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聖女ミヨの冒険  作者: 白河夜舟


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1/3

その1 泣き虫聖女

 なんだよ、俺の話を聞きたいってか?

 大したことは知らないぜ?

 なんだよ、酒を奢ってくれるってか。

 まあ、そういうことなら、な。


 俺の出身?

 それ、なんか関係あんのか?

 背景、ね。

 北方の辺境で農奴の子供だなんで、ゴロゴロいるだろ?

 戦争に巻き込まれて、住む所を失っちまったなんて、ありふれた話だろ?

 で、食い扶持目当てで、傭兵団に転がり込んだって訳よ。

 ああ、そうだな、4年居た、と思う。

 仲間の入れ替わりが激しい団だったが、待遇は悪くなかったと思うぜ。

 あ、人を殺したことがあるかって?

 そりゃそうだろうよ、それが仕事だからな。

 あんなもんは、慣れだよ、慣れ。


 村を二つばかり、略奪に加わったこともあるぜ。

 抵抗する村人たちを、殺して回って。

 村の女たちを囲って、皆で片っ端から犯して回って。

 それから連中に食事や酒の用意をさせて、そのまま三日位、滞在するんだ。

 その後、女たちは手配した人買いどもに売り渡したぞ。

 さすがに連れ歩けないからな。

 なんだよ、そういう話が聞きたいんじゃねえのかよ。


 で、4年目に、向こう側の騎士団に強い連中が出てくるようになって。

 あえなく、所属していた傭兵団が壊滅したんだわ。

 俺は、何とか逃げ延びて。

 でも、野盗団に加わって、いつまでも人里を離れて暮らすなんて事は、俺には無理だからな。

 その野盗団の連中から、オラクルの大聖女が入れ替わって、スキが出来ているらしいという噂を聞きつけて、この街までやって来たって訳よ。

 だってよ、門番から身分証明とか言われてもよ。

 俺、元々そんなもん、持ってないからな。

 調べれば分かるんだが、元は農奴だからな。

 それじゃ、主人の元から逃げてきたって扱いになっちまうだろ?

 だから、脇の甘いこの街に潜り込んで、住民カードを貰っちまえば、身分が保証されるって寸法よ。

 まあ、月に一度、人頭税を払い続けないといけないけどな。

 都市に入るのは、門番にワイロを渡せば、案外チョロかった。

 しかも、ここでは兵士を募集していて、そこでついでに登録して貰えた。

 ただ、兵士と言っても、最低限の給金しか貰えないんだよ。

 ただ、な。

 領主様に何かあったら、忠誠を誓うように。

 後は好きにしていい、とか言われた。

 そんなので小遣いが貰えるなら、成らない手は無いよな?

 で、後は自分で稼がなきゃならないらしい。


 俺みたいなのが仕事に就くには、冒険者ギルドが一番だよな。

 あそこなら、俺みたいなゴロツキにも、なじみ深いしな。

 住民カードならぬ、兵士カードをカウンターの小ぎれいなネエちゃんに提出すると、そこに冒険者として掛け持ち登録して貰える。

 ランクは、Gかよ。まあ、まだ何にもしてないからな。

 傭兵稼業の間に、たまに冒険者連中と一緒になることがあったが、今まで見た中では、Cランクの剣士が凄かったな。あれは勝てねえ。

 お付きの僧侶と一緒だったが、ソイツに武器持ち荷物持ちを引き受けて貰えるんだよな。羨ましい限りだぜ。

 俺もバンバン稼いで、そういう身分になりたいものだ。


     ~ ・ ~


 そういうつもりだったんだが。

 初心者の冒険者として、講習を受けなきゃならない羽目になっちまった。

 講師はC級のローブ姿のチビ。

 フードをしっかり頭からかぶって

 顔にも、地味なスカーフみたいなもんを巻いて。

 目、以外は見えねえ。

 コイツがC級?

 とてもそんな風には見えないんだが、斥候としてのC級と言われて、納得した。

 で、初心者講習の受講者がもう一人。

 女じゃねえか。

 聖女だと? 付き人は、いないのかよ。

 自分の所の教会で、用意できないのかよ?

