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110番
咀嚼するたびに、眠気と一緒に、
昨夜の出来事が少しずつ輪郭を取り戻していく。
郁美の様子、桜との電話。
食べ進めるにつれ、
頭の中の霧が晴れていくのがわかった。
今日は木曜。
本来なら、何も考えずに学校へ行く日だ。
だが――
「……違うな」
今、優先すべきことは、それじゃない。
ハンバーグを食べ終え、箸を置く。
しばらく皿を見つめてから、
俺は深く息を吸った。
逃げても、後回しにしても、状況は良くならない。
むしろ、悪くなるだけだ。
俺は立ち上がり、
リビングの隅に置かれた家の電話へ向かう。
受話器を取る手が、わずかに震えた。
――覚悟を決めろ。
そう自分に言い聞かせて、ダイヤルを押す。
「……1、1、0」
コール音が鳴る。
すぐに電話は繋がり、
落ち着いた女性の声が耳に届いた。
「事件ですか、事故ですか?」
一瞬、言葉に詰まる。
喉の奥がひくりと鳴って、息がうまく吸えない。
「……事件……だと、思います……」
その瞬間だった。
張りつめていたものが切れたように、視界が滲む。
「何がありましたか?」
「……両親が……帰ってこなくて……」
声が震え、
言葉が途切れ途切れになる。




