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第22話 それぞれの気持ち



----------------------------------


―佐々木刑事視点。尾野家ストーカー襲撃の日、午後4時―



 俺達、所轄の刑事達は現在、新しい装備品について説明を受けていた。


「このM4カービンは、アメリカ軍でも使用されている信頼性のおける装備で――――」


 近年多発する変質者による事件に対抗するべく、我々警察はその貧弱な装備から一新し、強固な力で悪党を倒す。

 そういう名目で大量に支給された装備の一つを手に取り、説明する講師役の人物の話を聞く。


「そして、このM590ショットガンは、各国の警察や軍でも採用されている―――――」


 正直こんなに重装備が必要なのだろうか。


「更に、このP228拳銃は、ドイツで開発された銃であり、昨今の状況を鑑み、この署に大量に送られる事になった。とりあえずは、刑事課を優先的にとし―――――」


 俺は真新しい装備品を手に取り、なんとも言えない不思議な気持ちになる。


「ちなみにこのRPG-7は骨董品ではあるが――――――」


 そういえば、今日は尾野君からまた変な電話があったな。


 今度は幼馴染に対するストーカーを発見したとかなんとか……。


 普段であれば巡回させて一安心。というところなのだが、妙に胸騒ぎがする。


「―――――以上だ」


 ようやく講習は終を告げられた。


 俺達は拳銃以外の装備品を保管庫へ戻し、デスクワークへと戻る。


 最近は事件が立て続けに起きている為、報告書を大量に書かなくてはいけないので嫌になる。


 その前に休憩室でコーヒーを一杯飲もう。


 そう思って休憩室の前まで来ると、





「雀殿はどうでありますか?」


「現在メンテナンス中であります。不完全状態で紫藤を倒したでありますからなぁ。影響は体の各所に出たのでありましょう」


「最悪の場合、ストーカーには我々だけで対処しなくてはいけないでありますな」




 と、変な会話が聞こえてきた。


 雀? なんの事だ?


 休憩室の中に入ると、


「「あっ、佐々木刑事。お疲れ様であります!」」


 俺の後輩である二人の警官の姿があった。


「おう、お疲れ。……今の会話はなんだ? 雀がどうとかって」


 気になってみたので聞いてみた。

 すると、


「聞いていたでありますか」


「他愛のない雑談でありますよ」


「そうか……」


 そう言われるとそう返すしかない。


「さて、そろそろ本官達も行きますか」


「頑張ってストーカーを見つけるであります!」


「絶対に捕まえるであります!」


 力強く宣言する後輩達。


「ん? 初日からお前達も行ってくれるのか? それはありがたい」


 今ここにいるのは二人だが、彼らともう一人入れて三人には交代で尾野家の周辺巡回をお願いをしていた。


「「もちろんであります。では、行ってまいります。で、あります」」


 彼等はそう言って敬礼をして休憩室を出ていった。


 ホント、あいつらは真面目な奴等だよ。


 俺は自慢の後輩達の成長が喜ばしく思いながら、コーヒーメーカーのボタンを押した。



----------------------------------




―野和 紗香視点。ストーカー襲撃後の夜―




 私は今、幼馴染の男の子の妹の部屋で布団を敷いて寝ている。


 信じられないかもしれないけど、私は知らない間にストーカーに遭っていたようだ。


 しかし、それを私自身ではなく、近所に住む幼馴染の男の子が最初に気付いてくれた。


 彼の名前は『尾野 駿』。

 私と同い年で、保育園から小中高まで一緒の学校にか通っている。





 最近の駿はどこかおかしい。


 毎日毎日、どこか思いつめたような表情をしながら、学校で起きている様々な事件の中心に居る。


 私を襲おうとした転校生、『神命(しんみょう) 成一(せいいち)』。


 私達のクラスの副担任である奈菜ちゃんを襲おうとした『羽間(はねま)』先生。


 最近クラスメイトになった三田川さんを虐めていた不良グループ。


 女子更衣室泥棒の犯人だった『紫藤(しどう)』先生。




 そして、今日の夜、私を狙っていたストーカー。




 短期間でこれほどの事件を解決していく駿に、言い知れぬ不安感があった。


 駿は事件を解決する毎、心身共に傷を負っている。


 これからもまだこういった事を続けるのではないかという予感もある。




 いったいどうしちゃったの駿?


