つぶ プロローグ
空はどんよりとしたねずみ色の雲に覆われていて、雨がしとしとと降り続いている。
白沢澪は、白い息を吐きながら、マフラーに顔を埋め、学校帰りの道を歩いていた。
雨がパラパラと傘を叩き不規則なリズムを刻む。
車がシャーという音を引き連れて、あっという間に追い越して行く。
ヒヤリと私の頬に風が触れる。
「あー、寒すぎ……」
小さく体を震わせた。
晴れていれば、犬の散歩や買い物に出かける人、遊びまわる小学生の子供達ので賑やかな街も、音が抜け落ちたようだった。
「雨か……」
口を尖らせ、どこに向ける訳でもなく呟いた。
傘の柄をくるくる回し、トントンと地面をけりながら歩く。
雨も嫌いじゃいけど、何か寂しくなる。
冬の雨。
なんか詩的じゃん。
私って天才?
一人笑っていると、
ブウッ……ブウッ……
お腹の辺りが震える。
片手でブレザーのポケットからスマホを取り出し画面を見た。
従妹の時村咲からだった。
母の姉の子で同い年。
けれど誕生日が私の方が早いから、お姉さんという事になっている。
咲とは、ほぼ毎日のようにメッセージや電話をしている仲で、古い友人とは別のかけがえのない存在である。
「もうすぐクリスマスやね」
それを見て、私は小さく微笑む。
咲の誕生日は来週。
その一週間後がクリスマス。
「咲、なんかほしいものある?プレゼント交換しようよ」
『いいね、澪は何が欲しい?』
「咲からでいいよ」
『うち?なら……かんがえとくわ』
「オーケー、私も考える」
『じゃあ、またね』
「またね」
ニヤニヤしながら、スマホをブレザーのポケットにしまう。
パシャン――
足元にあった水たまりから跳ねた雫が、ふくらはぎに冷たい感触を運んだ。
「つめた……」
『……』
ん?
何か、聞こえてような気がした。
首を捻りながら、雨音以外聞こえない静かな住宅街を進む。
薄暗いせいか、電柱の外灯に明かりが灯り始める。
道の先にある公園の木々がゆらゆら枝葉を震わせると、じきに風がザーッツと吹き付けた。
傘を前に倒してやり過ごそうとしけど、バタバタと傘が暴れて、柄の根本を片手で持って支える。
抜けいていく肌を刺すような風が、ポニーテールの髪をはためかせ、スカートを膨らませる。
「さむ……」
グッと身を縮めながら歩く。
風が止んだその時。
雨粒が一つ。
頬に触れる。
一点に冷たさをもたらし、ヒヤリとした道を作って消えた。
「こっちにおいで……」
「え……?」
思わず立ち止まる。
確かに聞こえた。
女の子とお婆さんと、色々な声色が混じった、かつて耳にした声。
「なんで……?」
私は小さく呟いた。
ブルブルっと体が震え、サッと振り返り、周りを見渡す。
誰もいない。
あの時以来、あの声は聞こえなくなっていたのに。
懐かしくも、怖くもある。
傘を傾け中から手を出した。
手のひらに冷たい雫がぽつぽつと当たる。
気のせい――だったのかも。
うなずいて、言い聞かせようとしたけど、頭の中には、あの二年前の記憶が鮮明によみがえってきた。
お読み頂きありがとうございます_(._.)_。
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