第23話 ごめんね
アガーシャと、戦う……
アガーシャが「月曜日までに返事をしていただけたら嬉しいです」と連絡先を置いて教室を出ていったあと。教室は重苦しい雰囲気に包まれていた。
「ねえ……どうする?」
何も言えない私に代わって颯姫が言うと、チセちゃんが大きな声で言った。
「そんなの無理ゲーでしょう!相手は前大会優勝校のセンター、それに対してこっちはなんの経験もない初心者九人組ですよ?無理に決まってます!」
チセちゃんの言葉はもっともで。というか、私もそう、思っていた。思ってしまっていた。
「チセちゃん、でも、やってみないと分からないよ…?」
と花蓮ちゃん。でも……
「花蓮ちゃん…チセちゃんの言う通り、無茶よ…勝てるわけが無いわ」
花蓮ちゃんに答える実莉の言葉の方が、私には賛同できる。だって……無理でしょ。
「そ、そんな…瑠奈さん、瑠奈さんもなにか言ってくださいよ!」
泣きそうな悠里ちゃん。でも……ごめんね。
「無理だよ、無理に決まってるじゃん…私、アガーシャたちに憧れてアイドルになりたいって思ったんだよ?アガーシャ以上のパフォーマンスなんて出来ないよ…」
それが、私の本心だった。
私がハイドラに出たいと思ったのは、World Word Wondersの圧巻のパフォーマンスを見たから。あれ以上のパフォーマンスなんて、私にはできない。正直、優勝したいとは思っていたけど、World Word Wondersと戦うなんて考えてもなかった。そんなの……負けるに決まってるよね。
私の言葉のせいかしんと静まりかえった教室。そこに、冷たい声が響き渡った。
「瑠奈ちゃん。あんたの思いはその程度だったん?」
顔を上げると、そこには。
泣きそうな、でも怒ったような顔をした真奈ちゃんが、ぐっと拳を握りしめて私の方を見ていた。
「優勝したいんじゃなかったん?World Word Wondersに勝ちたいんじゃなかったん?瑠奈ちゃんの優勝したいは所詮その程度の気持ちだったってことなん?本気でハイドラに出たかったんじゃなかったん、そのために今までメンバー集めとか作詞とか頑張ったんじゃなかったん!?そがんこと言いよったら絶対勝てんよ!」
真奈ちゃんの言葉一つ一つが、私の心に突き刺さる。真奈ちゃんの怒りもわかる、分かってるんだよ。
だけどさ。現実的に考えてよ。
「その程度とかじゃない。私たちは現実を見てるんだって。現実的に考えて、出来ると思う?あっちは前大会優勝校のセンター、こっちは未経験者の集まり。無理に決まってるじゃん!」
思わず語気が荒くなってしまう。悪いのは私、分かってる。だけど、出来るはずないのにやって傷つくのは、誰だって苦しいじゃん。
なにより……私の欲でやりたいって言ったことにみんなを巻き込んでて、私が悪いのにみんなが「負けた」っていうレッテルを貼られることに、私は耐えられない。
だったらいっそ、不戦敗の方がまだマシでしょ?
「やりたいよ、やりたいに決まってるよ!だけど、出来ると思う!?素人がプロに勝てると思う!?大体メンバーだって決まりきってないのに、そんな状態で勝てるわけないじゃん!」
私が真奈ちゃんに向かって叫ぶと、真奈ちゃんは少し驚いた顔をしたあと、とても冷たい目で私を見て、口を開いた。
「もういい。瑠奈ちゃんがそんな気なら私らは私らで勝手にやらしてもらうわ。悠里、花蓮、帰ろ。相手にするだけ無駄じゃ」
そう言って、悠里ちゃんと花蓮ちゃんの手を引っ張り出ていく真奈ちゃん。そんな真奈ちゃんを止めることは、私には出来なかった。




