第十八話 ~ VRゲーム研究会 ~
Rainたちと共にあの時落ちた優は、泪がちょうど夕飯の準備を始めたばかりのところに間に合い、しっかりその手伝いをすることで、なんとかポイント稼ぎをすることに成功した。
午後七時半を廻ったところで夕飯の支度が終わり、テレビを見ながら泪と二人で何気ない会話をしながら夕飯を摂る。
食事が終わり、食器を洗ったりと後始末が終わったころには時計の針は八時五〇分を廻り、五五分にさしかかろうとしていた。
一応前回落ちた地点の傍で、他のプレイヤーやキャストと重ならない地点に再びログインするとしても、本当にギリギリの時間に集合場所に着くことは、さすがに礼儀的に失礼だということで優は、食器洗いで濡れた手を拭くのもそこそこに、自室へと向かい階段を駆け上がる。
パソコンの電源を入れ、立ち上がる時間を利用してベッドの上を整え、ヘッドセットを準備しておく。
立ち上がったところで急いで銀河大戦のプログラムを走らせ、優はヘッドセットを被り銀河大戦にログインして、悠陽へとなる。
VRゲームでログインした時、特有の真っ暗な空間から飛び出したところは、コングと別れを告げて落ちたVR研共用レストルームの隅だった。
「あ、優君、おかえり~」
急に変わった明るさに目を鳴らそうと瞬きを繰り返していた悠陽に、バーカウンターで飲み物を用意していたコングが声をかける。
「ただいまです、コングさん。時間大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫。時間湧きボス討伐とか以外は一〇分後集合が、うちの当たり前だからまだまだ余裕よ。はい、アイスティー。飲むでしょ?」
共用レストルームを見渡し、コング以外がまだ居ないことを確かめた悠陽は、若干人が居ないことを不安に思いながらバーカウンターに向かい、コングに話しかけるが、その心配をコングは苦笑を浮かべて否定する。
「いただきます。コングさん以外居ないから、ちょっと心配しました」
コングからアイスティーを受け取り、一口、口につけてコングの言葉に安堵の吐息を吐き出す。
「ふふふ。最初はみんな驚くみたいね。時間厳守! 一秒でも遅れたら総スカン! って感じをイメージしてるみたいだから」
「そうですね。時間湧きのボス討伐とか競争ですからね、時間前行動当たり前、連絡は密にって」
「うちもそういったイベントの時はそういう雰囲気になるわよ。普段はこんな感じにゆるゆるだけど」
悠陽の緊張を解いて一息ついた様子に、コングが始めて集まった時のメンバーたちがしたそれぞれの対応を思い出したのか、クスクスと笑みを浮かべる。
そしてオンラインゲームにおいての高In率レイドボスギルドでよくあるであろう雰囲気の話になり、今まであった体験談へと二人の会話は移っていった。
「こんばんはです。ただいま塾より帰ってきました」
午後九時になる直前に、蒼いセミロングの髪をポニーテールにした少し釣り目がちな少女が、ログインしたと同時に明るい声音で部屋に居る二人に声をかける。
「はい、おかえりなさい、阿求亜ちゃん」
「ただいまです、コングさん。っと誰です?」
ポニーテールの少女、阿求亜の挨拶にコングが声をかけると、阿求亜は満面の笑顔でコングに答えバーカウンターに向かい、そこで始めて悠陽に気がついた。
「今日は入った悠陽と言います。えぇとRainの弟といえばわかります?」
「あぁ、噂の弟君ですか。いろいろ聞いてますよ~。私は阿求亜と言います、よろしくね」
悠陽の自己紹介に合わせて、阿求亜も笑顔で自分の名前を名乗り、勢いよく頭を下げる。
「こちらこそ、よろしく。どんな噂か気になるけど、それは聞かないほうがいいかな?」
「あはは、そんなに悪いことは言われてないから安心して」
阿求亜の自己紹介にあった噂という言葉に、悠陽は嫌そうな表情を浮かべてしまうが、すぐに隠して軽い調子で阿求亜の言葉に返した。
悠陽としてはすぐに表情を隠したつもりだったのだろうが、阿求亜にはしっかりと見られていたらしく、乾いた笑いを浮かべて、なんでもないことのようにフォローをするが、ますます悠陽の表情は苦いものになってしまう。
「それじゃあ、悪いこともありましたって言っているようなものよ、阿求亜ちゃん」
傍で二人のやり取りをニコニコと笑顔で見ていたコングもからも、苦笑を浮かべられてしまった。
