ニーア・カロライン
「皆の者、配置に付け! これより我が軍は進撃を開始する! 遅れを取るな、我等には女神の加護が付いている!」
兵長の怒号に押され、皆が三々五々と散り散りになっていく。
「ではな、必ず生きてまた会おう」
「うん、絶対に死んじゃ駄目だからね。絶対だよ」
「ん。また一緒に……」
差し出されたフェリアの右手を僕は力強く握り返した。
同様にカエラも手を重ねてくる。
駄目だ。これだけで僕はもう、涙が出そうだよ。
大事なんだ。本当に大事なんだ。
だからもう、誰も犠牲になんてならなくていい。
――姉さん、大事な仲間が出来たんだ
――いつかきっと、皆を僕の故郷に連れて行くよ
――もちろん、その時は『騎士』になるっていう夢を叶えて
あの日、手紙に書いた誓いはもう果たせない。
本当に奔放で、本当にトラブルばっかり抱えてしまうけど、彼は僕にとって本物の英雄だった。
あの強さに憧れた。底の知れない自信に身震いもした。
それが一瞬にして砕け散ってしまった。何の前触れも無く消え去ってしまった。
僕はね――怒ってるんだよ
必ず生きると誓った彼が、こんなにもあっさりと消えてしまったことに……
必ず守ると誓った彼が、守るべき人を残していったことに……
僕は弱いから……あまりにも僕には力が足りないから!
心の中で怒ることしか出来ずにいる。
笑っちゃうよね。この戦に勝利すれば、憧れの『騎士』はもう目前だっていうのに、僕にはまだまだ力が足りなかった。
足が震えるんだ。
こんな時になってもまだ、僕の足は震えている。
たくさんの生き死にを見てきたはずなのに、たくさんの屍の上に僕は立っているはずなのに、まだ僕は君のようにはなれないよ。
「全体、前へ! 駆け足前進!」
否が応にも開戦の時は迫ってくる。
僕は果たして生き残れるんだろうか?
僕こそがさっきの約束を守れるんだろうか?
『阿呆か、気張りすぎだ。背負い込むな、前だけを見ていろ――おまえの背中は俺が守る』
そう言ってくれた人は、もういない。
『騎士』を目指すのなら、本当の意味での『騎士』を目指すのなら、今立たないでどうする。
彼ならきっと、僕をそうやって鼓舞してくれるはずなのに……
「ん。緊張しすぎは良くない」
「……そうだね、ありがとう」
そうだ、忘れちゃいけない。
僕にはまだ仲間がいる。
それだけでも、僕が前に進むには十分な力だ。
「カエラ、僕たちの班は……」
「ん。最前線の右翼、きっと、これ以上ないくらい激戦になる」
当初の予定通り、貴族率いる主力――『聖騎士』は後続に控え、僕たちが露払いを任されることになっている。
体の良い露払い、使い捨て、貴族たちの盾――誰もがそう考え、逃げ出した訓練生も少なくはない。
でも……僕が逃げるわけにはいかない。
他の誰かがどうであれ、僕を逃すわけにはいかない。
仇を取ろうとまで自惚れてはいないけれど、守らなければいけない――守りたい人がいる。
「……フェリアが戦場に着く頃には終わってるかもね」
「ん。その意気や良し。私も全力を尽くしてまっとうする、絶対に守り抜いてみせる」
「……ぷっ」
「……ん。笑うのは失礼、先に真似をしたのはニーア」
どうにも、僕らはやっぱり彼頼みになってしまうみたいだ。
こんな時ですら、あの面影が僕らに力を与えてくれる。
彼ならきっと、こう口にするだろう。
彼ならきっと、この状況で笑ってくれるだろう。
僕等はそんな、彩霞律の戦友なんだ
「必ず生きて帰ろう。生きて帰って、祈梨ちゃんにちゃんと伝えてあげないと」
「ん。絶対に生きて帰る、絶対に」
彼が守りきれなかったものは、僕たちが守り抜く。
大丈夫――もう、何も恐れることはない
騎士見習いCクラス――ニーア・カロライン推して参らせて頂きます!
……っと、それにしても、モフランのことだけは心配だなあ。
最近は全然顔も合わせられなかったけれど、きっと彼も律のことは聞いてるはず。
あまり馬鹿なことを考えてないと良いんだけど…………
まあ、モフランがいるのは主力後方の部隊だから、大丈夫だよね?