 “野良聖女”って奴かよ。

 冒険者ギルドの酒場で、エールを飲みながら仕入れた噂だが。

 この街の大聖女が、ライバルになりそうな聖女たちを排除するために、付き人と強制的に別れさせるらしいんだわ。

 その被害者って奴なのか、それ以前に何か問題があるのか。

 なんにせよ、全く、ろくでもない女と組まされちまったな。

 あ、俺が付き人になれってか?

 冗談だろ?

 聖女は、普通の僧侶とは訳が違うからな。

 付き人になんかなっちまったら、そのまま飼い殺しにされるんだぞ?

 それに、聖女が死んだら、付き人も一緒に死ぬ。

 付き人が死んでも、聖女はなんでもない。

 こんな一方的な話があるか?

 冒険者ギルドめ、こうやって俺とその女を一緒に行動させれば、俺が付き人になるとか思ってるんだろ。そうはいくかよ。


「聖女ミヨと申します。本日は、宜しくお願い致します」

 律義に頭を下げに来る、聖女。

 白地の一枚もので全身を包む聖女服の縁は、黄色い文様が描かれている。

 白い垂直の、1ヤード位の長さの杖の先端が太く丸まっており、それなりの理力を使えるらしい。

 ま、野良聖女だから、期待は出来ないがな。

 この辺では珍しい、小柄な東方系らしいな。

 黒い真っすぐな髪が、肩越しまで伸びて。

 同じ色の大きな瞳が、無防備に俺を見つめてくる。

 よく見ると、結構な美人だとは思う。

 だが、体型が致命的だな。まるでガキだ。

 女は胸と尻が大きくて、腹がくびれていないとな。

 お前、まるで話にならないんだよ。

「ああ」

 名乗るほどのもんじゃない。そんなもの、意味なんかない。

「あの、お名前をお聞かせ頂いても、宜しいでしょうか?」

「別にどうでもいい。好きに呼べ」

 そう言うと、広い額にしわが寄って、困った顔をされた。

 女のくせに、うるさい奴だな。

 黙ってついてくればいいんだよ。

 どうせ今日限りのパーティーなんだからよ。

「ゴロンだ」

「ゴロンさんですね! 宜しくお願い致します」

 そんなに嬉しいのかよ、名前を名乗った位で。

 変な奴というか、世の中で擦れてなさそうだな。

 そんな俺たちの様子を見て、チビが加わって来た。

「デンだ。初心者講習として、ギルドから費用がでる。任務終了後に受付から支払われる」

 ああ、知ってるよ。

 そんなの当然の事なんだが、ミヨは真剣に、チビの言葉に耳を傾けている。

「任務は、ゴブリン退治だ」

 だよな。アイツラは、まるでカネにならねえ。

だから冒険者ギルドに依頼が来ても、誰もやりたがらねぇ。

 それで、こんなおままごとな講習会でも開いて、ギルドがカネを出してでも、引き受けなきゃならねんだろうな。

「移動と食事も、ギルド持ちだ。任務の途中で得た戦利品は、山分けでいいな?」

 チビなんかに仕切られるのは癪だが、ランクが上なのでしょうがない。

 俺も、その女も、ランクG。何の成果も上げていない訳だしな。

「準備ができ次第、出発する」


     ~ ・ ~


 揺れる馬車に乗って、オラクルの周囲にある田園地帯を抜けていく。

 この都市に住まう領主様は、伯爵の身分。

 その伯爵と、家柄やら何やらで繋がりを持つ、子爵様が周囲を治める領内。そこの小さな村の周辺に、ゴブリンどもが最近、出没しているんだとか。

 で、子爵が自分の所の兵隊を出すのを嫌がったんで、村人たちがオラクルまでやって来て、ゴブリン退治を依頼したんだとか。

 けっ、面倒臭い話だぜ。

 村の平和を守るために、崇高なる使命を果たすのです、と、聖女が息巻いているが。

 たがかゴブリンに、そこまで思い入れなんか、ねえよ。


 聖女は、アーリューシャインとかいう、聞いたことのない女神様に仕えているんだそうで。

 最近、聖女の任を受けたんだとか。

 なるほど、道理で擦れていないわけだ。世間に出ないで、ひたすら教会で修行していた口かよ。

 付き人はどうしたんだ、と聞くと。

 成り手が、いませんでした、と、がっかりした顔をする。

 い、いえ、ゴロンさんに付き人になって欲しいとか、そういう事ではありませんよ?

