第21話 街のおまわりさんの奮闘
夜の住宅街で壮絶な殴り合いが始まった。
彼等の腕は俺の目では追えない程高速で動いている。
現実ではありえない光景に、俺は見入ってしまっていた。
「ありますありますありますますますますます」
「「「ありますありますありますますますますます」」」
「ますますますますますますあります――――グギャ!?」
「「「ますますますますます」」」
「グギッ!!? ます―――ま、待って、ちょっとまっゴガハァ?!」
戦況は一気に警官達側が有利となった。
半田は一方的に殴られる側となり、先に助けてくれた警官は素手で、後の二人は警棒で殴っている。
既に半田はナイフを落としてしまっており、自らの肉体で防御するしかなかった。
「「「ますますますますますます」」」
「まひゅっ、ま、まひゅぅぅ」
……相変わらず"ますます"うるさい。
あれは何なのだろうか?
というか、それよりも……。
「ひゅーっ! やっちまえ!」
「いいぞ! おまわりさん!」
「そこだ! 顎を殴れ! 意識を刈り取るんだ!」
いつの間にか野次馬が増えてしまっている。騒音で目が覚めた近所の住人達が集まってきているようだ。
血気盛んすぎるだろ……。
警官達は住民達の応援によりテンションが更に上がったようで、心なしか攻撃速度が上がっている。
「グガガ! グボボ!! ク、クソゥウ! 我輩がこんな奴等……んにぃぃ!!」
先ほどまで化け物のような面に変化していた半田は、もう元の人間の顔に……いや、元に戻ってはいない。
鼻は折れてひん曲がり、前歯が何本かどこかに行ってしまっている。
比較的整っていた顔だった半田は既に見る影もない。
「ははっ。間抜け面じゃねぇか」
俺がそう笑うと、悔しさによる憎悪にまみれた目で俺の方を見る半田は、
「貴様のような……ハーレム野郎なんかに……彩香をぉぉおおおお。グババババババ!!!! あっ……―――――」
半田は俺にそう言った後、そのまま意識を失って倒れた。
「「「現行犯逮捕であります!!」」」
三人の警官の内、最初に戦い警棒を破壊された警官が半田に手錠を掛ける。
「「「「「ワァアアアアアア!!!」」」」」
ギャラリーからは歓声が上がった。
何なんだよ……。この状況。
「駿!」
「尾野君!」
野和さんと三田川さんが同時に俺の胸に飛び込んで来て喜んでいる。
本当、なんなんだよ。
真夜中に起きた歓声は警察の応援車両が到着するまで続けられた。
「はい。今回もお疲れ様です」
と、俺の目の前の死んだ魚のような目をした佐々木刑事が言った。
口元だけが笑っているのでちょっと怖い。
「あの……。あのおまわりさん達を近所に配置してくれたのって佐々木刑事ですか?」
「ん? そうだよ。会話するのにちょっと違和感があるけど、犯人確保の要員としては優秀でね」
あぁ、会話の違和感については共通認識なようだ。
「そうでしたか。ありがとうございます。お陰で助かりました」
「いや、いいんだよ。市民を守ることが僕達警察の役目だからね」
スラスラとそう佐々木刑事の口から言葉が出てくるが、本心なのだろうか。そもそも佐々木さんは俺の事をちゃんと認識して話しているのだろうか?
「あの人たち三つ子か何かですか?」
顔は似ていないが喋り方があまりにも一緒であったのでそう聞いてみた。
「いいや、違うはずだよ。出身地も別だったはずだ」
「そうですか……」
あれかな? ゲームの世界だから顔のグラフィックは変えてあっても台詞は共通なだけなのかな?
「それよりも―――――」
「?」
「もう事件とか無いよね? ……君が関わっている事件なんて、ないよね?」
佐々木さんは死んだような目から希望にすがるような目を向けてくる。
「…………」
「ねぇ、なんで黙ってるの?」
「……えっと……」
「何かあるの?」
「…………あると思います」
「本当?」
「はい、……たぶん」
「ははは」
「はははは」
「「ははははは」」
何がおかしかったのか俺達二人は共に笑い合う。
「「………………」」
佐々木さんが急に黙るので、俺も笑うのを止める。
「なんでだよぉぉおおおお!!!」
「ぴぇっ!?」
突然佐々木刑事が発狂した。
「なんで君の周りでそんなに事件が起きるんだ!! 君が原因じゃないって調べたら分かるから責める事はできないじゃん! 本当、君ってなんなんだぁああ!?」
「さ、佐々木!? 落ち着け!! いったいどうしたんだ」
そう顔を真っ赤にして発狂する佐々木刑事を落ち着かせる別の刑事さん。
「はぁ、はぁ、はぁ……。……悪かった。ちょっと事件が立て続けにあったせいで気が立っててね……」
「い、いえ……なんかすみません」
「いや、君のせいじゃ無いんだ。こっちこそ悪かった……」
落ち着きを取り戻した佐々木刑事は必死に頭を下げて謝ってくれた。
ちょっとちびっちゃったじゃないか。
……。
うん、許さないからな。
こうして軽く事情聴取を受けた俺や野和さん、三田川さんは早々に解放され俺の家へ戻った。
自宅に帰ると警官達が家の中を調べ終え、撤収するところだった。
「騒いでいたのは不審者だったんだな」
と、父親が俺に話しかけてきた。
こいつはピンク脳なので誤解を与えないようにしなくてはならない存在だ。
「あぁ、あの不審者のせいで……あっ、窓ガラス割られちゃって……」
「うへぇ、それ本当か? ったく、厄介な事をする不審者だ。明日修理業者に電話しなきゃならんな」
父親は頭を抱えてしまった。
それよりも息子達が無事だった事を喜べよ!