そのことで阿求亜は、ますます乾いた笑いを浮かべる。
「もういいですよ、阿求亜さん。あの姉のことですから、大分前に諦めてます」
「ほんとそこまで悪いことは言われてないから安心して」
「つまり多少は悪いことを言われてたと」
「あっ」
自分の言葉の揚げ足を取られて、目を丸くして本当に失敗したと正直に顔に書いてある阿求亜の表情を見て、悠陽は本当によく作りこまれていると感心すると共に、その豊かな表情に堪えきれず笑ってしまう。
大笑いというわけではないが、お腹を抱えて笑いを堪えながら苦しそうにしているのは、いくら自分の過失があったとはいえ、自分が笑われていることとかわらず、目に見えて阿求亜は頬を膨らませて不機嫌になっていく。
「ごめんごめん、あまりにも素直な反応をしてくれるからさ」
無理やり笑いを堪えて悠陽は謝るけれど、阿求亜は頬を膨らませたまま、プイッと顔を横に向けてしまう。
「優君、それはいくらなんでも初対面の女の子に失礼じゃないかな?」
コングは今度は阿求亜の味方についたようで、悠陽に対して注意をしたあと、悠陽の額を親指で押さえて力をためた中指で弾く。
「そうねぇ。今度実装されるタウンのモスドナルドで、阿求亜ちゃんになにか奢ってあげなさい」
コングに弾かれた額を抑えて痛みを堪える悠陽に、コングはさも名案を思いついたというように阿求亜を抱き寄せて悠陽の目の前に立たせると、阿求亜の肩をしっかりと抑えて彼女の顔の横からニュッと顔を出して悠陽に命令した。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ。俺まだ一文無しなんですよ。それにそもそもそこにたどり着くわけがわかりません」
「そ、そうですよ。なんで私が彼と一緒に行かないといけないんですか!」
いきなりなコングの命令にあたふたと慌てて、いろいろと言い訳をしつつ断ろうと努力する悠陽に、抑えられた肩ごしに真っ赤な顔でコングに対して文句を言う阿求亜に対して、さも当然の事を言ったと自信満々なコングは、その豊かな胸を誇示するように胸を張る。
「いいじゃない、貴方達同い年なんだし。それにこれから同じ師団のメンバーになるんだし、親睦を深めないと」
ニシシとチシャ猫のような意地の悪い笑顔を浮かべ、本当に仕掛けるいたずらが楽しいと言っている顔で、堂々と悪びれることもなくコングは言う。
「勘弁してくださいよ、コングさん」
「コングさんだしもうしょうがないのかな」
情けないほど眉を下げ、肩を落とす悠陽。
コングとの長い付き合いゆえの諦めを見せる阿求亜。
二人の情けない様子に満足の表情で笑うコングの声がしばらく共用レストルームに響いた。
「悪い、遅くなった!」
九時を一五分ほど過ぎたところで、三々五々集まってきたVG研メンバーの最後の一人が共用レストルームの扉を開いて、謝りながら入ってくる。
「副会長~、ほんとに遅いよ。一五分も遅刻じゃないか」
「カスパーが言えたことかよ。お前もさっき来たばっかじゃないか」
入ってきた中肉中背の茶髪の男性を、副会長と呼んで非難するソファで寛ぐ長髪を後ろで一つにまとめた背の低い男性、カスパーも実は人の事は言えず、副会長のほんの少し前にここに来ていたので、隣に座る彫りの深い顔立ちの優男風の男性に小突かれる。
「キチンと時間通りに来たのは優君と阿求亜ちゃんだけじゃない。ベイトやカスパーは論外としても、アルターも人の事言えないでしょ。もちろんRainちゃんにTakuもそうだし、ドライも遅れてきてたし」
定位置なんだろうバーカウンターで飲み物を用意していたコングが一通り部屋の中を見渡し、入口の副会長ベイト、ソファに座るカスパーにアルター、その向かいに座るRainとTaku、入口の反対の壁に寄りかかる大柄で茶色の短髪の男性、ドライを順番に睨む。
「おいおい、皆遅刻かよ、仕方ないなぁ」
入口からコングのいるバーカウンターに歩きながら、ベイトはコングの言葉に呆れたように言う。
「一番最後が言うじゃないか。なにかあったのか?」
そのベイトの呆れたような雰囲気からTakuは若干の反発から、少々厭味っぽく言葉を発するけれども、彼が溺愛する妹を一人だけ先にログインさせ、自分はここまで遅れてログインしたことに何かを感じる。
「会長正解。将軍からの応援依頼とこれからミッションミーティングということで、会長を呼びにきた」