 助けてもらえて感謝をしているけど、私は駿に傷ついて欲しくない。


 今の駿を見ているととても辛いよ…………。









 それから私は夢を見た。


 最近、色々な事が起こりすぎて疲れていたからだと思う。


 夢ではリアルな『もし、駿が助けに来てくれなかったら』という世界の続きを見た。


 おぞましい世界だった。


 私は転校生に犯され、更にはストーカーにも同じことをされ、心が壊れていく。


 そしてストーカーは転校生と三田川さんが殺し、死体の処理をしている様子を私はただ笑いながら見ていた。


 こんなの嫌だ!

 この世界はいったいなんなの!?

 駿! 助けて!

 お願い、助けて!!


 死んでいるストーカーを見て笑っている私の心の中で、必死に否定していた。






 だけどこれは夢だと理解していた。


 だって、転校生とストーカーは駿が倒してくれたんだもん。


 今、私が安心して寝ていられるのは駿のお陰。


 駿は日々傷ついていくけど、私はそれを否定なんてできない。


 止めることは……できるのかな。


 私も何かしなくちゃいけないよね?


 きっと駿は私達を助けるためにこれからも無茶をすると思う。


 だから、私もしっかりしなきゃ。





ジッ――――――。ジジジッ―――。





 っうぁ。




 なに? このノイズのような感覚。






 夢の中で何かが違うと感じている。


 なんだろうこの気持ちは……。


 誰かを好きな気持ち……。


 あの転校生の顔が出てきたが、嫌悪感しかない。


 駿? いえ、誰なのあなた。


 私の頭の中で駆け巡る情報に駿ではない誰かが出てくる。


 違う。私が好きなのは駿なの! 知らないあなたが邪魔をしないで!!




ジジジッ―――。



 先ほどまで見ていた夢とは切り替わる。


 さっきまでの夢は……。私が好きな人の夢だった気がする。


 それは、ちょっと抜けているけど正義感が強い幼馴染。


 まだ気持ちは伝えてないけど、伝えたい。


 私が好きな人は……。あれ? 私が好きな人は……。


 私が愛している人は本当に駿なの?



 確かに、記憶では私を命懸けで助けてくれた駿が幼馴染であり、愛している人の……はず。




 駿、ねぇ、駿なんでしょ?


