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心配
さっきよりも強く。
さっきよりも、はっきりと。
俺は、真正面から
郁美に告げた。
「えぅ……」
郁美は小さく喉を鳴らし、
半べそをかいた。
唇を尖らせ、
拗ねた子どもみたいな顔をしながらも、
渋々うなずく。
……どうやら、
一旦引いてくれたらしい。
「じゃあ……とりあえず、
今日は解散ということで」
場をまとめるように
俺が言うと、
「そうね……郁美、行きましょう」
桜が、壊れ物に触れるみたいな声で
郁美に声をかけた。
その瞬間だった。
「いい!」
郁美は弾かれたように
顔を上げる。
「私、一人で帰る!」
吐き捨てるようにそう言うと、
振り返りもせず、
足早に歩き出した。
スタスタと、
まるで俺たちから
逃げるみたいに。
呼び止める間もなく、
郁美の背中は
人混みに紛れていく。
俺たちは顔を見合わせ、
言葉を失った。
「……本当に、
どうしちゃったのかしら……」
桜はそう呟きながら、
遠ざかっていく郁美の背中を、
いつまでも心配そうに
見つめている。
「俺にもわからない……」
無意識に、
考えを口にしていた。
「精神的な重圧で、
人格が変わった……とか?
いや……それにしても、
あんなに急に変わるもんか?」
自分で言いながら、
しっくりこない。