 何かに気づいたように、慌てて両手を振られたけど。

 元々、その気はないぞ。何言ってるんだ?


     ~ ・ ~


 太陽が中天に差し掛かる頃、ようやく村に到着した。

 人口は100人程度で、あまり役立ちそうもない木の柵で家と畑が大きく囲まれている。

 村長宅が、小さな宿屋を兼任しているらしく、まずはそこに連れていかれた。

 C級のチビが、村長と話をして、任務に着手すると告げている。

 3日間は、宿と食事の提供を受けられるようだ。

 3人で金貨一枚の報酬だから、一人当たり、大銀貨3枚と少し。

 普通、一日働いて、大銀貨1枚だからな。

 本当に、報酬が安いな。宿代と食事代位、出ても当たり前だな。


 早速、俺たちは木の柵の辺りを回って、ゴブリンの動静を探る。

 C級のチビがいち早く何かを見つけたようで、地面に顔を当てて、何かを確かめている。

「強硬偵察だ。かなり多い」

 へえ、そうかよ。

 でも、あんなもの、何匹いても同じだろ?

「村の男たちの応援が必要だ」

 そうなのか?

 報酬が減るんじゃねえのか?

「一度戻るぞ」

 チビがそう言って、村長の元に戻ったが。

 村長は、渋い顔をした。

 まだ何の被害も出てはいない中で、村人たちを動員させても、納得してくれないのではないか?

