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水の声  作者: ぽんこつ


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2/15

しぶき

――二年前。

16歳の夏。

私は窓の外に流れる景色を見つめながら頬杖をついた。

霞色の空に、飛行機雲が細い筋を描いている。

穏やかな波が海面を揺らし、なだらかな山々が水平線の向こうに溶け込んでいる。

一年ぶりに訪れる母の実家――瀬戸内の夕凪島。

本当の意味での夏休みのはじまり。

ここいる間は、勉強という呪縛から解放されるから。

小学校の頃から、ほぼ毎年来ている、場所であり時間でもある。

都会とは違った空気が流れる空間。

「ただいま……でも、なんか違うな」

誰に言うでもなく呟いて、少しだけ笑った。

フェリーが桟橋に近づくと、船内に到着のアナウンスが響き渡った。

母と並んで港に降り立つと、むわっとした熱気が肌に絡みつく。

私は思わずポニーテールを結び直し、深く息を吸い込んだ。

迎えに来てくれていたのは、兄のような存在の時村蒼《ときむら あお》と、その妹の咲《さき》。そして、その後ろには蒼と咲の母、琉美子《るみこ》が立っていた。

蒼は身長180㎝の長身で、周りの人たちの中でもひときわ目立つ。

黒髪をサラサラに整えたセンターパートが、なんだか真面目な感じを出していて、いつも冷静で落ち着いている雰囲気。

咲のヘアスタイルはショートボブで、いつもは元気いっぱいに笑っている。

チアをしているからか、肌が日に焼けていた。

「おーい、澪ー!」

蒼の声は風に乗って届くと、咲が手を振って駆け寄ってくる。

「ほんまに久しぶりやな!」

「うん、元気だった?」

「うちは毎日元気やで! 蒼兄《あおにい》は最近ヨガばっかやけど」

「ヨガは関係ないだろ、咲」

そんな他愛ないやりとりが心地よくて、やっぱりここが好きだと思った。

咲に手を引かれ、琉美子が運転するワンボックスカーの後部座席に乗り込む。

私、咲、蒼の三人が並んで座る。

私の母も透子も、姉の琉美子に会えて楽しそう。

「今回は一週間やったっけ?」

「そうだよ、ていうか蒼兄《あおにい》、ヨガって何?」

「うん、それはだね……」

蒼兄は至極真面目にヨガの話をし出した。

咲は私に顔を近づけて、

「話長いから」

耳元でそっと囁き、イーッとした顔をして笑う。

車は街中を抜けて山の合間を進んで行く。

結局、お寺に着くまで蒼兄は一人で喋っていた。

『水月寺《すいげつじ》』

時村家代々のお墓がある。

時村家は古い家系で、源平の時代にまで家系図をさかのぼることができると、母の祖父がよく話していた。

祖父は、先祖が平家の落人だと何度も語り、その話はまるで遠い昔話を聞くようだった。

屋島の戦いで敗れた平家の猛将、平教経《たいらの のりつね》(国盛)の奥方、側室の温御前《ぬくごぜん》とその娘、砂振《さふり》が、この島に落ち延びて匿われたという。

山の中、緑に囲われた水月寺の山門をくぐると、さんさんと降り注ぐ陽射しが、砂利道を白く照らしていた。

四方から聞こえる蝉の声に包まれ、参道を進むと、住職が掃き掃除をしていた。――村の人からは「おじゅっさん」と呼ばれて親しまれている。

私たちに気づくと、目尻にたくさんの皺を作った。仏様のような他砂しい笑顔。

「おや、透子さんに、澪ちゃん。よくお参り下さいました」

おじゅっさんは、竹ぼうきを立てて、優しい声を発した。

「おじゅっさん、うちらも来たんよ」

「ああ、咲ちゃんに、蒼くん、琉美子さんも、ようお越しくださいました」

私はおじゅっさんが好き。

やさしくて、物知りで。

おじいちゃんみたいな存在。

挨拶を終え、私たちは墓地に向かう。

墓地はそれほほど大きくないけれど、すでにお墓参りをされた墓石の前には鮮やかな花が供えられていた。

時村家のお墓は、確かに家の歴史を物語るのか墓石はきれいなものではないけど、大きい石碑のような物でところどころ、でこぼこして年季がある。

咲がパシャッと柄杓で水を掛けた、その滴が目に入る。

「もう……咲」

「……」

「あちゃ、ごめん」

あれ?

咲の声……か。

それから、お線香に、咲と一緒にライターで火を着けると、仏壇の匂いがする。

母親たちが花を花立てに丁寧に供え。

みんなで手を合わせる。

そして、お寺へと戻る途中、一人の男性とすれ違った。

「な、イケメンなや」

小声で咲は耳うちをする。

無造作に整えられた髪。

切れ長の目。

背が高くて、韓流アイドル様な色白の顔立ち。

手に抱えた花の香りと共に、軽く会釈をして通り過ぎる。

「確かに、イケメン」

「な、な、でも地元の人やないな、見たことない」

「へー」

何気に振り返る、その男性の背中の手前。

墓石の陰に制服姿の女の子が俯いて立っていた。

あれ?あの子っていたっけ?

「ねえねえ、咲」

私は咲を呼び止めた。

「ねえ、あの子……」

指を差した方向を、咲は指に顔を近づけて見つめた。

「だれ?」

「え?だから……」

一瞬目を離した隙に、女の子はいなくなっていた。

「誰もおらんやん、もしかして幽霊?」

ニヤニヤと咲は笑う。

「え?まさか、気のせいかな」

そうは言ったものの、何か背中がむずむずする。

隣の咲がぼっーとしていた。

「咲、どうしたの?」

「ん、ああ、別になんでもない、行こ」

咲は、何もなかったかのように、ニコッと笑い私の腕を取って歩き出した。

お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

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