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こわがり屋の生徒会長

 今日は我が高校の文化祭。

 私のクラス二年五組は軽食喫茶という他愛のない出し物で、昼食時の繁忙時間帯が終われば、交替で休憩時間となった。

 私は生徒会室に向かった。

 私が部屋に入ろうとすると、引き戸が開かれ、書記をしている同じクラスの佳純かすみが中から出て来た。

麻美まみ! もう当番、終わったの?」

「うん! 博人ひろと、いる?」

「いるよ。会長もそろそろ暇になるはずだよ」

「本当?」

「うん。楽しんでね」

「ありがとう!」

 手を振って、佳純が去って行く後ろ姿を少しの間、見つめてから、私は生徒会室の引き戸を引いた。

「失礼しまーす!」

「何だ、麻美か」

 真正面にある生徒会長席に座っていた博人が少し緊張を解いた顔をした。部屋の中には博人だけがいた。

「何だとは失礼ね」

「前会長が来るかも知れないと聞いていたのでな」

 博人は、きれいに切り揃えられた髪に細身の眼鏡を掛けて、身長も高い。私が言うのも何だけど、かなりのイケメンだ。それに見かけどおり、頭も良く、試験期間中はいつも感謝している。

 博人は、一年の時に同じクラスになって、すぐに告白された。

「とりあえず、つきあってみないか?」

「とりあえずって?」

「恋人に発展するかどうか分からないからな。まずは友達からということだ」

 という感じで始まった交際も一年半以上続いていて、私と博人は周りのみんなから彼氏彼女の間柄だと認識されている。

 それで間違いはないのだけど、まだ、キスはもちろん、手をつないだことすらない。博人の真面目さゆえだけど、それでも彼女として不安になることはなかった。

 だって、間違っていることは絶対に許さない強い正義感を持っていて、先輩であっても言うべきことは言う博人は、今年、生徒会長になるべくしてなった。

 そんな博人は絶対に私を裏切らないって分かっているから!



「ひょっとして前会長が来るのを待ってなきゃいけないの?」

「そういうわけではない。来るかも知れないというだけだ」

「そうなんだ。じゃあ、行こうよ」

「どこへ?」

「あのねえ、今日は文化祭だよ。あちこちのクラスでいろんな出し物してるんだよ。私たちもその出し物を見に行こうよ」

「そうだな。文化祭は実行委員会が責任をもって実行しているから、生徒会が常に待機している必要もないだろうな」

「そうそう! だから行こう!」

「うむ」

 眼鏡をずりあげながら立ち上がると、150センチ前半の私が見上げなければいけないほど背が高い。つきあい始めてから、どんどんと身長差が開いていった気がする。

 生徒会室を出て、並んで廊下を歩く。

「どこかめぼしい場所を見つけているのか?」

「うん! 二年三組のお化け屋敷にいかない?」

「お、お化け屋敷……」

「何? お化けは苦手?」

「い、いや、そういうわけではない」

「でも、ちょっと顔がひきつったよ」

「だから、そういうわけではない!」

 私は知っている。博人の唯一の弱点、それは、恐がりだったり、ビビリだったりということだ。

 博人は、私にはばれていないと思っているみたいだけど、絶対にホラー映画は見に行かないし、予期せぬ出来事、例えば、廊下の角で出会い頭にぶつかりそうになった時なんかも大袈裟に驚くから、もうバレバレなのだ。

 完璧人間の博人が慌てる姿を見たいと思うのは、ちょっと歪んでいるのかなあ?



 少し腰が引けている博人と一緒に二年三組のお化け屋敷に入った。

 中は暗幕で覆われて真っ暗だ。

 私もちょっと怖くなってきた。

「博人、男なんだから先に歩いてよ」

「よ、よし」

 手探り状態で歩く博人の背中に寄り添いながら、辺りを見渡しながら歩く。

 突然、ヒモでぶらさがった「生首」が落ちてきた。

「うわああ!」

「きゃー!」

 二人して頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。

「な、何だ。マ、マネキンの首じゃないか」

 声を震わせて立ち上がった博人は「麻美」と私の名前を呼んで、手を差し出してくれた。

 初めて握った博人の手は私を引き上げてくれた。

「い、行けるか?」

「う、うん。博人もすごいびっくりしてたね?」

「いきなり出てきたから驚いただけだ」

「うふふ」

 私は手をつないだまま、博人の正面に回った。

「私、こわがり屋の博人も大好きだよ」

「だ、だから、あれは怖がっていたのではなく、突然出て来たから驚いただけだ」

「はいはい」

「本当だ! 男子たる者、女子を守るべきだと考えている。だから、怖がっていてはいけないんだ!」

 変なこだわり……。でも、それが博人なんだよね。

「じゃあ、博人。出口まで手をつないでいてくれる?」

「し、仕方ないな」

 

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