第一三話 ~ パワーレベリング 準備 ~
市庁舎は中に入れば初期作成キャラの待合室の流用と言ってもいいような作りの三〇を超えるカウンターと一〇〇を超える座席を持つ待合室を合わせた部屋だった。
ただ違うことはそのカウンターは全部同じ業務を行っているのではなく、二つから五つのカウンターで一つの業務に対応するようで“登録”“ミッション”“クエスト”等と区分けされている。
このとき市庁舎クエストだからと“クエスト”受付に行きそうになるプレイヤーが多くいるのだが、“クエスト”受付は対NPC討伐クエストの受付窓口であり、市庁舎クエストやタウンのキャストから受けられるクエストに対応していない。
市庁舎クエストやタウンのキャストクエストは、“登録”受付で受付または報告になる。
それは市庁舎クエストがまず“登録”受付で、それぞれの陣営の戦力として登録されることから始まるためと“クエスト”受付の混雑を考慮しての措置である。さらにキャストクエストは市庁舎に戦力登録した後に、プレイヤーの装備や資金配給のために様々なキャストのところに所謂“おつかい”クエストとして派遣され報告に戻ってくるため、市庁舎に報告が必要なキャストクエストは慣例として“登録”受付に報告するように修正されていった。
悠陽は市庁舎にRainとコングを残し、Takuを道案内にタウンのあちらこちらを駆け巡り、初期装備&資金調達クエストである市庁舎クエストを何とか終わらせる。
方向音痴である悠陽だけであればキャストのいる場所を探すだけで時間がかったところに、さらにTakuがクエストクリアに必要なアイテムを事前に揃えておいたため、悠陽がWikiを見て計算していたよりもかなりの時間を短縮していた。
それでも三〇分以上の時間がかかっている。
「これが俺のトルーパーのパーツアイテムですか」
悠陽はクエスト報酬であったトルーパーのフレームパーツを持ち運ぶためにカード化したアイテムカードを手に持って、しげしげと見つめる。
「そうよ、それを私たちメカニックが組み上げて一機のトルーパーが出来上がるの」
悠陽の呟きにコングが豊かな胸を反らして、トルーパーについて講釈を始めた。
コング曰く、トルーパーはフレーム、エンジン、アクチュエーター、カメラ、センサー、バックパック、スラスター、装甲、ジャイロ、操縦席等など最低一〇種類のパーツアイテムを使い一つのアイテムへと作り上げられる。
さらに一つ々々のアイテムもメカニックの手により様々な改造や調整をすることが可能であり、同じアイテムを使ったとしても、組み上げたメカニックの腕やレベルによって出来上がるトルーパーやパーツアイテムの性能はかなり変わってくる。
基本である上記の一〇種類以外にもプロペラントタンクやジェミング装置に冷却装置など様々なオプション装備があるため、一応の最強仕様トルーパーというものも作られているが実際にそれを使っているものは資金や各パーツアイテムの性能や自身及び師団の戦略による装備群等の関係で少ない。
かえってトルーパーそのものの性能よりも武器の性能を上げて戦う、遠距離型が現在の量産主流のためトルーパーそのものを凝るプレイヤーは一部の人間だけで、大多数はそれなりのパーツアイテムである程度の性能に組んだトルーパーを使用している。
ここまで聞けば、トルーパーはメカニックプレイヤーがいなければ作成できないように聞こえるが、キャストにもメカニックがおり、そこで組み上げや改造も可能である。
しかしNPCということでその限界値はプレイヤーに数段劣り、上位プレイヤーは自分で、もしくは師団の仲間に高レベルメカニックを持っているため滅多に利用することはない。
「コング、ちゃっちゃと悠陽のそのトルーパーを組み上げちゃっておくれ。すぐに討伐クエで悠陽を上げちまうよ」
