第二九話 ~ 開戦 ~
スレイプニルのカタパルトが納まった上甲板に片側の足を膝立て、膝の上に腕を置いて構える所謂膝射と呼ばれる姿勢で、現在スレイプニルに積んである射程が長い火器の中で、一番威力が高いアンチマテリアルライフルをカスパーはトルーパーに構えさせる。
最大戦速で攻略目標である鉱石採掘資源惑星へ向け航行するスレイプニルに遅れることなく、大型プロペラントタンクをつけて稼働距離を伸ばしたベイトとアルターのトルーパーが、シールドを構えて守りを固める様子を横目で見ながら、カスパーはコンソールを操作して、スレイプニルと様々な周辺情報を自分のトルーパーが共用するべく設定を弄る。
「索敵情報データリンク、終了。火器管制情報データリンク、終了。カスパーさん、スレイプニルの火器管制をお任せします」
通信モニターで多少緊張の色が見えるが笑顔で阿求亜が、作業状況を知らせるモニターを読み上げて作業終了を伝え、カスパーの手にスレイプニルの攻撃力が託されたことを告げる。
「りょ~かい、りょ~かい。こっちを撃ってきたやつにはきっついお灸を据えてやるからまっかせなさい」
その笑顔にカスパーもニヤリと不適な笑みを浮かべて胸を張ると、咽ない程度にその胸を拳で叩いて答える。
「はい、お願いしますね。私は索敵とマーキングに専念させてもらいますね」
調子の良いカスパーの答えに阿求亜はクスクスと笑いながら答え、表情を引き締めて作業の分担を決める。カスパーもそれに頷きを返して、スレイプニルの主砲を展開させるなどの作業に集中することにした。
両舷側でハッチが開き、スレイプニルの主砲たる大型電磁投射砲が姿を現せば、艦首の大小各種ミサイル発射筒の発射口が開いていく。接近戦のための機銃座も両舷側、後方、下方と攻撃が不可能な死角を潰すようにハッチが開いて飛び出して、スレイプニルの戦闘態勢が徐々に整っていく。
「VG研全員に告げる」
阿求亜から送られてくる周辺情報を読み取りつつ、自分が乗るトルーパーとスレイプニルの各火器との照準を調整していたカスパーの耳に、通信モニターのスピーカーからTakuの静かで落ち着いた声が届く。
「スレイプニルはこのまま直進を続け、敵戦線を突破してターミナルを落とす。正面以外の戦線突破に邪魔にならない敵は後ろの奴らに任せろ」
Takuは全員が自分の言葉を理解するための間を一瞬とって口を閉ざすと、艦橋で慌ただしく自分の仕事をしている二人の背中と、モニターに映る艦橋に居ないメンバーの顔を一人一人見た後、一旦目を瞑り下を向いた。
「皆……俺たちの手でターミナルを落とすぞ」
すぐに顔をあげると、Takuは表情を引き締めて宣言する。
「ドライ、最大戦速を維持。進路は基本ターミナルに向かっていれば任せる。ベイト、アルター、脅威度の高いものだけ防げ。撃墜ちなければ良い、多少の被害は割り切ってくれ。カスパーも正面の邪魔な戦力の排除のみで、基本は脅威度の高いミサイルを撃墜とすことに専念してくれ。トルーパー隊は以後、阿求亜の管制に従ってくれ。コングは機体調整と補給に忙しいだろうが、船体修理も平行して頼む。俺はこれより、α任務部隊との意思統一、情報共有に専念する」
一息にVG研のメンバーに指示を出すと、Takuは不適な笑顔を浮かべる。
「さぁエルフからの盛大な歓迎の祭りが始まる。皆、無理しない程度に無茶をして、精一杯この祭りを楽しもうじゃないか。各員の奮闘を期待する」
そう言ってTakuは、外に出ている三人のトルーパーと艦内全域に繋げた艦内放送を締めた。
それを合図としたわけではないだろうが、阿求亜の見るレーダーの解析結果を映し出すモニターの端にいくつもの光点が、スレイプニルの進路を塞ぐように展開する様を映し出す。
「戦艦三隻、トルーパー二〇機レーダーに感あり。S1からS3、T1からT20までマーク。順次判明順にマークします。脅威度順に色分けしたものをリアルタイムで送信します」
