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今日だけ
「お母さんと喧嘩しちゃって……ほら……
達也くんのお父さんに、義父がひどいことしたでしょ?」
胸の奥が、きしっと音を立てた。
「だからさ……なんであんな人と結婚したのって、
問い詰めちゃったの……」
郁美は少し目を伏せる。
「そしたら……お母さん、泣いちゃって……
今は、顔を合わせたくないの……」
言葉が、柔らかく、
でも確実に俺の中へ入り込んでくる。
「だから……お願い……達也くん……」
一拍、間を置いて。
「今日だけでいいから……泊めて?」
「……いや……」
拒否のつもりだった。
でも、声は情けないほど小さく、頼りなかった。
「私がさ……一人で、こんな夜に歩いてたら……」
郁美は、わざとらしく周囲を見回す仕草をする。
「誰かに攫われちゃうかもしれないよ?
……それでも、いいの?」
「よ……よく……ない……」
ようやく絞り出した答えだった。
すると、郁美はほっとしたように微笑んだ。




