朝
すると郁美は、
相変わらず俺の携帯を手にしたまま、
何かを操作している様子だった。
嫌な予感が胸をかすめたが、
もうどうでもよくなっていた。
……なるようになれ。
俺は冷蔵庫から牛乳を取り出し、
コップに注いで一気に飲み干す。
「寝る時は、
うちの親の部屋のベッド使っていいから」
それだけ言い残し、
俺はぶっきらぼうに背を向けた。
階段を上がり、
自分の部屋へ向かう。
体力が完全に底をついていたのだろう。
布団に潜り込むと、
考え事をする間もなく、
意識はすとんと落ちた。
――そして、朝。
ぼんやりと浮かび上がってくる意識の中で、
普段は嗅ぐことのない、
甘くて柔らかい匂いが鼻をくすぐる。
同時に、
胸のあたりにわずかな重み。
不思議に思い、
ゆっくりと目を開ける。
……そこにいた。
俺の腕の中で、
郁美が静かな寝息を立てている。
驚くほど無防備な表情で、
すやすやと眠っていた。
長いまつ毛が頬に影を落とし、
その顔つきには、
まだどこか幼さが残っている。
だが、それとは相反する
大きな胸が俺の脇腹に当たっている。
一瞬、現実なのか夢なのか分からなくなって、
俺は息をするのも忘れて、
ただその光景を見つめていた。
――なんで、こうなった。
胸の奥に、
戸惑いと、言葉にできないざわめきが
広がっていく。
眠っている郁美は、
昨夜のあの豹変ぶりが嘘だったかのようで、
まるで――
以前の、心優しかった頃の郁美に
戻ったみたいに見えた。




