129/137
異変
ドアを開け、祖母を先に乗せ、
自分も滑り込むように後部座席へ入った。
ドアが閉まる瞬間、
ガラス越しに郁美と目が合う。
その表情は――
笑っているのに、どこか冷たい。
エンジンがかかり、
パトカーがゆっくりと動き出す。
俺は無意識に、強く拳を握っていた。
「よかったの? 彼女」
祖母が心配そうに、
俺の顔を覗き込む。
「うん……」
短く答えて、
俺は視線を車窓の外へ逃がした。
流れていく景色を眺めながら、
胸の奥に沈んだ違和感を、何度もなぞる。
――どうすべきだろうか。
郁美のあの異変。
きっと、獄門が関係している。
そうとしか思えない。
獄門で、何かあったのか?
確かに、文の死は衝撃だった。
あれは誰にとっても、
耐えがたいものだったはずだ。
だが――
その直後の郁美は、
今のようではなかった。
義父と父が対峙していた時も、
彼女はいつもの、
少し自信なさげな郁美だった。
怯えながらも、
ちゃんと“郁美”だった。
明らかに変化があったのは――
獄門を出る直前……
いや、違う。
直後だ。
光の門を抜けた、その瞬間から。
郁美は、どこかおかしくなっている。




