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嫌な予感
嫌な予感を抱えたまま、
インターホンのモニターに目を向けて――
俺は、背筋が凍りついた。
画面の向こうに立っていたのは、
郁美だった。
「……なんで……帰ったんじゃないのか……?」
喉が張り付いたように声が出ない。
それでも、恐る恐る受話器を取る。
すると、スピーカー越しに、
やけに明るい声が返ってきた。
「あ、達也くん? 私、郁美だよ?」
まるで何事もなかったかのような、
いつもの調子。
「家に帰ってさ、
着替えとか、揃えてきちゃった!」
「あ……ああ……そうなんだ……」
自分でも驚くほど、
声が弱々しかった。
「とりあえずさ、
寒いから中に入れてほしいな!」
モニター越しの郁美は、
肩をすくめて笑っている。
まるで、夜に友達の家へ
遊びに来ただけみたいな顔で。
「……いや、今日は……
お母さんも心配するだろうし……」
必死に理由を探す。
でも、その言葉を待っていたかのように、
郁美は間髪入れずに続けた。
「帰る場所、ないの……」
一瞬、空気が変わった。




