第一〇話 ~ チュートリアル 操縦訓練格闘 ~
訓練担当教官はクエスト総評と次へと進むかどうかの確認を取った後、悠陽の返事の通りに手元のコンソールパネルを操作した。
キャラだけの転移と同様一瞬の暗転と浮遊感、不快感の後に自分がまたトルーパーの中に座っていることに悠陽は気がつく。
けれども周囲を映すモニターの画像が先ほどまでいた射撃訓練場の光景ではなく、遠くに周囲を囲む巨大であろう壁がある以外何も無い広大な平原に変わっていることで悠陽は場所が移ったことを確認した。
「転移と同時に装備を変更した。確認してくれ」
訓練担当教官が再び通信モニターに現れ、装備の変更に加え今度は格闘についての操作を事細かに説明し始める。
装備は自動小銃に軽機関銃が全て外され、右手に一本の巨大なトルーパーの全長の半分は行くだろう長さの長剣が握らされ、左手には方形のスクトゥムと呼ばれるようなトルーパーサイズのシールドが持たされるよう変更されていた。
射撃と違いまず操作説明を詳しく行うのは、射撃と違いその操作が複数の操作を同時に行うため複雑であること、有効な効果範囲が射撃などと比べ狭いため、いきなりやってみたところでいいところ空振り、下手をすれば転倒することになる。
そのためまず言葉による説明が施され、訓練担当教官による実演が操縦レバー、フットペダルが連動した状態で数度行われて漸くプレイヤーが操作できるようになる。
「とりあえず数パターンの近接攻撃を実演してみたが、慣れればこれくらいは簡単にできるはずだ。他にも様々な攻撃モーションにコンボが存在するが、それは自分で探してほしい」
振り切った長剣を一振りしてトルーパーに姿勢を戻させながら、訓練担当教官は悠陽に一連の操作の感覚が掴めたかどうかを確認しながら格闘動作の説明を終えた。
悠陽は一連の操作を頭の中で反芻、確認しつつ訓練担当教官の言葉に肯き、続きを促す。
「それでは近接格闘のクエストを説明する。ここは簡単だ。プログラム操作によるトルーパーとの一対一で戦いこれに勝利すること、ただそれだけだ」
訓練担当教官は悠陽に訓練するための時間を用意し、それが終わり次第クエストの開始を宣言する。
与えられた時間に悠陽は繰り返し、訓練担当教官の操作を真似てトルーパーを動かし、長剣を縦横に振るい盾を突き出した。
悠陽にとって十分とはいえない訓練時間が終わり、訓練担当教官が通信モニターに現れると広い格闘訓
練場に悠陽の乗るトルーパーと装備も何もかもが同じトルーパーが転送され現れる。
「それではクエストを開始する」
訓練担当教官の言葉が終わると、同時にNPCトルーパーは盾を前に翳し長剣をだらりと下に下げたまま全速で悠陽の乗るトルーパーに向け猛然と突進を開始する。
「様子見とか一切なしかっ!」
ドスドスといった重低音の効果音が似合いそうで意外と高速で近付いてくる相手の動きに、悠陽はとりあえず迎え撃つべく盾を構え、長剣をいつでも振りかぶれるように用意しておく。
後五歩も進めば衝突するといったところで悠陽はぶつかったときの衝撃に耐えるべく右足を半歩下げ、大きな盾の内側にその身を隠した。そこでNPCトルーパーはバックパックの噴射ノズルから盛大に排気炎を噴出し、さらに速度を増やし五歩という距離をほぼ一足飛びに縮める。
爆音にも似た大きな音が響き渡り、地響きとともに吹き飛ばされた悠陽のトルーパーが背中から倒れ平原の土を盛大に抉っていく。
NPCトルーパーは勢いそのままに右手の長剣を振りかぶり、吹き飛ばされ倒れている悠陽に向かって振り下ろす。
「くそっ」
盾を構えても倒れたままの状態では多少は防げるであろうがこのまま押し込まれる。
そう直感でも働いたのか、悠陽は右手の長剣を相手の長剣にぶつける様に振るわせると、思いっきり両方のフットペダルを踏み込む。
