修羅場
ごまかすように、俺は続けた。
「うち、親の寝室が空いてるから。
今日はそこ使ってもらうつもりだ」
「ま、根性なしの達也が
変なことするわけないかー。ふふ」
「るせー」
ぶっきらぼうに吐き捨てると、
少し間が空いた。
「桜……」
「ん……?」
「色々、ありがとうな」
「なに急に?」
「いや……桜と話したら、
ちょっと落ち着いた」
受話器の向こうで、
空気がやわらぐのがわかった。
声には出さないけど、
たぶん笑ってる。
「……そ。よかっ……」
――ガチャ!!
トイレの扉が勢いよく開いた。
「達也くん……?
今、誰と話してるの?」
振り向いた先に立っていた郁美の視線が、
まっすぐ俺を射抜く。
さっきまでの会話の温度が、
一瞬で冷えた。
受話器を握る手に、
じっとり汗がにじむ。
「えっと……桜と……」
そう答えた瞬間だった。
郁美の表情が、
すっと変わる。
次の瞬間、
彼女は迷いなく俺の手から携帯をひったくった。
「おい、な――!」
制止する間もなく、
郁美は画面に向かって声を張り上げる。
「桜ちゃん?
もう達也くんに電話しないで。
次にやったら……
本当に、後悔させるから」
「郁美……やめろ!」
俺の声など聞こえていないかのように、
郁美は続けた。
「だって、もう達也くんは
“私の”だもん。
さっき……達也くんと、
キスだってしたから!」




