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朝飯
もしかしたら。
本当に、元に戻っているのかもしれない。
そんな淡い希望が、
胸の奥でふわりと膨らむ。
だが、いつまでもこうしているわけにもいかない。
俺はできるだけ音を立てないように、
そっと腕を抜き、布団から出た。
階段を足音を立てないように降り、
洗面所で顔を洗う。
冷たい水が、
ぼんやりしていた頭を
少しずつ現実へ引き戻してくれた。
一通り身支度を済ませ、
リビングへ向かう。
テレビの電源を入れると、
画面の隅に表示された時刻は
6:03。
……早すぎる朝だ。
俺は冷蔵庫から牛乳を取り出し、
コップに注いで一口飲む。
胃に冷たさが落ちていく感覚が、
妙に落ち着いた。
「……とりあえず、朝飯でも作るか」
誰に言うでもなく呟き、
キッチンに立つ。
「作る」と言っても、
実際には桜と郁美が用意してくれていた
作り置きを、レンジで温めるだけだ。
それでも、今の俺には十分すぎる。
昨日は結局、
ほとんど何も口にしなかったので、
腹はぺこぺこだ。
俺は冷蔵庫からハンバーグを取り出し、
ラップをかけてレンジに入れる。
チン、という乾いた音。
皿に移されたハンバーグから、
湯気が立ちのぼる。
箸を入れると、
思った以上に柔らかかった。
一口、口に運ぶ。
……うまい。