立て板に水のごとく悠陽相手にトルーパーについて講釈をたれるコングの言葉が一瞬切れた瞬間を逃さず、Rainが圧倒的なコングの言葉の雨に呆然と聴いていた悠陽の手から素早く一〇枚のトルーパーパーツアイテムと銀河大戦の通貨である一〇万クレジットの入った資金カードという現在の悠陽の全財産を抜き取ると、全てをコングの手の中に渡し行動の指示を与える。
コングは“了解”とRainに敬礼すると、コングの工房がある師団の私設埠頭へマップ移動で即座に転移していった。
「あ~俺の全財産!」
「やかましい! あんなはした金すぐ貯まるわ!」
流れるような動作で行われた行為を呆然と見ていたが、コングが転移したことで消えたコングを追うように出された悠陽の抗議を一喝で黙らせると、Rainは悠陽の襟首を掴み“クエスト”受付へと歩いていく。
Takuは売られていく子牛を見送るように引きつった笑顔で、二人に手を振りながら見送った。
「討伐数カウントはペア一括で報酬は出来高、レベルは私を基準で今ある討伐クエストはなんだい?」
Rainはカウンターの前まで悠陽の襟首を離さず、カウンターのキャストに声をかけた。
カウンターの中にいるちょっとたれ目でショートカットの受付嬢はそんな二人の様子に目を見開いて驚くような様子を見せるも、すぐに平静を取り戻してRainの要求を手元のコンソールを使って調べる。
「そうですね。Rainさん基準であれば、ナンバー二三鉱山惑星へのNPCエルフ軍団による略奪阻止というクエストが後三〇分後から開始されます。このクエストは二時間の時間制限クエストで時間についてはいつ終了していただいても大丈夫ですが、最低二〇分以上の参加が条件です……」
さらに受付嬢の説明は続いた。
このクエストに現れるNPCキャストによるエルフ軍団の総数は二時間の間、三〇秒に二〇機のトルーパーがポップし続けて計四八〇〇機現れる。
これを参加するプレイヤーが全員で倒していくことになる。
消費する武器弾薬等の補給は補給ポイントにて自動的に補給されるのだが、弾薬以外の消耗についてはクエスト報酬から自動的に差し引かれるよう設定されている。
撃墜時の再出撃は選択制で、再出撃を選べば補給ポイントに出現し補給から始めることになるのに加え、破壊されたトルーパーの修理費用も割高でクエスト報酬から差し引かれる。
以上のことを受付嬢から説明され、現在の参加プレイヤーが悠陽たちを合わせれば一五名になっていることも受付嬢は付け加えた。
「それでいいよ。スタートはどこから?」
「はい、スタートは三〇分後にナンバー二三鉱山惑星クエスト宙域になります。クエスト参加者はナンバー二三鉱山惑星宙域に転移していただければ、このクエスト宙域へ入ることができます」
「オペレーターはついていけるのかい?」
「はい、チームにキャプテンがいらっしゃれば係留中のキャプテン所有戦艦からであればオペレーターによる管制行為が行えます」
受付嬢の説明になかったことについてのRainによる質問に受付嬢が一つ々々答えていった。
Rainは満足そうにその答えに頷き、受付嬢にチームの内訳をRain、悠陽をトルーパーパイロット、Takuをクラスはキャプテンであるのだがオペレーターとして参加を申し入れる。
「はい、師団VRゲーム研究会様で登録いたしました。貴君らの奮戦を期待します」
受付嬢はクエスト登録を手早く済ませ、目の前に立つRainとその右腕に襟首を掴まれおとなしくしている悠陽に敬礼を送った。
クエスト登録が終わり、即座に第四五埠頭へと戻った三人を迎えたのは、工房で新たに組み上げた新品のトルーパーを前に何やら考え込んでいるコングの姿だった。
「どうしたんだい? コング。難しい顔しちゃってさ」
「ん~?」
Rainの呼びかけに生返事でコングは答え、緩慢な動作で一行へと顔を向ける。
明るいいたずらっ子のようなコングにしては珍しい、しかしながら様々な部品開発に行き詰った時によくある様子にどうしたのだろうとRainとTakuは首を傾げる。
「大丈夫ですか? コングさん」