 そんな風に言われたんだが。

「分かった。ならば数が多いと証明できたら、報酬を倍にしろ」

 チビはそんな風に交渉を始める。

 村長、かなり渋ったが、最後は折れた。

 出来ないなら帰る、というのが、効いたらしい。


「偵察は一緒に行く。初心者講習だからな」

 そう言われて、俺と聖女はチビについていく。

 道中、ゴブリンの足跡の見分け方や、罠の見破り方を簡単に教わった。

 俺はよく分からなかったが、聖女は熱心に聞いていたな。


 チビの足が止まった。

「あの丘の裏が拠点だな」

 背の低い草原の奥に見える、小高い丘。

 チビは、まっすぐその方向を見つめている。

「こっちも、見つかっている」

 まあ、遮るものがない平原だからな。

 丘の上に見張りがいれば、見つかるのは仕方がないのか。

「戦闘になりそうだが、どうする?」

「そりゃ、戦うだろう」

「オレはしばらく見守っている。危なくなったら手を出す。ただしその場合、報酬の半分を貰う」

 げ、こんな所で交渉かよ。汚ねぇ手口だな。

「女、役に立たなかったら、報酬は無しだからな」

「は、はい!」

 返事だけはいいな。


 うわ、来やがったな、ゴブリンども。

 確かに多い。20匹ほどは、いるみたいだな。

 棍棒か短剣程度しか、持ってはいない。

 俺は手持ちのスリングで、数を減らしに掛かるが。

 くそぉ、当たらねえな。的が小さいんだよ。

 聖女が杖にすがって祈ると、光の障壁が出現した。

 俺はその光の中に入り、ヤツラがお返しとばかりに投げてきた小石から身を守った。

 その内に、すっかり取り囲まれちまったな。

 まあ、光の障壁の中にいるから、安全ではあるんだが。

 ただ、このままだと、埒が明かない。

「聖女、なんか祝福とか、持ってないのか?」

「アーリューシャイン様が施される力の祝福は、付き人にのみ、施されます」

 なんだそれ。ケチ臭いにも程があるだろ。

「他に何かないのか」

「眠りの祝福がありますが、魔物たちの戦意が高いと、殆ど効き目はありません」

 そうかよ。結局、戦わないとダメってことか。

 チビはチビで、我関せずって風に、俺を見ているし。

 ああ、そうかよ。戦うのは、俺の仕事だもんな。

「治癒術は付き人で有る無いに関わらず、施せますので」

 そうらしいな。そういうものでもないと、お前は何の役にも立たないからな。

「あと、戦利品は、女神さまに奉納することで、持ち帰れます」

 ああ、なんか、そういうことが出来るみたいだな。

 でもな、こういうのはな、戦ってナンボ、身体を張ってナンボなんだよ。

 女だからな。何の役にも立たねえんだよな。

 くそぉ。

「出る。ヤバくなったら戻るからな」

 俺は大きく息を吸い込み。

 戦士らしく吠えて自分の士気を高めつつ、ゴブリンどもの群れに突っ込んだ。


 傭兵時代からずっと愛用していた、鉄製の小剣(ショートソード)と。

 あちこち直しながら使い続けている、皮の盾。

 肝心な所をキチンと守ってくれる、皮の鎧。

 後は、俺の戦士としての経験。

 俺の勢いにひるんで下がっていくゴブリンの頭を、小剣で突き刺し。

 右のゴブリンの胸にも、一撃を食らわせる。

 左、正面、上から反撃してくるゴブリンどもに。

 盾を振るい、頭を振ってかわし、もう一匹の短剣は、皮鎧を掠めさせるようにして何とかしのぐ。

 二匹にそのまましがみ付かれたが、振り払って小剣を突き刺す。

 血糊の付いた剣を一振りして、周囲を睨む。

 今ので5匹仕留めた。残り、14、5匹か。

 俺を手強いと認識したのか、半包囲したまま、互いの顔を見るゴブリンども。

 オマエガ イケヨ

 オマエコソ イケヨ

 俺たち人族には分からない言葉で何か言いあっているが。

 おおかた、意味はその程度だろう。

 俺は息を整え、再び突っ込んでやろうと身構えた。

 その瞬間、ヤツラが一斉に飛び掛かってきやがった。

 正面の二匹は振り払えたが、左右の二匹に取りつかれた。

 右腕と左脚を刺され、右の脇腹を棍棒で殴られる。

 盾を振り回して、左側の連中を払いのけて。

「死ねヤァ!」

 棍棒を持つゴブリンの左目に、小剣を突き刺して。

 もう一度短剣を差してこようとしたゴブリンは、傷を負った足を振り上げて、蹴っ飛ばしてやった。

 くそっ、ザコ共の癖に。痛ってぇな。

 いったん撤退、とばかりに下がり始める俺に、ゴブリンどもが歓声を上げて迫ってきやがった。

 こういうもんは、引いた方が負けなんだよ。

 俺は吠えて、小剣を右に左に振り回す。

 ひるんだすきに、光の障壁の中へ駆け込むつもりだった。

 だが、ヤツラはひるまない。

 再び、左右に二匹づつ分かれて、同時に攻め立ててくる気だ。

 それ、何気に厄介なんだよな。

 小剣を向け、盾をかざし、声で威嚇しながら、少しづつ下がったんだが。

 見透かされちまったのか、一斉に掛かってこられた。

「こなくそがぁ!」

 勢いよく振り回した小剣が、空を切る。

 かざした盾を、逆に二匹がかりで掴まれてしまう。

 左脚に取りつかれ、短剣を太腿に突き刺されて、俺は絶叫した。

 足ごと振り払おうとしたが、バランスを崩して、そのまま仰向けに倒れちまった。

 ゴブリンどもが嬌声を上げて、俺に覆いかぶさってくる。

 こんな所で死んでたまるか!

 俺はなんとか起き直ろうとして藻掻いた。

「コラァ、あっちにいっちゃえ、いっちゃえぇえ!」

 か細い、あまりに細い、女の叫び声。

 しかし、その決死の勢いにゴブリンどもが一瞬たじろいて、周囲に散っていった。

「光の女神アーシューシャイン様、どうかその光によって我々をお守り下さい、光の障壁(ライト・シールド)!」

 起き直った俺の目の前で、聖女が杖を高く掲げ、光の障壁を展開させていく。

 た、助かったのか…

 聖女が、俺に縋り付いてくるかのように、迫って来た。

「ああ、生きてた、生きていてくれた!」

 なんだコイツ、涙で顔がグシャグシャじゃねえかよ。

「光の女神アーリューシャイン様、この者の傷を癒したまえ、治癒術(ヒール)!」

 ゴブリンどもに刺され、殴られた傷が、少しづつ癒えていく。

 気持ちが、身体が、癒えてくると同時に、俺は怒りが込み上げてきた。

 女のくせに、なんて危ない真似をするんだ!

