携帯
その言葉が、胸に突き刺さる。
「ち、違う……!
俺は……そんなことしない。
ただ……携帯を返してほしいだけなんだ」
必死にそう言い訳する自分の声が、
やけに弱く聞こえた。
郁美は答えない。
ただ、口元に薄く笑みを浮かべたまま――
携帯を、さらに強く抱きしめていた。
「……じゃあ、キスして……」
「だから……」
言いかけて、
俺は言葉を飲み込んだ。
このまま何を言っても、
きっと同じところをぐるぐる回るだけだ。
それが分かってしまって、
急に力が抜ける。
俺は深く息をつき、
郁美から視線を外して
リビングの椅子に腰を下ろした。
今は、何を言っても無駄だろう。
――また、明日考えればいい。
今日はもう、限界だ。
頭の奥が重くて、
まともに思考が回らない。
とりあえず風呂に入って、
さっさと寝よう。
もしかしたら、
郁美も一晩寝たら
元に戻っているかもしれない。
そんな都合のいい期待を
胸の奥に押し込め、
俺は風呂場へ向かった。
シャワーの音が、
やけに大きく響く。
できるだけ手早く、
無駄な動作を省いて体を洗う。
下手をすれば、
郁美が入ってくるんじゃないか――
そんな考えが頭をよぎって、
自然と動きが速くなった。
けれど、その不安は
杞憂に終わる。
十分も経たないうちに
シャワーを止め、着替えを済ませる。
何事も起こらないまま、
俺は風呂場を後にした。
そして、リビングへ戻る。