探るようなTakuの視線を受け、コングから受け取った飲み物を一息で飲み干したベイトは、そう言うとTakuに出発を促した。
「今から? 大丈夫かな?」
ベイトの言葉を受け、Takuは隣のRainとバーカウンターのコングを見る。
「大丈夫だよ、こっちは。コングのほうは?」
「こっちも大丈夫でしょ。ベイトとドライの二人に荷物持ちさせようと思ってたけど、ドライ一人でも大丈夫だろうし」
その視線を受けてRainとコングは、Takuの問いに答え頷いた。
「じゃあそっちは任せたよ、二人とも。ベイト、将軍はなんて?」
二人に後の事を任せて、入口へと移動して扉を開けて待っていたベイトに追いつくと、Takuはベイトにことの詳細を確かめながら共用レストルームを後にした。
ベイトもTakuが出た後についで共用レストルームを出て行き、Takuに将軍とのやりとりをTakuに説明を話しながら離れていった。
「とりあえず二人ほど居なくなったけど、全員揃ったしどうする?」
完全に二人が居なくなってから、Rainが議題を進める議長よろしくこれからどうするか、ここにいる全員の顔を見渡し言葉を口にする。
「そうだね、こっちは優君のトルーパー用の買出しと組み立てだけど、さっきも言ったとおりドライ一人で十分よ」
「となるとさっき話してた通り、こっちは悠陽のパワーレベリングか?」
「姐御にオレ、アルターいるし、阿求亜の管制込みでなら討伐系より潜入系がいいな、オレは」
「コング、廻る場所は親方のところからか?」
Rainの言葉を受けたコングの意見から、アルターとカスパーが自分達が何をやるか話し始め、ドライがコングにすでにどう行動するか相談し始める。
やれ討伐系クエストは使えない人間が入り込むからやりにくいだの、逆に潜入系クエストは経験値が稼ぎにくいだのという悠陽のパワーレベリングの話し合いと平行して、コングとドライが話す悠陽のトルーパー製造計画案が話し合われ、共用レストルームが雑談の騒がしさから一種熱気を帯びたものに変わっていく。
「じゃあ、俺はアインに変わるわ。そのほうが作成でコングの手伝いがしやすいしな」
「じゃあ、タウンの中央市場で待ち合わせね。噴水のところで待ってるから」
コングとの買い物の打ち合わせが終わったドライがそう言ってログアウト作業に移ると、コングがドライのログアウト待機時間にさっさと待ち合わせ場所を決めると、自分は残る全員に手を振って共用レストルームを出て行った。
「さて、こっちも決めないといけないね。カスパーは潜入系クエストでいいの知ってるのかい?」
コングを見送り、彼女が出て行ったことで一旦静まったパワーレベリングについて決めようとRainが、一番活発に潜入系クエストを押して意見を言っていたカスパーに水を向ける。
「素材系ドロップで行きたいとこがあるのよね。そこはどうかなと」
「またあそこかよ。なぜかエルフ側にある青生生魂がそんなにほしいか?」
「ドロップ確立五千分の一だったか? あれだけレアすぎると数揃えられないから、何に使えばいいのかわからんよな」
「しかもエーテル鉱より質悪いからネタ素材扱でしたよね? 確か」
カスパーが言う欲しい素材系ドロップを得るために、その潜入系クエストに何度も付き合ったことがあるアルターは即座にそのクエストが思い浮かび、嫌そうな顔をする。
そしてアルターが言った素材の名前から、その素材のドロップ率情報と使用状況を思い出し、Rainもあまりいい顔をしない。
その二人の様子にだんだんと意気消沈していくカスパーは、阿求亜の一言が止めとなりがっくりと肩を落として項垂れてしまった。
「いいじゃないですか、俺のだけじゃない目的があったほうがいいだろうし」
「そうか? そうだよな、うんうん。悠陽はいいこと言うなぁ」
うなだれたカスパーを見た悠陽の言葉に、意気消沈していた姿からは想像も出来ない素早さで、ソファから悠陽が座るバーカウンターのストゥールのまで走るとその手をとって勢いよく振る。
「仕方ないねぇ。みんなもそこでいいかい?」
現金な喜びようのカスパーに溜息を吐きつつ、Rainが他のメンバーに同意を求める。
その言葉に一番うんざりとしていたアルターが、諦めたように同意したことで二回目の悠陽のパワーレベリングを行う場所が決定した。
喜び勇むカスパーと疲れたようなアルターとの対比が激しく、悠陽は本当にこの場所でよかったのかと少し悩むこととなった。




