歓喜
痛くないと聞いても、安心なんてできるはずがない。
俺たちは、ただ立ち尽くすしかなかった。
目の前の現実をどう理解すればいいのか分からず、胸の奥にじわじわと冷たいものが広がっていく。
そんな張りつめた空気を踏み潰すように——
唐突に、甲高い笑い声が響いた。
「……アハ、アハハハハハハ!」
文は腹を抱え、喉の奥から絞り出すように笑っていた。
その笑いは楽しげというより、相手の不幸を噛みしめるみたいに粘ついている。
「なにその顔。ほんっと……最高」
「裏切り者がさぁ、腕なくして立ち尽くしてる姿って……こんなに滑稽なんだ」
彼女はゆっくりと首を傾け、郁美を値踏みするように眺め回す。
「両腕なんてさ、あんたには最初から贅沢だったのよ」
「私を捨てて、平気な顔で生きてたくせに……まだ“人並み”でいようとしたの?」
歪んだ笑みが、さらに深くなる。
「いいわ。次は両足? それとも……両目?」
わざと間を置き、楽しそうに舌を鳴らす。
「どっちにしても、動けなくなるか、何も見えなくなるか」
「……あははっ。選択肢があるだけ、感謝しなさいよ?」
再び笑い声がはじける。
それは勝者の笑いというより、誰かを壊せることに酔っている人間の、醜く甘い歓声だった。




