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ひとかけの名残と紫苑の刃  作者: 紫木
戦の末に待つもの
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出会い重ね

 ネヴィア達と別れた俺は、一人でリクセンの街を歩く。

 戦争が終わった中、それでもこの街に陰りは無く、辺りでは、もうもうと黒煙が立ち上がっている。

 この国は産業が豊かで武器は勿論の事、船舶や荷台を造ることでも有名だと知ったのは、俺が初めてこの国を訪れた時だった。

 この場に居ると、逞しい人の世で、俺だけが憂いているような気がしてならない。

 ——さて、どうしたものか。

 頭の中で反復するのは、先のネヴィアの言葉だ。

 俺自信、奴等に義理も恩も無いが、互いに信念に基づき、命を賭けたのは事実。

 ——無駄な感傷だな。

 戦場では冷酷に、時に残酷に命を奪う事もあるが、いざ刀を鞘に納めてしまえば、それも異なってくる。

 そんな事は、俺達戦士にとって百も承知。

 正直なところ、通常なら俺は奴等の話に加担してしまった可能性がある。

 俺と俺を含めた周りの奴等に実害が及ばないなら、見逃せと言われれば見逃せた。

 だが——俺の今の特務は「反乱分子の根を絶つ」といった、奴等の主張とは真逆以上のものとなっている。

 義の為、特務に順ずるか。

 義の為、敵兵の在り方に味方するか。

「……駄目だな。考えただけで頭が痛くなる」

 一種の現実逃避と思われるかもしれないが、病み上がりで無理をしている以上、これ以上の負担は御免だ。

 取り敢えず、一通り街を歩いたら、戻るとするか。

 そう暢気な方向に思考を停止させたその矢先、不穏な気配が身体中を駆け巡っていく。

 これは——

 トリハダどころの騒ぎじゃない。頭痛が一気に酷くなった。

 目を覚ましてこちら、普通に休む暇も無く、それでもまだ俺に休むことは許されないってのか。

 先とは違う意味でゲンナリしているだろう俺の目は、しっかりと路地奥を見据え、その気配の後を追いかけていく。


「思うたよりピンピンしておるのう、少年」

 その先で俺を待ち構えていたのは、和装を大胆に着流した妙齢の女性——着物には鮮やかな刺繍が施されており、腰にはしっかりと一振りの長モノを差している。

「殺されたいのか、ババア?」

 感情任せにそう口にするも、実際、そう容易く殺せる相手でも無いのは百も承知している。 

 侍が跋扈する倭国にて「剣鬼」とまで呼ばれた生粋の化け物——上泉妖姫

 何故か先の戦い以前から俺の周りに現れ、ちょろちょろとちょっかいを掛けてきた厄介者だが、コイツの目的はたったひとつ——この国、すなわちリクセン国にて極秘裏に埋蔵されている「魔鉱石」の存在だった。

 魔鉱石の原理自体は俺も詳しくないが、あの鉱石は凄まじいまでの炎を生み出し、辺りいったいを焼き尽くす。

 少なくともアレが戦争で使用されれば盤面は一気に覆されてしまう。

 現に、俺が先のリクセン軍上位三傑と闘った時も、あの石のせいでかなり割を食ったのは事実だ。

 このババアは先の戦いの際、その魔鉱石の存在自体が、倭国の内戦で使用されたとのたまっていたが……

「逸るな、少年。少しは労ろうてうやろうと思って、わざわざ気配を感じさせてやったというのに……。若いというのは掻くも罪な生き物じゃ」

 ババアは嘆息しつつ、懐から煙管を取り出し、紫煙を吐き出す。

 その仕草だけを見るなら、コロッと騙されてしまうほど艶があるが……「本当に糞餓鬼よな」と嘲笑われて、黙っていられるほど俺も温厚な質じゃない。

「アンタの手の平で転がされるのは、もうウンザリだ。掻き回すだけ掻き回しておいて、タダで済むとは思うなよ」

 敵う敵わないの問題じゃない。大事なのは、俺が今、どう思い、どうしたいか。

 コイツから問い正すことは山ほどある。

 まずは——

「アンタは何の為に俺に近付いた。少なくとも、アンタは俺の素性を知っていた。俺が知っている以上に俺の過去も——」

 あの日、王座の間で見た記憶の断片は、俺自身も忘れていた——忘れるように仕込まれていたモノだ。

 それをコイツは理解しながら俺に近付き、雅流一仭の理を叩き込んだ。

 冷静に考えて、それが、ただの気紛れとは到底思えない。

「——師匠が、この件に関与しているのか?」

 まず思いつくのは、俺をこの国に送り出した張本人であり、俺の記憶を封じた師匠の影だ。

 あの人が何らかの意図をもって、このババアに俺の面倒をみるよう依頼したとすれば……

「間抜けな考えをしおってからに。小僧の師匠はこの件に一切関与しておらんわ。そもそも、あの女の気性を考えれば、儂の都合に小僧を巻き込んだと知れば、それこそ面倒にしかならん。この件、すべて儂の独断であり、儂の都合。だから、そこまで明確に殺気を出すでない——なあ、剣聖殿よ」

 ババアの視線が俺の先へと向かい、それと同時にさっきまでは微塵も感じなかった剣気が背後から爆発的に溢れ出す。

 ——冗談、何でオマエまでここに居るんだよ。

「いやいや、艶っぽい話ならそれはそれでムカついたし、殺そうとも考えたんだけど——それ以上にキナ臭いし、殺さざるを得ないような話が聞こえてきたからさ」

 ゆっくりとソイツは歩を進め、俺の前へと姿を現す。

 いつもは飄々として気が狂っているような発言をするが、今のコイツにはそれが一切感じられない。

 いや、そう振る舞おうとしているが、溢れ出る殺気が抑えきれない状態でいる。

「まさか、弟弟子の安否を確認しようとしただけで、こんな大物に出くわすことになるなんてね。これも愛のなせる技なのか」

 そう口にしながら、ソイツは背負った大剣に手をかけ——

「万人が許そうが、神羅万象の理であろうが、貴様の犯した罪はあまりにも大きい。我が師——巴御前綾女に代わり、この私が、貴様の首を撥ね飛ばそう。覚悟しろ——剣鬼」 

 溢れ出ていた気を、本気で解放する。

 剣聖——昌運小桜

 そこには倭国から遠路はるばる俺の刀を届けにきた、姉弟子の姿があった。

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