悠陽だけ、あれだけ明るかったコングの落ち込んだような様子に体調を気遣うように声をかけた。
「ん~……大丈夫よ。ただね、一応どノーマルで組んでみたけど改造したくて改造したくて。でも優君の特性わからないから改造コンセプトが思い浮かばなくてね。どうしたらいいかと悩んで悩んで。……」
悠陽の言葉を聞いてふらふらとその傍ににじり寄ったコングは、顔を俯かせたまま悠陽の両肩を掴みその胸の内を口にしていく。言葉を口にすればするほど興奮してきたのか、悠陽の肩を思いっきり揺らしながら血走った目で悠陽を見つめながら半ば叫ぶようになっていった。
ガクガクと揺さぶられるまま、あまりのコングの様子に魂を飛ばしかけている悠陽とその原因を無視する残りの二人は、組みあがった新人用のトルーパーを懐かしそうに見つめていた。
「コング、とりあえず改造はクエスト終わってからにしてくれ。もうすぐRain引率で優君の討伐クエやるから」
数分悠陽を生贄にコングの興奮が少し治まるのを待ってTakuがコングに話しかける。
「討伐クエ? 養殖?」
「そ、二時間のマラソン。たぶんこのクエ終われば二〇くらいはレベル確実に上がるだろうし、オレが操縦指導をするから少しは基本操作以外も覚えてもらおうかとね」
Takuの言葉に反応して暴走から帰還したコングは、掴んでいた悠陽の肩を離してTakuのほうへと向く。
自分のほうを向いて聞く態勢を作ったコングの養殖という言葉をTakuは肯定して、パワーレベリングの効果を類推すると同時にパワーレベリング以外の目的も告げる。
「とういうわけで、コング。私の換装よろしく」
「基本は?」
「基本は近接だね。あとはばらまけるのをいくつか」
「了解。優君のほうは?」
「ん~。アサルトライフル三丁に高速振動長剣一振り、ロングマガジン四つかね。まずは基本の動きを覚えてもらわないとねぇ」
RainがTakuのコングへの説明に割り込むように自分のトルーパーの装備換装について話し始めると、コングもそちらのほうに意識が向いてしまう。
基本的に方針は上が決める事、自分はメカいじりが仕事とコングは考えているのを知っているTakuは苦笑を浮かべるだけで、Rainとコングのやり取りを邪魔しなかった。
「というわけで優君。とりあえずトルーパーの初期登録をまずやっちゃおうか?」
「そうですね、あっちは時間かかりそうですし」
悠陽がトルーパーの操縦席に座り、Takuがキャットウォークから身を乗り出すようにしてトルーパーの操縦者登録などの初期設定に操縦設定などを判りやすく指導する形で進めていく。
このトルーパーの初期設定はクエスト等の案件においての転移や撃墜時にプレイヤーとトルーパーのデータ保護のために行われ、キャラクタートルーパーのデータ両方に書き込まれる。
「オレが教えやすいから操縦設定オレのにしちゃったけど、慣れたら自分なりにアレンジしてくれよ」
Takuの言葉に頷きつつ悠陽は操縦設定をしながら、この設定においての操縦レバーにトリガー、ペダルの振り分けに操作方法をTakuに質問した。
簡単なチュートリアルの総合宙間戦闘クエストから一辺、Rainのレベルに合わされた討伐クエストにほぼぶっつけ本番といえるような状況で望むのだから、その表情は真剣だ。しかも多少はまだ初心者ということを考慮されるだろうが、それでもあまりにも不甲斐なければリアルにおいてRainにどんな折檻を受けるかを考えれば、自ずとその度合いが深まるのもしかたないだろう。
「とりあえず手足を自在に使えないと姿勢制御に余計な推進剤を使うことになるから、その操作だけは頭に叩き込んでおいてくれよ」
「宇宙飛行士の技術でしたっけ?」
「そそ、船外活動のときに使う手法だな。大昔のアニメにロボットが使っているという設定があったのをここの開発陣はパクったんだろうな」
一つ質問や操作方法を教わるたびにその操作をお浚いするように、実際に操縦レバーやペダルを動かしてみる。
