変な空気
「この間来たばっかりなのに……
なんか、久しぶりな感じがする」
郁美はソファの背に体を預けて、
少しだけ笑った。
「……えへへ」
「……うん」
短く返した俺の声に、
彼女は首を傾げる。
「なんでだろうね……
あ、桜ちゃんがいないからかな」
一瞬だけ間を置いて、
いたずらっぽく続ける。
「桜ちゃんがいるとさ、
せっかくの雰囲気が台無しになるんだもん……」
「桜と、仲良かったんじゃないのか?」
そう言うと、
郁美の表情がわずかに曇った。
「前はね」
すぐに視線を逸らし、
拗ねたように言う。
「でも今は嫌い。
達也くんのこと、誘惑するから」
小さく息を吸って、
言葉を重ねる。
「……というか、
達也くんに近づく女の人は、みんな嫌い」
空気が一段、重くなる。
冗談めかしているようで、
どこか本気の響きがあった。
「……あー……」
俺は居心地の悪さを誤魔化すように
立ち上がる。
「この間来たとき、
作ってくれた料理あるけど……食べる?」
「え、食べたい!」
郁美の声が、
ぱっと明るく弾んだ。
「ほとんど私が作ったみたいなもんだよね。
桜ちゃん、邪魔しかしてなかったし!」
「あー……うん……」
適当な相槌を打ちながら、
俺は冷蔵庫を開け、
作り置きのタッパーを次々とテーブルに並べていく。
プラスチックが触れ合う乾いた音だけが、
静まり返ったリビングに響いた。
その背後で、
ソファから立ち上がる気配がする。
次の瞬間、
郁美が距離を詰め、
俺のすぐ横に並んだ。