NPCトルーパーの長剣は悠陽の長剣により軌道をずらされ横の地面に突き刺さり、悠陽のトルーパーのバックパックの噴射ノズルの排気炎によって巻き上げられた土煙があたりを包んだ。
悠陽は地面をさらに盛大に削りつつ上方へと逃れ、その勢いで立ち上がった。
NPCトルーパーは地面から長剣を引き抜き、互いに再び仕切りなおしと盾を構え長剣を準備する。
「相手のほうがさすがにまだ上手か。NPCに押されるとはなぁ」
悠陽は先ほどの一合で相手の動きが自分より上であると、ただのプログラムによる攻撃ぐらいと思う自分を戒める。
実際この一連のNPCトルーパーの動きで守りに入って仕留められたプレイヤーの数は多い。
それほどまでに突進から吹き飛ばして体勢を崩されてからの立て直しが難しいと言える。
「誰かの台詞じゃないけど、受身じゃ勝てないか」
悠陽は自分から攻めることを決めたが時すでに遅く、NPCトルーパーは長剣を弓を引き絞るように地面に対して水平に構え、一足飛びに踏み込んできていた。
慌てて何とか盾を割り込ませ、その突きを悠陽は防ぐ。
しかし盾に弾かれるままNPCトルーパーは長剣を振りかぶり、盾ごと切り倒すつもりか遠心力を乗せ力任せに振り下ろす。
それを一歩後ろに下がりながら盾で受け止め、そのまま今度は踏み込んで盾で殴るように押し返す。
大きく長剣を弾かれバランスをNPCトルーパーは崩すが、長剣を大きく弾かれたことを利用するように盾を突き出すように構え悠陽の動きを牽制していた。
追撃の一撃をしかけんと踏み込みかけた悠陽であったが、その盾の動きに機会を逃し蹈鞴を踏んでしまう。
「後手後手だなぁ。先手とらないと厳しいよなぁ、きっと」
お互いに再び態勢を立て直し、長剣と盾を構えなおす。
ここで悠陽は始めて先手を取った。
大きく踏み込み、殴りつけるように盾を持った左手をNPCトルーパーに向け叩き付ける。
NPCトルーパーはそれをスラスターによる横滑りを利用して一歩左に避けると、地を蹴って長剣で上段から振り下ろす。
悠陽も殴るために前に突き出した盾の勢いを殺さず、さらにスラスターによる推進力を加え前に進むことでその長剣を交わした。
二歩目の左足を軸に反転し、悠陽は一歩踏み込み今度は長剣を引き戻しつつ悠陽の方へと体の向きを変えているNPCトルーパーの右腕に向かって盾ではなく長剣を振り下ろす。
タイミングとしては完璧だった。
けれども間合いが広かったため、NPCトルーパーの右腕に当たることなく長剣は空振りすることとなった。
「あ、しまった。空振った」
悠陽は一旦後ろに下がり体勢を立て直しを図るが、NPCトルーパーは踏み込み下から切り上げるように長剣を振り上げる。
その動きになんとか盾を合わせて長剣を受け止め、お返しに長剣で突きを放つがこちらも盾に阻まれる。
互いに長剣を振り、盾で受け止め、立ち位置を目まぐるしく入れ替える。
時折悠陽は攻撃の間合いを読み間違え、空振りをすることで相手に差し込まれるが、なんとか致命的な失敗をすることなく体勢を立て直し、NPCトルーパーの攻撃を受け止めていた。
「よし、だいたいわかった。推進剤の残量とかはっと……」
NPCトルーパーの攻撃を捌き、受け流しながすため常に両手と両足を動かし指さえも休むことなく動かし続ける中、悠陽は横目で機体の状態を確認する。
「推進剤は半分以上残ってるな。ちっ、盾を使いすぎたかな、限界が近いや」
NPCトルーパーの攻撃を何度も防ぐことに使った盾の耐久値がもう一、二発の攻撃を受け止めれば壊れるほど低下している他、一番最初の地面に倒れこんだダメージとその後の対処のために背面装甲が若干歪みを見せているのが不安要素であったが、何合も打ち合ったわりには消耗度は比較的少ない。
「さてさて、そろそろ本格的に反撃でもしますかね」
