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ある日、研究室でお茶請けとして、わたし特製の絶賛干し肉を出したところ、先生もこの干し肉はご存じでかなり好物だという話をしていたら、お互いにお酒が好きだっていうことがわかった。


そうか、酒作りしていなかった。

今か今なんだなと、先生とお酒作りを始めることにした。

先生は実際のところよくわかっていなかっただろうけど、お酒を造るっていうことだけでテンションあがっていた。


先生に聞いてみたら、この世界のお酒はエールとワインぐらいだそうだ。

そしてお酒は個人で作っても怒られない。というのか、エールはご家庭でそこそこ作っている。ワインは領主主催で作っていることが多いのだとか。


やはり日本酒が飲みたい。利酒会に参加したり、日本酒フェアに行ってみたり、名産地に足を運んだり、量は飲めないけど、勉強はしたことがあるし、数多く味わってきた。

だから、日本酒は作るのが難しいのも知っている。でもこっちの世界、錬金術があるのである程度過程がわかっていて、最終結果をくっきりこんなものだって断定できれば作れたりする。


モーリさんに頼まれ醤油を知らなかったこっちの世界の錬金術師に卵かけご飯を食べさせ、大豆からできるんだと材料を渡し作り方をレクチャーしたら、一発で醤油が出来た。彼は干し肉のためにもモーリさんところで頑張って働いている。


材料のお米はこっちの世界では家畜の餌あつかいで安く買えるようだ。召喚魔法で呼びだす。そうやってすべての材料を揃えたら錬金だ。

【錬金 すっきり後味フルーティな大好きだった日本酒】

出たよ。日本酒。涙がでるぐらい懐かしい。ほんの少し口に含む。ふわっとフルーティな香りがする。水みたいにさらさらすっきりしている。

はぁー。美味しい。

昔大好きでよく飲んでいたものに似ている。懐かしい。美味しい。今はこれで十分かな。

わたしが楽しんでいる横で、ぎんぎんに期待した先生がじっとみていたので、先生にも味見をしてもらう。


「酒精は多いのに、すっきりしていて飲みやすい。これはかなりいける。マヤ。もっと作れ。」

酒飲み遠慮がない。ということで、錬金術でつくったり、こっそり複製したりで、机の上に日本酒をどんどん増やす。


2人して、研究室で干し肉をあてに酒盛りをする。

授業後だといえども、学校内なので、セーブしないとなって思うと、少し気持ちが萎える。そうだ、自宅に転移しよう。先生を巻き込んで転移する。


先生は酔っていたが、さすが魔法おたく、転移の魔法にテンション高まったようだ。

2人して日本酒飲んで、転移の魔法について熱く語った。

転移は便利で良いというわたしの意見に、先生は座標がーとか転移にかかる魔力の放出がーとか絡んでくる。次の日が休みで良かった。


応接間のソファーで目が覚めたら、目の前で先生が寝ていた…。

先生をお持ち帰りしてしまった。初寝顔を見てしまった。なんか、可愛い。

一晩一緒に過ごしたが、あやまちはない。まぁずっと飲んでいただけだからねー。


先生が寝ている間に、今度はウイスキーを作ろうかと思いつく。ハイボールが飲みたくなったのだ。

大麦を呼び出し他の材料も揃ったらこれも錬金だ。作り方もざくっと知っている。

【錬金 〇崎の25年もののウイスキー】

レモンもどきも呼び出し、炭酸水も作る。朝から何やっているんだと思いながらも懐かしいハイボールを味わいたい。


ハイボールまで作れるなんてわたしの魔法ほんとうに素敵!

