表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひとかけの名残と紫苑の刃  作者: 紫木
戦の末に待つもの
110/111

姉弟を賭して

 鼓動が跳ねる。

 これが自身の変化のせいか、それとも昌運の剣気に充てられてなのか。

 相対するは唯の剣客にあらず、無明を是とし、一心を掛ける。

 心を染めろ——普通に闘れば、アレと俺では相手にもならない。

「どうした? 来いよ、律」

 言外に昌運は「臆しているのか」と嗤いだす。

 上等——その挑発を機に俺は一足を踏み出し、居合いを斬りだした。 

「——っ!?」

 その速度は今までのソレを遥かに超え、俺には昌運が目を見開いたその瞬間までもが認識できる。

 だが——

「……何だ、今の動きは?」

 憎たらしいことに、奴はその身を半身ずらすだけで、俺の剣閃をかわし切ってしまう。

 しかし、その目に驚愕の色が浮かんでいるのは事実。

 俺は体制を立て直し、あらためて刀を鞘に納める。

「いつまでも子供扱いするなよ。この状態の俺は、そう容易くはいかないと思え」

 これが何なのかは、正直俺にも分からない。

 ただ、これが人間の限界を超え、俺自身の身体能力を飛躍的に伸ばすことは事実。 

 この時分、気味が悪いだなんて笑止だ。

 使えるなら使うさ。その為に代償を支払ったとしても。

「はあっ!」

 次は地を這うように跳び、跳ねるように剣戟を放つ。

「……ふんっ」

 その一閃も驚異的な反応により紙一重で躱されてしまうが、無論、これでカタをつけられるような相手だとは思っても無い。

 そこから俺は宙で回転し、そのまま上段から鋸のように刀を降り下ろす。

 我ながら、人間を超えた動きだと思わなくもない。

 誰が腰の捻りだけで宙回転出来ると思うか。

「冗談っ!」

 これには堪らず昌運も体勢を崩し、受け手に回る。

 だが俺からすれば、この一閃を受け止めようと思ったその選択が間違いだ。

 俺は昌運の大刀を押し返すように、そのまま叩き切ろうと力を込める。 

 力比べなら勝てる。そこで体勢を崩してさえしまえば——

「……ちぃっ!」

 昌運は俺の膂力に舌打ちを一つ、堪らず刀を引き、そのまま体勢を崩す。

 ここが勝機っ! 今なら姉弟子に一太刀打ち込める!

 振り切った刀はそのままに、俺は地面を切り裂きながら水平に一閃を薙ぐ。

 だが、その瞬間——


 ゾクッ……


 鋭敏になった俺の感覚が、異常なまでの警報を鳴らす。

 無論、俺の水平斬りは宙を薙ぎ、昌運はその間に距離をとってしまう。

「——再び問う。その力は何だ? 異常なまでの膂力、異常なまでの判断力。どれも前に会った時とは比べ物にもならない。ソレは何だ?」

 凶悪なまでの剣気。だが、剣聖と呼ばれるこの姉弟子から、ここまで引き出す事が出来たのも事実。

 ここからが本番。

「三度問う。それは何だ?」

 昌運の身体から感じたことのない気が溢れ出す。

 今まで、この姉弟子とは何度も刀を合わせてきた。

 だが、その度にコイツの本気を引き出すことが出来ず、歯噛みをしていたのが今——追い付いた。

 小手先の技が通用するような相手じゃない。

 今の俺に出来る全てを以って、攻勢に出る。

「いくぞ姉弟子」

「人の質問には明確に答えろと教えたはずだが——」

 巻き起こる砂埃、どちらが先に地を蹴ったのかは分からない。

 姉弟弟子であるが故に、互いの一手も同じもの。


 我流一仭 無音——焔断


 ただ一瞬の交差——その瞬間に一閃を穿ち、相手の戦意を折る。

 その交差の末に待つのは——

「……ふんっ、やはりその程度か」

 背後から聞こえる声。

 間違いない、俺の刃は昌運に掠りもせず通り抜け、空を裂いた。

 だが、昌運の刀も俺の身体には至っていない。

 何故なら、アイツは俺の剣閃に合わせ、斬撃を逸らすように刀を振るったのだから。

「何のつもりだ、昌運。どうして俺に合わせた」

 頭に血が上る。

 これはチンケな主張かもしれないが、己の全てを賭けたと思ったのは俺だけだった。

 そう感じた瞬間、俺は再び駆ける。

 もう自分の動きを制御しきれない。

 自身の底から湧きあがる力を使い、昌運へと刀を振り下ろす。 

 だが——

「子供か……おまえは——いや、赤子だな」

 尽く俺の斬撃は昌運の身体を擦り抜け、空を斬っていく。

 さらに速く、より速く刀を振り下ろしても、俺の斬撃は届かない。 

 馬鹿な、そんなことは有り得ない。俺の身体能力は完全にアイツのソレを上回っている。それなのに、どうしてここまで届かない。どうして、この差が埋まらない。

「何をどうしたのかは知らないけど、あたしはアンタを愛していた。少なくとも、少し前まではな」

 初めてそこで、俺の刀が弾かれる。

 嘘だろ、いくら何でもここまでの差は——

「今の律は出逢った頃と大差無いクソガキだ。己を過信し、己の中でだけ鼻を伸ばす。世間の広さも、己の矮小さも理解が出来てない」

 その言葉と同時に、雷鳴のような一閃が俺の身を撃つ。

 堪らず仰け反るどころじゃ無い。俺の身体は後方へと弾きとばされ、そのまま片膝をつかされてしまう。

「愛の無い律は御免だよ。あたしは今まで、愛を込めておまえを躾けてきた。正気に戻れ、律。それはおまえの進むべき道じゃない。一心を一刀に込め、今ここで叩き直す。骨の一本や二本で済むと思うな。あたしの愛は絶世に重い」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