横薙ぎに振るわれた長剣を壊れかけた盾で受け止め、その耐久値をさらに削った。
追撃をかわすべく一旦後ろへ大きく跳び、悠陽は間合いを大きく広げる。
そして着地と同時にNPCトルーパーの初手の仕返しとばかりに、バックパックの噴射ノズルから盛大に排気炎を噴出させ、こちらは走行ではなく最初から匍匐飛行の全力でNPCトルーパーに向かって盾を構えて突進した。
迎え撃つNPCトルーパーは悠陽と違い、自分からもこちらは走行で盾を構えて悠陽に向かって同じく突進を開始、右手の長剣を大きく後ろに振り上げいつでも振り下ろす準備をしている。
距離が縮まり盾と盾がぶつかる瞬間、NPCトルーパーは右へとスラスターを盛大に全力で噴かし素早くスライドするように悠陽の構えていた盾の横をすり抜け、振り上げていた長剣を振り下ろした。
しかしそこに悠陽のトルーパーはすでになく、NPCトルーパーの長剣は空を切り地に突き刺さる。
悠陽も盾がぶつかる瞬間、盾を放しNPCトルーパーと同じく右へとこちらは主に向きを変えることを主眼にスライド移動していた。
NPCトルーパーの振り切った体勢を戻そうと引き抜いた長剣に合わせて、悠陽は両手で持たせた長剣を匍匐飛行の勢いを合わせて相手の胸へと突き刺す。
まるでというより体ごとぶつかり突き刺した長剣は深々と鍔元まで突き刺さった。
縺れ合うように倒れる二機のトルーパーは、悠陽のトルーパーの推進力が齎した勢いのまま轟音を立てて地面へと叩きつけられ、大きく地面を抉るように削りながらしばらく進む。
「いってぇ。ほんとに免震構造なのかよ」
盛大に上下左右に揺さぶられたコクピットの中で四点ハーネスで椅子に括り付けられた悠陽は、首やハーネスが当たっている部分の痛みに顔をしかめつつ、コンソールパネルから機体状況を呼び出し即座に機体の状態をチェックする。
相手に突き刺した長剣は折れ、それを保持していた両手も破損しているがそれ以外の部分は特に損傷らしい損傷は見られないようだった。
「あちゃあ、これで倒せてなかったらお手上げ?」
そう言いながら悠陽は、ゆっくりとトルーパーを立ち上がらせて足元に倒れるNPCトルーパーの様子を確認する。
折れた長剣の刀身が深々と胸に突き刺さり、頭部は地面を削った衝撃と摩擦でひしゃげ、引き戻し突き刺そうと後ろに振り上げていた右腕は肩から千切れて細長いコードらしきものが漸く繋げている。盾をもっていた左手は残っているが盾は保持し切れなかったのだろう投げ飛ばされ、見えないけれども背面部分はもっともひどい状態になっているだろう。
縺れ合うように倒れたけれど、最後に下になったNPCトルーパーの最後に悠陽は思わず顔を顰めた。
「見事なばらばら具合だねぇ。こっちが下だったらと思うとぞっとするね」
「クエストクリアだ、おめでとう」
NPCトルーパーの惨状に悠陽が感想を言ったところで、NPCトルーパーが光の粒に変換され消え通信モニターに訓練担当教官が現れる。
「あら、これも勝ちでいいんです?」
「生き残っているのだから勝ちだろう? それにその状態でもやりようによっては戦える」
「さいですか。クリアと言うなら文句はないですけどね」
さすがに長剣を失い、両手も壊れている状態で勝利したと言われてもあまり実感のわかない悠陽は、再度やり直しも覚悟していたが、どういう状態になろうとNPCトルーパーに勝利したということでクエストクリアになることを失念していた。
「もう一度やりたいと言うなら構わないが?」
「遠慮しておきます」
けれどもクリアの実感がわかなくとも再挑戦のお誘いを悠陽は丁重に断った。
「では次に進むぞ。次は発艦、着艦訓練になるぞ」
「了解です」
悠陽は返事とともにおなじみとなった一瞬の暗転と浮遊感に体を委ねた。




