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そう聞こえたのが最後だった。だんだん光が減っていく、がくんと落ちる感覚、ひゅーっと感じて、あっと思ったら目が覚めた。
知らない天井だった。この台詞を口に出す日がくるなんて。
あれは夢じゃなかったのか。
いつもリアルな夢を見てきたから、夢だと思おうとしたけど、あれは夢じゃないと確信している自分がいる。ああ、転生か。転生。まさか自分が本の世界と同じような目に合うなんて。本の世界なら山ほど読んできた。活字中毒気味のわたし。普通の本も漫画もネット小説もなんでも好物だった。
はぁまさかこんな日がくるなんて。
目に入る自分の手が小さい。若くしたって管理者の方が言っていたけど、今何歳なんだろう。あ、ここはステータスの確認か。
アラサーの自分には恥ずかしいが、ここは異世界のお約束だ。ガンバレわたし。
「・・・ステータス」
つぶやくような小さな声だったが、半透明のウィンドウが目の前に現れた。
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マヤ
8歳
無職
HP 50
MP 3800000
創造魔法
スキル
界渡り
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ほんとゲームみたいだ。8歳か。若いな。いや幼い。一人暮らししていいのか。MPがなんだか凄い数字だけどこの世界で一番多いらしいけど標準がわからない。
うーん、でも管理人の方は好きにしていいっていっていたし、いいか。いいことにしとこう。
木のベッドは子ども用なのか、少し小さいし、高くもない。裕福な商人の家という設定なのか、部屋の雰囲気は凄く良い。わたしの好みだと思う。まさかこれもスキャンの成果なのか。自分の好みが駄々洩れで少し恥ずかしい。
木の机とその隣に結構大き目の本棚がある。どんな本があるのか見たい。
床はコルクのような感じに見える、素足で歩いても大丈夫そうなので、ベッドから降りて本棚まで歩いてみる。
うぉ、本があるのに文字が読めない!
背表紙に何が書いてあるのかわからない。ガーン。
しばらく放心したが、あ、そういう時は創造魔法じゃないか。
『言語翻訳魔法取得』
あ、読めるようになった。良し良し。言葉は大事だよねー。
背表紙は「魔法初級」と読めた。読みたい。けど、まずはここで生きていけるかどうか家の中探検しないと。わたしは基本小心者でゲームなら攻略本をすみからすみまで読むタイプだ。
よし、部屋を出てみよう。
廊下を少し歩くといくつか扉がある、覗くと自分の部屋より少し大きめの部屋がある。2人部屋みたいなので、ここが架空の両親の部屋という設定なんだろうか。
いくつか自分の部屋と同じような部屋があり、執務室みたいな部屋の中には大きな机と壁際に本棚があった。本また読みにこよう。残りはトイレで最後階段があった。トイレは地球のもの見た目変わらない感じでほっとした。3階もありそうだけど、今回は下に降りた。
1階はホールと広間と応接間と台所と食堂と工房みたいなところ、お風呂もトイレもあった。一人で暮らすには広すぎる。庶民には落ち着かない広さだ。工房みたいなところは結構広い。20畳ぐらいはありそう。
この世界の裕福な商人ってお金持ちなんだなぁ。ちなみに三階は使用人の部屋っぽくて小さめの部屋と家令とか執事とか少し偉い人用に部屋があった。鍵のかかる戸棚とか引き出しがあったので、何か重要なものを管理している設定なのかも。知らんけど。
今いるのは台所。食べることができないと生きていけないから、ここは大事。ちゃんとご飯作ることができるんだろうか。
結果、台所はよくわからなかった。この世界のことぜんぜん知らないから仕方がない。
うう、ここはそう、これだ。
『鑑定魔法取得』
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魔石で動くコンロ
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そうそうそうゆうのが知りたかった。
一通り台所を調べたところわかったことは、食材も調味料も何もないから何も作れないということ。
買い出しにいかないと行けないのかな。
いや、待てわたし、お取り寄せできるんじゃないか。
『召喚魔法取得』
よしっ。
「出でよ、皿に乗ったサンドイッチ1個」
あ、出ないサンドイッチ…。そうか、名前が違うんだ。こっちの世界にサンドイッチさんっていないし、そんな歴史もないだろう。
じゃ、
「出でよ、皿に乗った、パン、あ、穀物を粉にして練って焼いた物に挟まれたお肉を塩水とハーブに付け込んで焼いたハムのようなものと葉野菜を挟んだもの1個」
出た、出たよ。パンに挟まれたハム。
今後はこれをサンドイッチ、いや日本の名前そのものを限定してしまうと後でややこしいかも。わたしが魔法で呼び出す時の仮の名前としとうこうか。とりあえず。これはパン、これはハムと名付けよう。今後この名前で呼び寄せできますように。
「ステータス」
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マヤ
8歳
無職
HP 50
MP 3799997
創造魔法
言語翻訳魔法
鑑定魔法
召喚魔法
スキル
界渡り
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挟みパンはMP3と引き換えなんだ。3ならば良いか。というのかわたしのMPありすぎ?甘やかしすぎ?いいのか。まぁいいか。
お皿は木でできている。挟みパンはパンが楕円形でハムみたいなものと葉野菜が挟んでいる。味付けはハムの味だけだけど、大丈夫。そのうちマヨネーズ作ろう。
これで生きていける。
お行儀悪く台所で立ったまま挟みパン食べる。パンもハムも葉野菜も少し異国の味がするけど充分美味しい。
これはこの世界の料理が美味しいのか、美味しい挟みパンを望んだわたしの魔法が凄いのかよくわからないけど、何もないところから呼び出すことができるのがわかった。
食べ終わっても木のお皿は消えなかったので、魔石で水が出たので、シンクで洗った。
布巾も取り寄せてみたら、少し粗い麻生地だった。端は結構丁寧にかがってあったので、手縫いの技術力はそこそこありそうだ。
トイレは鑑定の結果、生活魔法の浄化が必要なのがわかったので早速取得してみる。
『生活魔法取得』
生活魔法には、浄化、洗浄、着火、手当、生活水、送風、光源が使えるようだ。
とりあえずトイレが使えたらそれで良しだよね。下水にはスライムがいるみたいだけど、それは考えないようにした。スライムは垂直を登ってこれないって以前何かの本で読んだしーっと、どうしようもないことは考えないようにした。
ご飯食べて、トイレにもいって、これで本が読める。
部屋に戻り、「魔法初級」の本を読みだす。どんどん集中する。一気に読み終わった後、ぜんぜん悲しい内容じゃなかったのに、涙が出てきた。
両親が亡くなって初めて出た涙だ。ああ、わたし悲しかったんだ。ようやくひとつ感情を取り戻した気がした。