっと悪くはない」
「ん。勘違いしないで。上官の言葉には逆らわない。わたしはただ、要らないって言っただけ」
「キミはどうも……もう少し感情ってものが……」
「ん。はやくその人の情報を」
「……やれやれ、待ち合わせは西の裏路地、詳しいことはこの紙に」
「…………異国人?」
「名前は彩霞律――コロン奪回が上手くいけば、初めてキミの相棒になる人間だよ」
「ん」
最初は疑わしかった。
異国の人間がどうとかいうわけじゃないけれど、ヴィンセントが口元を歪めるとロクな目にあった覚えがない。
そして――わたしの数少ない予感は的中した。
単騎駆けなど当たり前、敵陣に切り込むのは常に先頭、生まれ持った性なのか、ありえないほど凶運を引き寄せる。
正直、死んだらそれまでとさえ考えていたわたしですら生きた心地がしなかった。
それでも、あの人に『相棒』だと呼ばれるのは嫌いじゃなかった。
お互いのことは何も知らないし、何ひとつ詮索なんてしなかったけど、わたしはあの人に久方ぶりの信を抱いていた。
「ん!」
「ぐひっ!」
こうやって血しぶきを浴びるたびにあの人を思い出す。
敵兵を切り殺すたびにあの人に近づくような錯覚を覚える。
わたしは刃――あの人と、とてもよく似た抜き身の刃。
守る為に戦うわけじゃない。
殺すために剣を振るう。
血の匂いに慣れきった、路地裏の闇。
全然違う考え方をしてるのに、あの人は同じ匂いがする。
「死ねえい!」
「うるさい」
一歩踏み出し首をはねる。
自分を鼓舞する必要なんてない。
ただ、黙って殺せばいい。
ここは戦場、わたしは殺す以外のやり方を知らない。
でも、あの人と共にいれば、違う自分を見つけられる気がした。
『……悪いが、後は任せた。大丈夫、直に追いつくさ』
「……うそつき」
全然間に合ってない。
戦争は始まってしまっている。
誰かが死んだと宣っていた。
誰かが逃げたと宣っていた。
勝手にすればいいと思う。
わたしはあの人の『相棒』なんだ。
あの人の言葉は疑わない。
必ず帰ってくるはずだから、わたしはこうやって戦地で踊る。
「ん。推し通る」
「ぐわっ!」「ぎゃあ!」
振るった小太刀が血を舞わす。
あの人から教えられた戦場の常――狙うは敵将の首級。
このまま疾さで押し切って……!?
「行けえええい、精鋭部隊よ! ボクが来たからにはもう逃がしはしない! 本国の力を彼等に見せつけるのだ!」
「「おっ……応!!!」」
――――どうしてここに坊ちゃまの部隊が? それに……逃がさないって何を?
「ん。まったく分からないけど、あれはきっと馬鹿」