ちびちびやっているうちに、先生が目覚めたようだ。


「お、また何か飲んでいるのか、俺にもくれ。」

「あいよ。」

「おお。これはこれでうまいな。」

「先生、昨日も結構飲んだのに、元気ですね。二日酔いしないんですか?」

「ああ、おまえがくれた状態異常無効の指輪つけているからじゃないか。目覚めがすっきりだぞ。」

「そうか、二日酔いも状態異常だと認定されたのかな。二日酔いがないのはよいね。」

「ああ、ぜんぜん平気だから、まだ飲めるしな。ははは。」

「先生、でも明日は休みじゃないから、今日は昼までね。」

「おお、わかった。でも、うまいなこれも。なぁ、マヤ。これ他の奴でも作れるか?」

「ハイボール?ウイスキーがあれば作れると思うけど。」

「そのウイスキーとやらは作れるのか?」

「んー。この実物を飲んで、センスのある錬金術師なら作れるかな。それか、鑑定持ちが最初から作ればいけるかも。」

「俺の実家、貧乏だって言っただろ。これ領地で作ることができればな。」

「そういうことなら、先生の実家に行く?」

「今からか、王都からなら馬車で三日かかるぞ。」

「先生、研究所からここまで何できた?」

「転移魔法か。あれ、俺も覚えたい。マヤ、何度か研究所とここと往復してくれ。」

「はいはい。」


ということで、先生は転移魔法も覚えた。凄いよね。先生。魔法おたくの魔法に対する真摯な思いと飽くなき好奇心。


で、二人して先生のご実家へ転移。

一面の麦畑が広がるのどかな光景。先生貧乏っていっていたけど、見た目はそうじゃなさそうだけど。

「今年は豊作かもしれないけど、数年前に何度か凶作で、手持ちの蓄えを全部吐き出したんだ。どうにか耐えているっていう感じかな。」

「そうなんだ。材料の米か、大麦はありそう?」

「米は作っていないが、大麦はあるぞ。エールが皆好きだからな。あと、酒好きの上級鑑定士と上級錬金術師はいる。俺の長兄とちい兄ちゃんな。」

「じゃ、まずはお二人にウイスキー飲んでもらって味を覚えて貰ったら、錬金術師のお兄さんが作れるかどうか。どれだけ作れるかによるけど、高級品として売り出せるかも。それと平行して鑑定のお兄さんが1から仕込んでいけば、そのうち特産になるかも。時間魔法使える人がいれば早めにできあがるよ。」

「そうか。いけそうか…。ん、1から仕込むってどんな感じ?」

「うろ覚えだけど、発芽させて乾燥させて麦芽つくって、粉砕してお湯に混ぜてして、発酵させて蒸留して熟成かな。」

「さっぱりわからんわ。」

「そうだろうね。ただ上級鑑定士なら、実物飲んだらだいたい作り方わかるらしいから。それでガンバレっていう感じ。」

「実際の味を知っているかどうかなんだな。」

「そう、だから、今からお二人に飲んでいただければなんとかなると思うよ。」

「よし、行こう。俺の家はこっちだ。」


さすが子爵腐ってもお貴族様、結構立派な先生のご実家にご招待される。心の中ではどきどきだ。ただの酒作りへの協力だといえども。


「お坊ちゃま、今日お帰りでしたか?」

「いや、突然なんだ。兄様たちいるか?」

「本当突然でございますね。今日はたまたまお二人ともいらっしゃいますよ。」

「じゃ、また後でな。」


先生は勝手知ったる我が家ということでどんどん進む。わたしは紹介もされずに後ろをついていく。ええんかいな。

重厚な執務室らしい部屋をノックもせずにどんと開ける。先生らしい。


「よ、兄様たち、話があるんだ。」

「なんだ、おまえ急にどうした。」

「マヤ、例のものここに出してくれ。」

「こっちがハイボールでこっちがウイスキー。」

マジックバッグからどっちも出してみた。お兄様がたは何が何だかわからない感じだったが、これらがうまい酒だと紹介されたら、恐る恐る手を出し、後は自然と宴会になった。

「マヤ、例の干し肉も頼む。あれうまいんだ。」


褒められるのはやぶさかではない。どんどん出しましょう。どうせならと、アヒージョに唐揚げにポテトフライにポテトチップスも出しましょう。


「なんだ、この酒、うますぎる。エールとはぜんぜん違う。酒精が強いのに飲みやすい。この芋を食べてから飲むと更にうまい。」


もう一人のお兄様もうまいうまいとどんどん飲まれるので、どんどん机の上にハイボールとウイスキー(ちゃんと氷も入れているよ)を出していった。お二人ともお貴族様とは思えないぐらい雑な様子に先生のお兄様なんだなってしみじみ思う。


先生は先生で今までこんな美味しい料理出てなかったじゃないか、と文句を言いながら食べては飲んで、飲んでは食べている。

先生干し肉大好きだから、今まで他のは出してなかったんですって。


「この酒を領地で造らないか。」

「わたしもそれは思いついた。今まで飲んだことのない極上の酒だ。」

「おまえは、もう鑑定したんだろう。」

「ああ、うちの領地にあるもので、材料は揃うし、造れると思う。」

「時間魔法の使えるやつはいるのか?」

「兄上が持っておられる。おまえも持っているだろ。手伝え。」

「うちの兄弟、魔法はいろいろ使えるけど、攻撃魔法はからっきしだと今まで笑われてきたけど、ここにきて逆転だな。」

「父上と母上に嫁たちにも相談か。まぁ父も母も酒は大好きだし、酒豪のうちの嫁も、エール作りに命をかけている次男嫁も反対なんかしないと思うし、皆、あの酒をのませれば一発OKだな。最初は敷地の横に工場を建てるか。出来上がるまでは、兄上の錬金術で日々作ってもらうしかないな。」

