第23話 現実世界への影響
今回は尾野 駿がゲーム世界に転移した後の現実世界の話です。
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―現実世界―
「<先週から続く連続婦女暴行未遂事件の速報です。本日午後3時、都内の繁華街にて22歳の女性が――――>」
「<最近このような事件が続きますね、森口さん>」
「<はい。確かに多いですが、最近このような事件には妙な共通点がありますね>」
「<と、いいますと? どのような共通点が見えるのでしょうか?>」
「<先週から頻発して起きている婦女暴行未遂事件は、真昼間の人通りの多い中で突然、容疑者達は犯行に至ったようです>」
「<確かに。通常であれば人目の少ない場所で犯行は行われるでしょう。これらには薬物の可能性はあるのでしょうか?>」
「<警察でも調査をしていますが、その可能性は低いようで――――――>」
「クソッ。またか!」
テレビに向かってそう怒りをぶつけるガタイの良い20代後半位の男は、悔しそうに顔を歪めた。
ここはとある大きな街のビルにあるオフィス。
怒りを露にした男以外でも、オフィス内では事件のニュースを見た後、悔しそうな顔を浮かべて仕事へと戻った者が大半を占めていた。
「……串田君。少し落ち着きましょう」
そう言って椅子に腰掛けながらまっすぐテレビを見る30代位の顔立ちが良い男性。
「斎藤さん。そうは言いますが、既にこれほど犠牲者が出ているですよ? それにゲームの世界に体ごと取り込まれたという訳の分からない状態になっている人も……」
「その件は既に承知してしますよ。確か20代の男性でしたね。彼は――――」
斎藤と呼ばれた人物は、つい先日ゲーム世界へと取り込まれてしまった人物の事を話そうとした。
すると、
「――――被害者の名前は『尾野 駿』。年齢は24歳、一般企業の会社員。先日の連休中に友人に勧められた例のゲームをやり終えた後、あの世界へと連れて行かれてしまったようですね」
と、そのオフィスに突如巫女姿の少女が入ってきた。
顔立ちは優しそうで美しく、黒い艶のある長い髪が人目を引いた。
巫女姿の少女の後ろには同じく神職の格好をした男も居た。
「これはこれは。榊家の琴音さんではないですか。それと、神澤さん……でしたかな?」
斎藤は素早く立ち上がり一礼する。それに串田も続き、オフィス内に居た人々も彼女の存在に気付いて仕事の手を一瞬止めた。
そんな彼等に琴音は微笑むと、皆、安心したように仕事に戻る。
「こんにちは、斎藤さん。今日は新しい対抗プログラムの進捗具合を確認しにきました」
琴音が挨拶を返すと、
「こんにちは。そちらは順調……とは言い難いですが、別室でご確認をお願いします。串田君。データとノートパソコンをお願いします」
斎藤はそう言うと、彼女達を別室へと案内をした。
串田は言われた通りノートパソコンを持ち、一緒に部屋へと入った。
そして、全員座ったところで、
「こちら……、ですね。ご依頼いただいたデータを作成したものです。後少しで完成する予定です」
そう言って、琴音にパソコン画面を見せる見せる。
「ほほぅ……」
映し出された情報を見ると琴音は満足そうに笑みを浮かべる。
「ご依頼を受けて作りましたが、こんなものが本当に必要になるのですか?」
串田は訝しむ目を琴音に向けながら問う。
「えぇ、悪霊はゲーム世界の展開を変えれば変えるほど、ゲームのストーリーという縛りが薄まり、強力な存在となりますからね。我々はそれに備えなくてはいけないのです」
琴音はそう説明するが、串田は納得していないようで、不満そうな顔で斎藤のノートパソコンを見た。
「さて、ではそちらはどうでしょう。何か進展はありましたかな?」
と、今度は斎藤が期待を込めて琴音に聞いた。
「はい。ゲーム世界に取り込まれた人物。尾野 駿の無事は確認されました。ですが、何故尾野 駿という人物が悪霊に目を付けられゲーム世界に連れて行かれたかは、まだはっきりとわかりません」
「原因がわからないのですか? と、いうことは第二、第三の尾野 駿のような被害者が出る可能性が……」
串田が焦ったように言うと、
「あー、それは大丈夫です。既にあの世界を覆うように結界を張らせていただきました。尾野 駿のような被害者は今後出てくる可能性は低いと思われます。問題は現実世界のようですね」
琴音がそう答える。
「はい。今週だけでも8件もあのゲームの影響と思われる事件が現実世界で起きているよですからね」
「そうですね……。神が作ったあの空間からの影響は抑えられましたが、ゲーム自体に呪いが付与されていますから、それを取り除かない限り現実世界での事件が減ることはないでしょう。
我々も全力を持って尾野 駿を救出し、ゲーム世界の悪影響の流出を止めるように努めます。して、尾野 駿さんが行方不明となってしまったわけですが、現実世界での対応は?」
琴音の質問に、次は串田が答える。
「尾野 駿さんの体ごとゲーム世界に行ってしまったため、ダミーの体を用意し、病気ということで現在住まい近くの病院で入院していることにしています。
両親や会社同僚の面会もありましたが、現在のところ問題はありません。
ゲーム自体の方も、ゲーム会社へ販売停止命令を消費者庁にかけて頂きました」
「なるほど、わかりました。既に出回ってしまったゲームを回収しない限り、事件が無くなるのはまだ先になる可能性がありますね」
琴音がそう言うと、
「残念ながら違法コピーも数多く出回っています。販売停止をした結果、インターネット上で広がりを見せており、現在ネットワーク部門の人間が対応に追われています」