レーダーに敵機という仕事が映ったことで、阿求亜は精力的にコンソールのキーボードを叩いて様々な処理を加えてから、トルーパー三機に情報を送る。さらにドライバーであるドライにも同じ情報から判断できるように、彼のコンソールのモニターにレーダー画面を映した。
大きな三つの光点からそれぞれ六個から七個の小さな光点が、広がり進攻するスレイプニルを先頭にした四隻の艦隊を包み込むように動く様子がモニターに表示され、スレイプニルの進路上に展開する光点は赤くひかり、遠くになるほどオレンジ、黄、青、緑と色分けされていく。
「基本脅威度の高いものの排除をお願いします。また脅威度は順次変更されますので、適宜確認をお願いします」
レーダー画面を映す画面に地形情報を映す画面、スレイプニルに全トルーパーのステータス、パイロット達の身体ステータスを表示する画面を、慌ただしく視線を動かして阿求亜は確認しながら次々とパイロット達に管制指示を与えていく。
「最大射程兵装射程距離まで後五、四、三、二……S2より長距離ミサイルの発射を確認」
レーダー画面に映るS2とマーキングされた赤い光点からトルーパーと同じ大きさの光点が四つ、新たに生み出されて真直ぐにスレイプニルへと高速で突き進んでくる様子を、阿求亜の報告を聞きながら横目で確認をしたカスパーは、長距離ミサイルと思われる光点を迎撃するべくスレイプニルの主砲に電力の供給を開始し、ベイトにアルターはシールドを構えなおして弾幕形成用に持ったマシンガンを構えた。
心の中でカウントを数えながらカスパーは、緊張で乾いた上唇をペロリと舌を出して舐めるとスレイプニル搭載のレーダーによる光点だけの情報から、トルーパーのカメラからの映像を映すメインモニターにもうっすらと確認できるまでに接近してきた長距離ミサイルに、スレイプニルの主砲と自身の持つアンチマテリアルライフルの照準をつける。そして射程距離に入った瞬間、即座にカスパーは引金を引く。
電磁加速された砲弾は、狙いを外すことなく左右の主砲でそれぞれ一つずつ、二本のミサイルを撃ち抜き爆発させ、二回発砲されたアンチマテリアルライフルの弾丸は、その爆発から遅れること二秒、残った二本のミサイルを撃ち抜いて暗い宇宙に明るい爆発の華を咲かせた。
しかし第一波であるミサイル四発が撃ち落される前に、今度は三隻の敵艦全てから放たれた第二波ともいえるミサイル一二発がすぐさま視認距離に入ってくる。そして第三波が発射されたこともレーダーに映し出されている。
「しつこい!」
カスパーは即座に迎撃するべく照準を合わせて射程距離に入った瞬間に引金を引くが、連射性能の低い主砲である電磁投射砲ではその全てを迎撃することは難しく、弾速、射程共に劣るアンチマテリアルライフルによる迎撃に頼らざるを得ず、その迎撃距離は段々と第二波、第三波とスレイプニルに近くなっていく。
「新たにS4、5、一〇時方向から出現、T21から27の発艦を確認、さらにトルーパーは増えると思われます」
阿求亜の報告に目をレーダーに向ければ黄色の大きな光点が二つ増えて、そこから離れていく同じく黄色の少し小さな光点が最初から居た光点と協力するように広がっていく。
「どんだけ集まってるんだ、これ。全部が全部化物じゃないだろうけど、きっついな」
「防衛戦はある意味おいしいからな。ほらカスパー新たな歓迎の印が来てるぞ」
「へいへい。アルターこそ、その両肩のキャノン砲つかって迎撃しやがれ」
戦艦の数が増えたことにより、艦隊に襲い掛かるミサイルの数もまた増えてさらに迎撃の手が足りなくなったカスパーの愚痴に付き合いながら、アルターはカスパーの撃ちもらしたミサイルの迎撃を、中距離まで来たものは両肩のキャノン砲を使い、近距離まで進入を許してしまったものはマシンガンの弾幕をもって迎撃する。アルターの迎撃参戦にカスパーは、弾切れを起こす前にアンチマテリアルライフルのマガジンを交換する操作を行いながら、スレイプニルの主砲を操り危険度の高いミサイルを優先的に迎撃していく。