「なんで、突っ込んできた! お前、死ぬぞ!」

 叱り飛ばしてやると。

「だって、ゴロンさんが、ゴロンさんが死んじゃうじゃないですか!」

 身体に似合わない大きな声で、聖女が怒鳴り返してきやがった。

「やだぁ、死んじゃダメ、ダメですからぁ…」

 そして、怒鳴るそばから、また泣き出しやがった。

 体つきはともかく、顔だけは、まあマシな方なのに。

 すっかり、台無しじゃねえかよ。

 はぁ、これだから、女って奴は。

 俺が死のうが何だろうが、お前はとっとと逃げろよ。

 俺が死んだら、誰がお前を守るんだよ。

 バカじゃねえのか。女を守るのは男の役割だぞ。

 何で、俺がお前なんかに守られなきゃならねえんだよ。

 ああ、くそぉ!

 身体は動く。

 まだ戦える。

「ごおぉおらぁああ!」

 周囲に響き渡るような声で、気合を身体の中に叩き込む。

 野良聖女ごときに追い払われて、怒りに燃えているゴブリンどもの中に、俺はそのまま突進していった。

 ヤツラも同じように、そのまま真っすぐに突っ込んできたが。

 左右に分かれて囲まれさえしなければ、お前らなんかザコなんだよ!

 何発か貰う間に、俺はゴブリンどもを何匹か殺していった。

 やがて、10を削る程に数を減らしたゴブリンどもは、蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出していきやがる。

「光の女神アーリューシャイン様、闇の眷属どもに眠りの霧(スリープ)を!」

 聖女がかざした杖からの光で、ゴブリンどもが一斉にバタバタと倒れていく。

 は、こりゃいいや。

 俺は片っ端から、倒れたゴブリンどもにトドメを刺していった。


     ~ ・ ~


 聖女は穢れてしまうため、魔物に直接触れるような処理は出来ねえ。

 俺とチビで手分けして、ゴブリンどもの胸を捌いて、魔石を取り出す。

 棍棒と短剣も、ゴミ扱いだが、無いよりはマシだ。

 ゴブリンの死骸と、剥ぎ取った奴らの装備品を一か所にまとめる。

 聖女が杖にすがって祈ると、死骸は光に分解されて消えていく。

 装備品は、聖女が信奉する女神の元に献上される。

 街に戻ったら、そっくりそのまま、引き出させればいい。

 なるほど、便利なものだな。

「このままゴブリンどものアジトまで向かうが、お前たちはどうする?」

 チビが変な事を言いだしやがった。

 お宝を独占する気か?