もう、毎日飲む気満々だね。

「大麦増産しないとな。」


「そうえいば、マヤおまえ、植物魔法と成長魔法持っていたな。」

酔っぱらった時に、ついついしゃべってしまっていたわたし。先生の前だとガードが緩い。


「ただとはいわん。手伝ってくれた分はいくらか払う。それか俺にその魔法教えろ。」

「植物魔法に成長魔法か、わたしも欲しいな。是非に。わたしにも教えてくれ。」

「わかりました。でも、どっちも口で説明しずらいので、見て勝手に覚えて下さい。」

「いいぞ、早速、兄様裏庭借りても良いか?明日学校あるから、あんまり時間ないからすぐに大麦成長させるわ。」

「ああ、わかった。って、おまえ明日学校なら間に合わんだろう。」

「いや、間に合うんだ。新しい魔法覚えたからな。」

「な、何?転移か。わたしも覚えたい。」

「いいか、マヤ。兄さまたちにもよろしく頼む。嫡男だから仕方なく領地を運営されているが、兄様たちも俺と同じく魔法が大好きなんだ。2人が俺を王都で魔法を学ぶことを許してくれているのは、新しい魔法を早く知りたいだけなのは知っているからな。」


そう、先生が3人に増えたのだと思えばいいのか。先生とお兄様方二人と連れて、研究所と領地館を何度か転移する。

これでわかるのか、わかるところが凄いぞ、この兄弟。転移を覚えたのか、近場を転移してはしゃいでおられる。なんだか微笑ましい。


そして裏庭に。指定された場所に土魔法で耕し、大麦の籾を呼び出し、植物魔法で植えて、魔法で水を撒き、成長魔法で一気に育てる。

「マヤ、流石だ。いい魔法だ。で、俺が覚えるまで、あと3回ぐらいよろしく。」

無邪気なお願いの先生には弱い。いいよ、これぐらいお茶の子さいさい。


ということで、後3回。大麦作って、あ、お兄様方がもう1回、もう1回とお願いしてきた。あー。先生に似ているので無下にできない。

後、1回だけですよ。と、いいつつ、お兄様方が覚えるまで後、3回頑張った。


大麦もたくさん収穫できたから、全部時間停止のマジックバッグに収納した。

それを見た上級錬金術師のお兄様が、真剣な顔をしてこっちを見る。

はいはい。時間魔法も使えるんですね。後は空間魔法使えたら、マジックバッグ造れるようになりますよね。

今まで貧乏でマジックバッグ見たことなかったから造れなかったという悲しい過去をもつ長兄様、はいはい。好きなだけそのマジックバッグ見てください、なんなら差し上げますから。


「そんな貴重なものをもらうわけには…」

「いえ、わたし作れますから。山ほど作れますから大丈夫です。そのマジックバッグは庶民の部屋4000個分とあんまり入りませんからお手軽に使えますよ。」

「え、4000個分でお手軽とは!」

「大丈夫ですよ、すぐにそれぐらい作れるようになりますから、最初は台車1台分ぐグになりますから。」

とわたしのマジックバッグから出したことにして何個も複製でバックを出していく。

「自分でバックは作らなくて良いのか、学校ではそう学んだが。」

「それは古い情報です。バッグは誰が作っても大丈夫ですから。」

「それは助かった。そんなに器用じゃないから空間魔法を覚えてもマジックバッグ造りは大変だと思っていた。」

魔法のセンスのある長兄様なら、マジックバッグもすぐに造れるようになるだろう。先生をはじめご兄弟もMPはかなり持っていると聞いている。マジックバッグも主産業になるといいね。


「じゃ、兄様方、今日は俺たち帰るから。酒造り心配だから、また来るよ。」

「ああ今日はびっくりしたが、ありがとう。この領地に光が見えた。おまえを王都に置いていて正解だったよ。」


男兄弟なのか、あっさり挨拶をすると、研究所に戻ってきた。たった1日なのに随分濃い1日だった。


あれから、お兄様方はマジックバッグ造りに成功したり、錬金術で作ったウイスキーを貴重品として売り出したり、領地でウイスキー工場を稼働させたりで、右肩上がりの成長だと先生から教えてもらった。良かった。良かった。

お嫁さんたち、お子さんからも喜びのメッセージもいただいて、何度も先生と遊びに?いや酒造りに行っては宴会をし、先生のご家族ともども仲良く交流を続けた。


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