後方のα任務部隊所属の戦艦二隻も長距離ミサイル迎撃に参戦したことにより、一時的にミサイルの迎撃距離が離れたけれども、すぐにエルフ側防衛戦力との距離が縮まったことで、包囲網を構築して網を張っていた一部トルーパーに搭載された長距離ミサイルが、ミサイルの弾幕に加わることで再び迎撃の手が足りなくなっていく。
「半包囲状態からのミサイル飽和攻撃かよ。いいかげんうぜぇ」
ミサイルを照準の中央に合わせて引金を引くというルーチン作業を高速で行うことに、いいかげん疲れてきたカスパーが怒りに任せて放った主砲の砲弾が、一機のトルーパーが放った長距離ミサイルを貫いた瞬間、今までのミサイルの爆発を数十発あわせたような規模の巨大な爆発が、周囲にあったミサイルを巻き込むように起こった。
「本格的にサテライトの手が入っているな。核なんてコスパ的に割りに合わないものを使ってやがる」
その爆発の威力にベイトは通常の長距離ミサイルの一〇倍の価格で取引され、作成するとしてもメカニックの必要レベルと作成スキル熟練度を高いレベルで必要とする核ミサイルと思わしきミサイルが、通常ミサイルに紛れ込むように放たれていることに、背後に居るサークルの存在を感じる。
「そんな裏なんて、今考察してる暇なんざねぇよ。阿求亜ちゃん、核ミサイルだけ見分けられない?」
マシンガンで近距離に迫ったミサイルを迎撃しながら、シールドで長距離狙撃による砲弾を受けながら冷静に考察しているベイトに噛み付きつつ、カスパーは阿求亜に核ミサイルをどうにかするために問いかけを行う。
「核ミサイルだけを見分けるなんて無理ですよ! 核ミサイルと普通のミサイルの違いを検証した人はいるでしょうけど、そのデータを私知りませんもん」
しかし阿求亜の泣きそうな叫び声で返された回答は、無常にも今の阿求亜には出来ないというものであった。
「出来るだけミサイルは遠くで迎撃するしかないな。至近距離であの爆発に巻き込まれたらただじゃすまないぞ」
「んなこた見りゃわかる。くそっ、なんとか見分ける方法ないのかよ」
再び迎撃したミサイルの中にあった核ミサイルの爆発に顔を顰めながらカスパーは、正しくはあっても現状を覆すことになんの益も無い見たままの事しか言わないベイトに対して突っ込みを入れつつ、悪態をつきつつ手だけは冷静にミサイル迎撃の作業を続ける。
「核ミサイルを撃ったやつを特定して、そいつのミサイルを真っ先に迎撃するとか?」
「カスパーさん、私を何だと思ってるんですか! そんなの不可能です。いったいどれほどの処理が必要だと思ってるんですか!」
「だよねぇ……うわっ」
かなり防衛線に近づいたことでより一層激しくなったミサイルと砲弾の雨の中、アルターが戦闘機動を行うのに邪魔だと判断して投棄した、推進剤の半分ほどの残ったプロペラントタンクにVG研には運悪く、エルフ側の防衛隊には運良くスレイプニルを外した砲弾が命中したことで爆発、周囲に破片を撒き散らし、プロペラントタンクのそばを通過していたスレイプニルに損傷を与える。
「くっ、すまん、不用意に投棄した。大丈夫か?」
「船体損傷は軽微。ただ右舷下方の対空機銃が大分損傷しましたから、そちらに回り込まれてしまうと対処ができません」
至近で起こった不運に驚き、後悔しつつもアルターはトルーパーを操り、危険度の高いミサイルを撃ち落し、飛来し襲い掛かる砲弾をシールドで弾きながら、阿求亜に通信をいれスレイプニルの状況を尋ねた。
一瞬襲った振動に身体がシートから放り出されそうになりながらも、モニターにしがみつくことで何とか椅子から転げ落ちることを防いだ阿求亜も、素早くスレイプニルの状況を確認して全員に短く報告する。
その阿求亜からの報告に原因を作ったアルターだけでなく他の師団員全員が、一瞬安堵の表情を浮かべ、即座に真剣なものへと引き締めた。
レーダーの光点として防衛戦力の数を認識していたが、周囲の状況を映し出すモニターに映ったエルフ側の戦艦五隻と三〇機以上に増えたトルーパーがうっすらと、周囲の爆発光の合間からその姿を確認できると、自然と操縦レバーを握る手に力が篭るのをカスパーは感じる。
「アルター、ベイト。一旦防御は任せた! 正面のトルーパーを落とす」
