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何度でも

 9


 静寂。


 眩い輝きに視界が覆われてしまい、誰も声を上げることができなかった。


 やがて光が収まり、カナエは恐る恐る目を開いた。


『しょ、勝負はどうなったの……?』


 この期に及んでまだマイクを手にしているのは、いっそ見上げたプロ根性と言うべきだろうか。


 目を瞑っていたというのに、金色の爆発光に眩んでしまって前がよく見えない。次第に視力が回復してきた。そしてカナエが目にしたもの――


 それは、教壇の上に立つタカフミ。その後ろに、ユウヘイとハツミ。吹き飛ばされて、仰向けに倒れているミチオの姿だ。


 タカフミが無言で右の拳を天へと突き上げた。


 クラスメイトの誰かが「おお……」と感嘆の声を漏らす。それが契機となって、教室中の皆が叫んだ。


『勝者、タカフミ! 勝ちました、死闘を制したのは、《王者》タカフミです!』


 降り注ぐような歓声。タカフミの名を呼ぶ声が上がり、それはすぐにタカフミ・コールの合唱となった。


 晴れやかな表情のタカフミが、背後に立つ二人を見る。共に闘った三人に言葉はもはや要らなかった。互いに笑みを浮かべると、ユウヘイが開いた手を出した。ハツミがくすっと笑って、二本の指をそれに載せる。タカフミが握り拳を更に重ねた。


 これがじゃんけん界において永く語り継がれることになる最強の三人――《じゃんけん三輝星》の誕生の瞬間である。


「う……くそ……」


 呻き声に、タカフミが振り向いた。声の主は仰向けに倒れたまま動けないミチオである。


 タカフミは無造作に近寄ると、ミチオに声をかけた。


「ミチオ」


 タカフミが差し出した右手。ポカンとそれを見るミチオ。

 ミチオがその手の意味を悟るまで、たっぷりと数秒が必要とされた。


「ば、馬鹿かテメェは!? 俺は《妖幻真闇流》でお前は《蒼陣裂……」


「んな関係ねーよ」

 遮るようにタカフミが笑って言った。しかし、その顔に嘲るような感情は含まれていない。勝者が敗者を見下すものでもない。ただ純粋な、笑顔だけがあった。


「俺たちは、仲間だ。何度も何度も勝負する仲間だ。なぁそうだろう?」


 タカフミの背後でユウヘイとハツミが、仕方なさそうに苦笑した。


 呆気にとられたミチオが、毒気を抜かれたような表情を浮かべた。


「今日のところは俺の負けだしな。仕方ねぇ……」


 そう言って差し出された手を掴み、立ち上がる。


「だがな、俺は絶対にいつかお前を倒すからな王様。そこんところ忘れるな」

「勿論だ。いつでもかかってこい」


 不敵に笑みを交わすタカフミとミチオ。


「僕だって《王者》妥当を諦めたわけじゃないよ」とユウヘイ。


「あら、わたしだって」とハツミ。「いずれあなた達全員、わたしの虜にしてあげるから」


 タカフミが二人を振り返って頷いた。再び、タカフミのテーマ曲である《we will rock you》が流れてくる。


「ああ――やろう。また勝負しよう。何度でも、何度でもだ……!!」


 タカフミが力強く拳を突き上げる。


 大歓声が教室に満ち溢れ、それは割れんばかりの「we will we will rock you!」の大合唱となり、いつまでも辺りに響き続けた。



 興奮冷めやらぬ教室の片隅で、一人チサト先生は考えていた。壇上には合唱に合わせて拳を突き上げる《王者》タカフミの姿がある。


 何というかガッツリと教育方針を誤ってしまったような気もするが――気のせいだろうか。というかもう色んな部分が小学生の範疇を超越してしまっているし。勝負を通じて得られる尊い何かについては、きちんと伝わっている気もするのだが。


「とりあえず、あの子たち――プリンのことは、すっかり忘れてるわね」


 苦笑交じりに、呟いてみる。ふと面を上げれば、いつの間にか窓の外の雨はやんでいた。分厚い雲が割れて幾筋もの陽光が差し込んでいるのが見えた。



                                                              了




というわけで完結編です。

ここまで読んでいただき、どうもありがとうございます。

願わくば読者さま方が、この作品を読んでクスリとでも笑っていただけますように。

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