 私が愛している人。私の最愛の人は――――――――。





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―三田川 麗子視点。ストーカー襲撃後の夜―



 私の隣で野和さんが寝ている……。

 更にその隣には尾野君の妹が寝ている。


 不思議な状況だ。







 私は昔から愛されてこなかった人間だった。


 両親からも、周りからも。


 誰ひとりとして私を見てくれない。


 私を必要となんてしてくれなかった。





 勉強を頑張った。


 だけど、成績が優秀になればなるほど、学校の生徒は私を毛嫌いし、両親も褒めるどころか学費が高くなるような場所を目指すなよ。なんて言葉をかけた。





 運動を頑張った。


 やはり結果は変わらない。

 文武両道の女なんて生意気だ。そんなことをいろんな人から言われた。






 見た目が美しくなるように努力した。


 変わらない……。

 男に媚を売っているようだと言われてしまった。




 愛を知りたかった。


 誰かを愛したかった。




 だけど、誰も私を見てくれない。



 私はこれからも、何をやっても誰にも見向きをされないのではないだろうか。


 そう思っていた頃、私の日常はおかしな方向に進み始める。






「クラス替え……ですか?」


 ある日、私は2年D組からB組へ移らないかという提案を、学年主任を勤める五和先生から提案された。


「あぁ、俺のクラス、一人いなくなっちゃったからな。人数調整をしようという意見が出たんだ。どうだ? もしよければ明日から2年B組に行ってみないか?」


 そう言われて思い出す。


 クラスの誰かがB組に転校してきたと言っていた。

 そして転校初日に問題を起こして退学になったと。


 私は同じD組の不良女子達から嫌がらせを受けていたため、その提案を受けることにした。


「よろしくお願い致します……」


「よしっ。わかった。じゃぁ、明日からクラスを間違えないようにな。ようこそ俺が受け持つ2年B組へ!」


 きっと先生達も私が虐められていたことは知っていたのだろう。

 両親ですら助けてくれなかったのに、教師達は助けてくれた。


 だけどそれは、これ以上学校で不祥事を起こしたくないからなんだろうなぁ。と、その時はひねくれたことを考えていた。


 そして私は私を助けてくれた本当の人物がもう一人居るのではないかと気付くことになる。





 切っ掛けは、クラスを変更して初日。

 しつこく変更したクラスまで私追って来た不良女子達から庇ってくれた新しいクラスの男子だった。


 名前を『尾野 駿』という。


 彼の噂は直ぐに耳にした。


 なんでもこのクラスの転校生の悪事を直ぐに見抜き、対処した。


 更にはこの学校の教員である羽間も塀の中に入れた。


 短期間でこれだけ多くの偉業を成し遂げた人物に対して、もしかして私の件も彼が手を回したのではないかと思ったのだ。



 その予感は的中し、不良共の件を彼が通報した情報を得て、私が尾野君を問い詰めるとあっさりと肯定した。




 何故こんなことをするんだろう。


 彼にはいったい何の得があるんだろう。


 私を気に掛けるなんて変わった人だ。


 私はそう思ったが、彼はそれが普通だと言った。


 不思議な人だと思った。


 私の事を必要としないのに、私の為に何かをしてくれる。


 そんな人が本当にこの世の中に居ることが不思議でたまらなかった。


 だけど、そんな彼に対し、私は今まで感じたことがない気持ちが芽生えてしまう。


 これが恋だというのを理解するまで、そう時間はかからなかった。


 嬉しかった。


 私に誰かを愛する感情を与えてくれる彼に対して、感謝の念が溢れ、嬉しくて、彼に抱きついてわんわん泣いた。












 そして、再び事件が起きる。


 羽間と同じく、学校の教員であった紫藤が起こした女子更衣室盗難事件。


 なんとその事件も尾野君が解決に導いたという話だった。


 解決して戻ってきた尾野君はボロボロであった。


 転んだのか、顔には擦り傷を作り、今にも泣きそうな顔をしていた。


 そこまでしてどうして彼は人を助けようとするのだろうか。


 理解はできなかった。


 彼は私を見ると、今度はこの前とは逆に私に抱きついて泣いていた。




 その時私はゾクリと背筋が震え、妙な感情が芽生えた。


 嫌悪感ではない。


 これは……幸福感?


 私に抱きつき、私の胸に顔を埋め、今、私を必要としてくれている。


 こんな感覚を世の中の人達は普通に味わっていたというのだろうか。


 こんな狂おしい程、脳が焼ききれる感情の渦を世間の人々は体感しているというの!?


 ああぁ、幸せだ。


 私はなんて幸福な人間なんだろう。





 その時から私は決めたのだ。


 彼のためならなんだってしよう。


 尾野君の為ならこの身を差し出すことなんて平気で出来る!


 あぁぁ、できることなら彼の子を沢山産んでいっぱいの愛情で包んで育てたい。


 おそらく野和さんが尾野君にとって一番大切な人だろうから、私をそれ以下の存在として扱ってもらっても構わない。





ジッ――――――。ジジジッ―――。







 これは……?




 頭の中に知らない人の顔がよぎる。


 瞬間、私の記憶が塗りつぶされていく感覚が押し寄せてくる。


 私が狂った愛に溺れ、人を陥れ殺していく光景が見えたのだ。


 そして、その狂った現況となった男の顔が映る。


 誰だお前は、私の好きな人のカテゴリーに入ってくるな!

 お前のような男なんて……知ら……ない。








ジジジッ―――。







 今の……記憶はなんだったんだろう。


 さっきまで苦しかったのに、今ではもうおぼろげだ。



 よくわからない事は考えても仕方がないか……。

 今は尾野君の事を考えよう。



 あぁ、そういえば尾野君は今後も危ない目に遭っていくんだろうなぁ。


 今日だって野和さんのストーカーを撃退していたし……。


 だから、私は身を差し出すにしても盾の役割もしておかなくちゃ。


 盾役以外にも色んなことをして、尾野君の役に立とう。



 うふふふ…………。あはははは。




 そう、沢山役に立って愛し、愛されよう。




 今の私ならなんだって出来る!



 だって私は――――――――。














 ――――――――好きな人の為なら、
















 人だって簡単に殺せるのだから――――――――。











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