「行くに決まってるだろう」

「お供致します」

 チビは頷いて、ゴブリンどもの巣穴があるらしい、丘に向かって歩き出した。


 巣穴に着いたんだが、何分、入口が小さいな。

 周囲には、ヤツラが散らかした生活の後が残っているんだが、誰もいない。

 確かに、ここが奴らの巣穴なんだがな。

「入口が小さいから、ホブは生まれることが出来なかった」

 チビがそんなことを言うと。

「ここで待っていろ」

 そう言い残して、さっさと穴の中に入っていった。

「あ、あの!」

「お、おい!」

 何を勝手な事をしてるんだよ。

 確かに俺たち人族では入れない大きさだけどよ。

 それにしたって…

 一刻(15分)も立たないうちに、チビが出てきた。

 手にはゴブリンのメスの死骸が、2匹。

 胸元が、鮮やかに切り裂かれている。

「まだいる」

 そう言い残して、また穴の中へ。

 結局、3往復して、メスの死骸をもう一匹と、袋詰めしたゴブリンの子供が6匹程。

「金目の物とは言えないが」

 錆びた鉄の長剣と兜、腕輪を持ち出してきた。

「聖女ミヨ、巣を浄化できるか?」

「はい」

 聖女が巣穴の前で杖にすがり、長い祈りを捧げると。

 光の粒のようなものが杖からふわふわと漂い出て、穴の中に入り込んでいく。

その間に、俺とチビで、ゴブリンの死骸から魔石を取り出し終えた。

「終わりました」

「よし、これも女神へ奉納しろ」

「はい」


     ~ ・ ~


 辺りはすっかり暗くなったが。

 聖女の光の奇跡が杖から顕れるので、周囲はよく見える。

 俺たちはそのまま歩いて、依頼者の村に向かった。

 暗闇に光の奇跡が見えるので、俺たちが生きて戻ってきている事が分かるらしく、村長や村の連中は、帰りが遅くなった俺たちの事を喜んで出迎えてくれた。

 村長の家で、チビが取りだした魔石の数を見て、かなり驚かれたが。

 さすが冒険者だ、大したもんだと、もてはやし始めた。

「数が多いと言った。報酬は倍だ」

「いや、しかし、たかがゴブリンですからにして…」

 ここでも、値切り交渉かよ。

 俺は、命懸けで戦ったんだぞ。くそぉ、ちゃんと払えよ。

 結局、半分の大銀貨5枚の追加で、手を打たれた。


 依頼証明書へのサインと、簡単な夕食を貰い、その日は、そのまま村長の家の宿に泊まった。

 部屋に入った俺たちに、チビは、場合によっては村人は報酬を払わない場合があるという事、なので、交渉はキチンと行うように、と指導を受けた。

 まあ、こういう事は、実際に見て見ないと分からねえもんだな。

 初心者講習か。確かに、役に立つのは認める。


     ~ ・ ~


 翌朝、村の馬車で、オラクルへ送って貰う俺たち。

 市場に出す商品の片隅に座る俺たちは、このちょっとした冒険の稼ぎに満足していた。


 昼刻前にはオラクルに到着し、そのまま、冒険者ギルドに向かう。

 チビが依頼証明書を提出し、俺と聖女は冒険者カードを提出する。

 成果を出したんで、晴れて俺も聖女もFランクに昇格だ。

 ゴブリンの魔石の買取は、ほぼゴミではあるが(一個につき小銀貨1枚)、他のクズ装備品を加えて、大銀貨3枚で買い取って貰えた。

 錆びた長剣と兜、腕輪は、合わせて大銀貨2枚。状態が悪すぎたらしい。

 依頼料はチビの交渉で、金貨1枚と大銀貨5枚。

 合計で、金貨2枚になった。

 俺も、聖女も、初めての依頼をこなした興奮で満たされていた。

「オレが手を出した時点で、依頼料の半分を貰うぞ」

 チビがそんな事を言いだして、金貨を1枚、手元に引き寄せていった。

 山分けじゃねえのかよ?

「村長との交渉、ゴブリンの巣穴の探索は、最初の依頼分とは別だ」

 まあ、そりゃそうだけどよ。

 まあ、しょうがねえよな。

「じゃあ、残りは俺が貰うぜ」

 そう言って、金貨を握る。

「え、わたしの報酬は…」

 俺は鼻を鳴らす。

「お前は戦ってないだろう? 何もしない奴に、支払う金はねえんだよ」

「そ、そんな…」

 悲しそうな顔をする聖女。

 これだから、女って奴は。

「大体、お前は危なっかしすぎる。冒険者なんて向いてねえよ。やめちまえよ。そのうち、死ぬぞ」

 ゴブリンの群れに突っ込んできたコイツ。

 泣きながら、俺が死んじゃうと叫んだコイツ。

 ダメだ、コイツは冒険者をやるには、あまりに甘すぎる。

 ここで断ち切っておかないと、いつか必ず死ぬぞ。

「泣き虫聖女じゃ、冒険者は務まらねえんだよ。諦めな」

 俺は、決め台詞を残して。

 呆然としている聖女を残して、冒険者ギルドを立ち去った。


 後から聞いた話だが。

 チビが憐れんだらしく、大銀貨2枚を個人的に与えたんだそうだ。

 なので、俺は冒険者ギルドの酒場で、あの白い服の聖女は、戦っている俺の後ろで泣き叫んでいたと、散々噂を流してやった。

 これで、あの娘は冒険者を諦める事だろう。

 きっと、そうに違いない、んだが…


     ~ ・ ~


「それで“泣き虫聖女”と呼ばれてたんですか。いやぁ、とても参考になりましたよ」

 身ぎれいな吟遊詩人は、そう、俺に礼を述べた。

 今、その泣き虫聖女は、新たに得た付き人と共に、吟遊詩人たちの間でしきりに謳われている。

 ちっ、余計なことまで、話してしまったかも、しれない。

 コイツ、話を聞き上手な上に、結構高級なワインを、惜しげもなく何杯も奢ってくれたからな。

 まあ、酔ったうえでの話だからな。多分、大丈夫だろう。



 それにしても、あの娘が、ねえ。

 世の中っていうのは、なにがどうなるか分からないもんだな。



                         (終わり)

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