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第一話「はじまりの日のこと」

 仔馬は藁の中で目を覚ました。ぬめぬめした膜が、少女を包んでいる。それを破ると、光にあふれた世界があった。

 少女にはとっくに意思がある。こ(・)の(・)姿(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)初(・)め(・)て(・)の(・)日(・)を迎えて、彼女は人知れず笑った。

「約束って、本当だったんだ」


***


 新冠(にいかっぷ)町に、ある牧場があった。個人経営の小宮(こみや)牧場という。

 馬産最大手である生産牧場、安平(あびら)のサウスファームよりかは細々としながらも、八年に一度ぐらいの頻度で重賞勝ち馬を出すような、中規模なところだった。

 そんな牧場が、少しだけを無理をしてとある配合を試した。

 小宮出身の重賞三勝牝馬、ベーシックアンジュ。そこに、マイルGⅠを二勝したサウスファーム出身の新種牡馬、ホープチューン。

 ホープチューン側が良血なので、金はかかった。しかしそれはなあなあということにしておいて、牧場はこの二頭を繁殖させてみた。

 その結果、約一年後に一頭の牝馬が生まれた。彼女はするすると母の腹から出てきて、気付いたら生まれていた。

 牧場職員は、彼女の姿を一目見たときに、息を呑んだ。そして職員のうち、誰かが思った。

 まるで、天使みたいだ。

 父ホープチューンは確かに栗毛だった。それを遺伝しているのだろう。しかし、これではなかった。

 牝馬は、尾花栗毛という毛色を持って生まれた。珍しいものである。そして、造形そのものが天使だった。脱色した金の毛先に明るい栗色の馬体が、それを語っていた。

 職員達はそれを見た瞬間、こんな超良血で綺麗な子がこの牧場で生まれるなんて、ととにかくはしゃいだ。

 それを、牝馬は黙って見ていた。彼らを見上げるこの体の感覚を、まずは確かめながら。

「私、本当に馬になっちゃったんだ」

 馬の話し声は、人間には聞こえない。ベーシックアンジュも出産ですっかり疲れて、ぐったりしながらそこで眠っている。少女の声は、少女にしか聞こえなかった。

「約束って、本当だったんだ!」


***


――尾花栗毛の彼女は、彼女ではない。そう言うと矛盾しているようだが、これは事実である。

 元々、馬ではないのだ。では、なぜ今の彼女は牝馬としてベーシックアンジュという母から生まれ、この世に生を受けているのか。

 俗に言う、転生というものである。

 前世はリカという名前の、若い女だった。どこにでもいる、冴えなくてなんとなく人生にもやがかかっている感じの、幸の薄い女子高生だった。

 リカにも好きなものがあった。競馬である。競馬場に足繁く通い、人馬のドラマを見ることをこよなく愛した。彼女は競馬があれば救われる、とさえ思っていた。

 だが、少女はある日から目を覚まさなくなった。再来週にGⅠがあるというのに、それを見ることさえ叶わず、この世を去ったのだ。

 他殺だった。

はじめまして。ヰ田々といいます。「いただ」と読みます。

普段は短編カフェというサイトで細々とやってます。

小説家になろうでは主に、短編カフェに今後上げる予定のシリーズ小説を先行公開していきます。それがこのシリーズです。

今回は第一話です。

競馬という少し馴染みの薄いジャンルですが、楽しんでいただけたら幸いです。


ここの操作方法にもまだ慣れていないので、ミス等あったら申し訳ございません。努力はしていきます。

よろしくお願いします。

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