「駿……」
「尾野君……」
おっと、野和さんと三田川さんが近づいてきたな。
「えっと、二人共、部屋の通気性がものすごく良くなっちゃったけどどうする?」
本来ならば自分達の家に帰した方が良いのかもしれないが……
「「……」」
結局俺は両親の部屋で寝ることになり、野和さんと三田川さんは今日は俺の家に泊まる事は続行して、妹の部屋で寝ることになった。
女の子3人と一緒に寝ることが出来るなんて甘い展開はなかったのだ。
それぞれの部屋で寝る前に野和さんが、
「今日はありがとう。それとごめんなさい。駿はあの不審者の存在を知っていて私を守っていてくれたんだね。私、ちょっと駿の事疑っちゃってた……」
と、悲しそうな目で謝られた。
「いや、気にしないでくれ。俺も絶対という確証が無かったんだから……」
俺がそう言うと、
「俺達家族にも言ってくれたら、もっと何とかなったかも知れないのにな……」
そう父が呆れていた。
毎度の事ながらなんでそんな事知っているんだって話になりそうなもんだけどね。
言い訳が思いつかなかったんだから仕方が無いだろう。
あんたら両親は俺を病院送りにしようとするし。
今回は俺がおかしくなっていた状態を利用したのも誤解を与えた一因になったけどさぁ。
「あなたの事は全面的に信用している。だから今度からは遠慮なく協力させて」
今度はそう三田川さんから言われた。
そうか……。信用してくれているのか……。
「わかった。今度から何かあれば頼む」
勿論危険な事に巻き込むようなものは頼む気は無い。が、相談ぐらいはしてみよう。絶対解決できないと思うけどな!
俺はこうして両親の部屋へ入り眠りに……。付くことはできず、朝を迎えた。
おかしい。昨日は良く眠れたのに!!
流石に俺の神経はそこまで図太くなかったようだ。
チュンチュンチュンチュン。
雀が鳴いている……。
完全に寝不足だ。
え? この状態で学校へ行かなきゃいけないの?
今日は休んでも良いんじゃないだろうか?
あ、でももしかしたら今日発生する予定のイベントがあるかもしれない。
このゲームをクリアする為のイベントが……発生するかなぁ。
とりあえず様子だけ見て授業中は寝ておこう。
「おはよう」
「「「おはよう」」」
女子3人は寝付けたのだろうか?
「野和さんだけ寝てたよ……」
ご丁寧に妹がこっそりと教えてくれた。
野和さん……大物だな。
「今日は会社どうしようかなぁ」
「窓ガラスの修理、今日中にしてもらえるかしら」
両親は頭を悩ませていた。
俺は働かない頭を無理矢理動かしながら朝食を食べる。
なんだか寝不足とか色々な理由で食欲がない。
こうして俺達は今朝も4人で学校へ登校する事になった。
そういえばこういう事件があった後ってマスコミが来そうなもんだけど来なかったなぁ……。
琴音:「はい、ということで今回もやってきました特別解説役の琴音です」
雀:「ちゅんちゅん!」(訳:雀の形をした式神、ちゅん太です。
琴音:「では今回の解説に参りましょう」
ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:よろしくお願いします。
琴音:「今回はちゅん太君から質問があるとのことですが?」
ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:はい。実は気になっていたのですが、ゲームの世界で式神やサポートNPCとなる警察官達を送り込んだりしているわけですが、プログラミングやグラフィックの管理等は、琴音様がやっているのですか?
琴音:「なるほどなるほど。いい質問ですねぇ、では答えましょう。実はそういった仕込みは私ではなく、専門のプログラマー部門……みたいな方達にやってもらっています」
ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:琴音様はとても偉い立場のお方みたいですが、部下ですか?
琴音:「いえいえ、違います。私達とある退魔師組織と同等の権力を持つ組織による協力です。詳しくは言えません」
ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:なるほど。役割分担というわけですね?思ったよりも巨大な組織が尾野さんを助けようとしている。と。
琴音:「その通りです。では、今回の解説はここまで。皆さんまたねー」
ちゅん太:「ちゅんちゅん!」(訳:またねー。