特に注意された手足の動きは重点的に頭と体に叩き込むように何度も動かしてみる。
この姿勢制御法は、宇宙空間にて動かすことの出来る手足やその他の部分を高速で動かすことで発生する重量移動の反作用を、機体全体の姿勢制御に利用することで推進剤の消耗がないことから活動時間の延長、プロペラントタンクの重量軽減などのメリットがあるため、初心者から中級者へと変わるために必須の操縦技術と言われている。
「そこの二人~! その子の武装を換装するから一旦降りて~」
いつのまにか話は終わったのかコングが、トルーパーの設定作業が終わり操縦技術講座になっていた二人を呼ぶ。
「おぅ、わかった。すぐに下りるから速攻で頼むわ」
Takuが返事をして悠陽と二人でトルーパーから降りれば、入れ替わりにコングが悠陽のトルーパーに取り付き、キャットウォークの作業台に武装のアイテムカードを差込み作業用アームを操作して、悠陽のトルーパーにRainと話して決めた武装を施していく。
「こいつの武装が終わったらさっそく飛ぶよ」
アサルトライフルを背中のマウントに設置している作業を見上げる悠陽にRainが声をかける。
「了解。なにか注意することってある?」
「とりあえず生き残れってとこかねぇ。あとはTakuの指示に従ってプレイヤースキルを磨くことかねぇ」
返事を返してきた悠陽の質問にRainは上を向いて考えながら答える。
実際悠陽が討伐対象であるNPCキャストを倒せるとは思っていない。
レベル的な問題とこのゲームにまだ不慣れな点で、Rainの庇護がなければ即座に撃墜されるのがオチである。
故にTakuの指示に従い、操縦技術を身につけ逃げ回るように指示を出した。
「別に手を出しても構わないんでしょ?」
「倒せるんなら倒してみな。ただしほんとに無茶だけはするんじゃないよ」
Rainの言葉に悠陽が不満を表すが、Rainはその言葉尻をとって発破をかけつつも注意を忘れない。
「大丈夫だよ、きっと。こっちも全力でフォローするさ」
「Taku、ほんとに頼むよ。デッドライン辺りを特に注意しておくれよ」
微笑ましいものを見るように悠陽とRainの二人のやりとりをTakuは見ながら、悠陽のフォローをRainに請け負うも、逆にRainに討伐クエストの流れをしっかり掴んでおくように注意されてしまう。
いくらNPCキャストのトルーパーがプレイヤーの操るトルーパーよりも数段劣る耐久性で、簡単に撃墜することができるとしても、二時間連続して戦闘することは弾薬や推進剤の消耗により不可能なことである。
二時間の間定期的にポップする相手に補給の隙を突かれ、その機体数が溢れかえるような状態になってしまえばどんなに上級者であろうと少人数ではクエストを完了することも難しくなる。
そのクエスト完了が難しい状態になる分岐点をデッドラインとプレイヤーは呼んでいた。
「最初の補給あたりかな? 平均的なトルーパーの所持弾薬が小銃三丁にロングマガジン四つで二八〇発ぐらい。一人当たり一.五機として一〇分で三〇機……いや三〇分で九〇機だな。一機倒すのに弾丸三発。九〇機で弾薬が二七〇発と計算できるからやっぱり三〇分くらいがデッドラインだろうな」
「そのくらいだろうね。どれくらいが潰れるかねぇ」
TakuもRainの注意されたデッドラインについて考えていたようで、考えていたことを自分なりの分析付きで披露し、Rainもその分析に同意する。
「まぁなんにせよ、集まったメンツ次第だろうねぇ」
RainはTakuとの会話をそう締めくくった。
AMBAC(アンバック、Active Mass Balance Auto Control = 能動的質量移動による自動姿勢制御)とは、アニメ「ガンダムシリーズ」において登場する作品中の架空の技術の名称。
ということでWikipediaのAMBACの項目を参照して本文中では名称を出さずに質量移動による自動姿勢制御について書かせていただきました。