そう串田は付け加えた。
「わかりました。我々はまたしばらくゲーム世界の調査を行います。しばらくここには来ることができませんので、現実世界の対応は引き続きよろしくお願いします」
そう言って琴音は頭を下げた後、出口に戻って歩き始める。
その後ろ姿を見て、斎藤は、
「ちなみに、救出の際は"どちら"で?」
と、聞いた。
琴音は歩みをピタリと止め、振り返り、
「どういう意味です?」
そう斎藤に尋ねた。
「……」
「……」
互いに沈黙する。
「……」
串田もその異様な雰囲気に呑まれ、言葉を飲み込み、様子を伺う。
そして、その沈黙を最初に破ったのは、質問をした斎藤であった。
「いえ、我々の祖先が過去、『秘密裏に手に入れたあの世界』で、貴女方がなにやら大規模な活動をしているという報告を受けていたので気になったのですよ」
そう優しげに言った。
すると、「ふぅ……」と、諦めがついたように息を吐き、
「……やはり"この世界"での救助は難しいと判断しました」
そう形容のできない複雑な笑みを浮かべながら言った。
その答えに対して斎藤は、
「そうでしたか。……では、救出の際は私も同行しましょう」
と言った。
「!?」
琴音はそれに驚いたようだった。
「今回の件は悪霊が関係する事件です。神が作ったゲーム世界内は敵だらけなのですよ? 霊的事件は専門外である皆様では危険ではないかと思うのですが……」
琴音はそう言うが、斎藤は、
「構いません。我々から事件解決の手助けを要請しておきながら、こちらが何もしないというわけにはいきませんからね。
それに現実世界に影響が無いように、琴音さんも色々と配慮してくれているようですし、私もご助力させて頂きたいので、準備をしておきます」
「そうですか……わかりました」
そう言って琴音は部屋から出ていった。
「……斎藤さん。彼女が言っていたこの世界ではない場所というのはもしや……?」
琴音が部屋から離れたのを見計らい、小声で質問をする串田。
「はい。彼女達は『妖怪界』で事件の解決を図ろうとしているようです」
「妖怪界……」
串田はやはりか。と、納得した。
「えぇ、我々が"今"居るこの世界ではなく、異界である『妖怪界』の荒野からゲーム世界と繋がろうとしているようです。尾野さんを助けるためにね」
「荒野ですか? まぁ、現実世界……いや、『人間界』と繋いだ場合、もしもの事があれば困りますからね。備えるのはわかりますが、軍が配備されている基地ではなくですか……。いや、もしかして近くに基地があるとか?」
「いえ、それが基地からも結構遠いようなんですよ……」
串田はそれを聞いて驚く。
「基地周辺ではなく荒野を選んだのはどうしてでしょう?」
頭を傾かせ、考える串田。
「どうやら彼女も何か別の考えがあるみたいですね。さて、一体何をしようとしているのでしょうか……」
笑いながらそう言った斎藤に対し不安を覚える串田。
「あの世代の若者が何を考えているかわかりません」
串田は頭を振り、窓の外を見た。
下では琴音の仲間が十人ほど綺麗に整列し、待機しているのが見えた。
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琴音は部屋を出る際、チラッと部屋の前に掲げられていた看板を見る。
看板には『日本特殊行方不明者対策室』と書かれていた。
しかし、これは本当の名前ではない。本来は別の名前が存在している。
「琴音様。よろしいのですか?」
一緒に部屋を出た神澤は、琴音に話しかける。
「大丈夫よ。私の計画は露見したところで大した問題にはならないはず。
まぁ、頭の固いお婆様達には何かしら言われるかもしれないけどね」
「それが一番の問題な気がしますが……」
尚も心配そうに言う神澤。
それに対し、
「そうね」
琴音は笑いながら、
「でもね」
と、続け、
「『五頭家』と呼ばれる我らが勢力。その主要五家で、私達は力はあっても一番人数で劣っているのは知っているでしょう?」
「……」
神澤は答えにくそうにゆっくりと首を縦に振る。
「外国と交流を果たし、今尚に勢力を伸ばし続ける『清堂家』。
妖怪界で人間と友好的な妖怪と、異界から連れてきた妖怪を取り込み、清堂家には及ばないけど軍事力を増す『紀崎』家。
異界の難民達を取り込み、自身の勢力となる人口を更に増やした『斎藤家』。
各世界で商売をして資金を荒稼ぎする『轟家』。
それに対し、私達悪霊や悪い妖怪等の退治をして日々生活する『榊家』は、勢力を伸ばす手段が殆ど無いの。
この件で、どこまで私達の力を伸ばすことができるか。
私達の運命はこの事件に掛かっているといっても過言ではないのよ?」
そう言って真剣な表情をする琴音。
「そうですね……」
そんな琴音を心配そうに神澤は見る。
「「「「「……」」」」」
外へ出ると、建物の前で十人程の巫女や上は白、下は水色の狩衣を着た男達が琴音を階段の下から見上げていた。
この建物は敷地が広く、敷地外を歩く通行人からは、風景に合わない異様な風貌の彼等は車等の物陰に隠れて見えはいない。
その彼等を見て、琴音は呟く。
「ふふ、うふふふ。さぁ、もうすぐよ。ゲームの支配権は半分以上が我等のモノとなった。もうすぐ我等は大きな力を手にすることが出来る……」
不敵な笑みを浮かべた琴音は、彼等と一緒に車に乗り込みその場を後にする。
「アレらと同等に渡り合う為に……」
車の中で空を見上げ、そう決心を固める琴音であった。
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