いまだ襲い来るミサイルの迎撃をベイトとアルターの二人に任せ、カスパーはミサイル迎撃のルーチン作業を取りやめて、スレイプニルの主砲とアンチマテリアルライフルの照準を正面に立ちはだかりレーダーに煌々と赤く輝く五機のトルーパーを撃破するべく、狙撃モードと言うべき状態へと切り替える。
シート後ろから狙撃用に高性能化され、望遠能力を強化されたサブカメラを使用した照準機を取り出して覗き込む。
狙撃用のスコープを覗き込んだように、その部分を抜き取ったように見える範囲を限定され、望遠機能で拡大された映像から、まずは第一目標と定めていたトルーパーを慎重に探す。
凡その方向にあたりをつけて照準機を覗き込んだとはいえ、動き回るトルーパーを即座にその照準に捕らえて、直ちに狙撃が出来るわけではない。
この場から弾速が速い電磁投射砲を放ったとしても、目標に到達するまでにかかる時間は零ではない。着弾までの時間を計算して相手の動きを予想し、未来位置にあたりをつけて照準を合わせて引金を引く。地上ではないためにコリオリ力であったり、空気抵抗に気象状況を考えなくてよい分、狙撃に対する難易度は低くなっているといえるかもしれないが、人体同様ある意味脆くある意味頑強なトルーパーを一撃の下に無力化するためには、それなりの箇所にピンポイントで砲弾を命中させる必要があるので、当てるだけでなく撃墜するとなるとやはり難易度は高くなる。
カスパーはゆっくり吸っていた息を一瞬止める。
望遠により拡大された映像に映る十字の前を、左右にゆらゆらと揺れるように動き回るトルーパーのコクピットを狙い、着弾までの時間を計算して照準を合わせる。
照準が合った瞬間に引金を躊躇することなく連続で二回引くと、左右の両舷の主砲から一発ずつの砲弾が、電磁加速されて飛び出していく。二つの砲弾は戦場を切り裂くように飛び、一直線にカスパーの狙ったトルーパーへと襲い掛かった。一発はライフルを構えた右腕のそばを掠るように通り過ぎ、一発は吸い込まれるように胴体に命中し、弾けるようにその半分を吹き飛ばして、一瞬時が止まったかのように動きを止めた後、爆発の華を咲かせる。
トルーパー撃破という戦果を挙げながらも、その確認をする時間すら惜しいと、カスパーは引金を引いた瞬間に照準を外し、すでに別のトルーパーに対して狙いを定めて主砲の引金を引いていた。
「アルターさん、耐久力五〇パーセント、オレンジアラートです。一時帰還、補給及び修理してください。カスパーさん、α任務部隊へTakuさん経由で前衛撃破要請を出しました。一時防衛に回ってください。兄さんは大変だと思いますけど、しばらく砲弾処理をソロでお願いします」
カスパーが矢継ぎ早の狙撃で三機のトルーパーに対して射撃を行ったところで、阿求亜からの指示が出る。
その言葉にカスパーが照準機から目を離してモニターの方へと目を向ければ、マシンガンを持っていた右腕を吹き飛ばされ、あちこちの装甲が剥げかけているアルターのトルーパーが、ベイトに護衛されながら帰還しようとしている。
「カスパーさん、狙撃お見事でした。こちらの計測では二機撃破、一機母艦に帰還していきましたので、中破もしくは大破させたと思います」
「報告ありがとさん。ではミサイル撃墜作業にもどるかね」
「はい、よろしくお願いします」
阿求亜の戦果報告にカスパーはお礼を言って、スレイプニルに直撃するコースを取るミサイルを撃墜するべく、再び照準を狙撃モードから通常の状態に戻して照準機をシートの後ろへとしまう。
X二二九Y二一三Z一〇九地点にあるエルフの鉱石採掘資源惑星をめぐるミッションは、まだまだ始まったばかりである。
投稿期間が普段よりも多く空きまして申し訳ありませんでした。
季節の変わり目ということで、風邪を引いたことと私用で少々いろいろとありまして、文章を書く時間というものがそれほど取れませんでした。多少まだ私用のほうが残っているため、投稿間隔が長くなると思われます。
そして遅ればせながらユニークアクセス10k越え、読んで下さっている皆様、ありがとうございました。




