母の心配
「一体何があったの?」
「危ないことに巻き込まれたんじゃないでしょうね?」
「怪我は本当にないの?」
俺たちは顔を見合わせ、
あらかじめ決めていた説明を、
慎重に口にした。
「……たまたま河川敷を歩いていたら、叫び声が聞こえて」
「様子を見に行ったら、
女性が男性に襲われているところだったんです」
細かいことは伏せ、
必要最低限だけを掻い摘んで話す。
最初は、
和政の親も心配と怒りが入り混じった様子で
声を荒げていたが、
俺たちが落ち着いて説明を続けるにつれ、
徐々に感情も鎮まっていった。
しばらく沈黙が流れたあと、
運転席から静かな声が落ちてくる。
「……何もなかったのは、本当に良かったわ」
「でもね、もう二度と、
危ないことに首を突っ込まないでちょうだい。」
ミラー越しに、
真剣な視線が向けられる。
「自分たちでどうにかしようなんて思わないこと」
「何かあったら、すぐ警察を呼ぶ。いいわね?」
そしてそれ以上、
深く追及されることはなかった。
「達也くん、どうするの?」
車内で、
和政が身を寄せるようにして
小声で話しかけてきた。
「どうするって?」
「……よければ、
今日はうちに泊まっていかない?」
その提案に、
俺は一瞬だけ言葉を失った。
正直に言えば、
和政の言う通りだと思った。
犯人はまだ捕まっていない。
しかも、あの男は冗談や脅しじゃなく、
本気で俺たちを殺そうとしていた。
そんな状況で、
それぞれの家に散るのは危険すぎる。




