キス
咄嗟に郁美は俺に顔を近づけて、
キスをし、口の中の煮付けを俺の口のなかに流し込んできた。
「んっ…..んぐ….」
俺にはなす術もなかった。
郁美はキスをしながら、
俺の口内を味わうように舐めまわした。
時間にして3秒ほどであったが、俺は郁美を引き離した。
「えへへ!...おいし?」
「な….やめろって…」
俺は顔を真っ赤にして、口元を拭った。
何が起きたのか、理解するより先に、
心臓だけがうるさく鳴っていた。
郁美は、悪びれた様子もなく、くすっと笑う。
「えへへ……おいしかった?」
「……っ」
言葉が出ない。口元を乱暴に拭いながら、頭の中がざわつく。
――こいつは誰なんだ。
本当に、俺の知ってる郁美なのか?
俺は視線を逸らし、立ち上がった。
「……トイレ行ってくる」
それだけ言い残して、その場を離れる。
少しでも、頭を冷やさないといけなかった。
――俺は、どうすればいい。
立ち尽くしたまま、頭の中だけが空回りする。
考えろ。落ち着け。……そう思えば思うほど、思考は絡まっていった。
そのとき、ふと脳裏をよぎる。
そういえば、俺は、警察に電話をしようとしていたんだ。
「……あー、もう……」
思わず声が漏れる。
ただでさえ手に負えない状況なのに、
郁美が現れたことで、
問題はさらにややこしくなった。
今は一人で抱えるのは無理だ。
そう判断して、俺はスマホを手に取る。
連絡先をスクロールすると、
自然と桜のところで止まった。
時刻はもう遅い。
それでも、起きていてくれと願いながら、通話ボタンを押す。




