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第32話:体育祭⑤

ブクマ、評価、いいね ありがとうございます。

 本日の体育祭を締めくくるのは、全員が参加するクラス対抗リレー。


 我が1組は後半戦の追い上げが効いたのか、十分に優勝を狙える場所にいた。これで上位順位に入れば優勝はできるだろう。しかし他のクラスもまだ優勝を諦めたわけではない。このリレーは全員リレー。クラスの底力が試される種目だ。そういうこともあって、全クラスの間で、競技開始前からお互いをライバル視するかのように、バチバチと火花が散っているようだった。


「全員で円陣しようぜ。なあ悠真?」

 それは突然の提案だった。提案したのは、私の友人で体育委員でもある大輝だった。


「円陣ってあの?」

「お前がどの円陣を考えてるかはわからんけど、あの円陣。」

「なんで…?」

「なんでって、ノリだよ。ノリ!やっぱり必要だろ?部活とかでもやらね?」

「まあやるけど…。」

「ここは円陣して気合入れようぜ。」

「おお…、大輝が真面目なこと言ってる。」

「おいおい、お前の中で俺ってどうなってるの?」

「ははは。冗談だよ。いいね。円陣。やろう。やろう。」

「そうか。じゃあたのむわ。」

「えっ…?」

「え、じゃねえよ。やっぱりここは悠真君が仕切らなきゃでしょ。」

「悠真君って…。はあ、しょうがねえな。」

「さすがっ!おい、みんな!悠真に注目!」


 大輝の声にクラスメイトが注目する。そんな大声出すならお前やれよ、という気持ちを心に押し込めながら、みんなに円陣を提案する。みんなからは「いいね、円陣。やろうぜ!」「円陣なんて初めて。いいかも~。」という意見が上がり、円陣を組むことになった。やはりみんなテンションが上がっているのかもしれない。


 早速みんなで円陣を組む。そこには男女同士の恥ずかしさのようなものはなく、みんな素直に組んでくれた。


「じゃあ、悠真。一発気合入るやつたのむわ!」

「おい、大輝。あまりハードル上げるな。」

「「「「「ははは。」」」」」


「じゃあ、いくぞ!このリレーで勝てば優勝だ。みんなー!絶対に優勝するぞー!!!」

「「「「「おーっ!!!」」」」」


 円陣は成功したが、グラウンドでいきなり40名の生徒が大声を上げたため、否応なくまわりから注目を集めてしまった。すると他のクラスも円陣を組み始めた。こういう流れは簡単に伝播するものらしい。


「ほら、円陣やってよかっただろ。」

 大輝の声は誇らしげだった。


―――――


 最終種目クラス対抗リレーが始まった。各クラス40名が優勝を懸けて勝負に挑む。順番は選抜リレーと同じように女子①→男子①→女子②→男子②→・・・となる。アンカーはまたもや私だった。作戦は選抜リレーと同じ。後半で引き離して最後逃げ切るという作戦だ。


 スタートの合図が切られた。


 出だしは好調だったが、どのクラスも大して差が広がらなかった。やはり勝負は後半戦のようだ。ということは前半戦で求められるのは、あまり差が付き過ぎないことだろう。みんなもそれがわかっているのか、「遅れるなー!」「付いてけー!」みたいな声援が多かった。


 しかし、中盤に入り、他のクラスが勝負を仕掛けてきた。ちょうど3組の第20走者目の男子がとても早く、次第に他のクラスと差が付き始めた。吉井が言うには、その男子は同じ陸上部で相当足が速いらしい。次の走者である女子も陸上部だった。3組は中盤で差を付け、そのまま逃げ切るという作戦できたようだ。その証拠にこの二人の活躍で、3組は独走状態になった。他のクラスも一生懸命走っているが、なかなかその差は縮まらなかった。やはり一時的にでも自分のクラスがトップになると、そのクラスの声援にも熱がこもる。しかも独走状態ならなおさらだ。現在1組の順位は3位。しかし、3位~5位はそんな差はなかった。2位は少し追い上げた5組だった。


 そんなとき、1組にアクシデントが起きた。中盤を走っていた、桜井さんが転倒してしまったのだ。そして1組はすぐさま最後尾になってしまった。打ち所が悪かったのか、もしくは擦り剥いて痛かったのか、彼女はすぐに起き上がらなかった。


 気付けば私は動き出していた。彼女が転倒した場所の近くまで行って、


「桜井さーん!立ち上がって!ここで諦めたらだめだ。あと少しだから立ち上がって!」

 彼女は私を見て、意を決したように立ち上がった。やはり擦り剥いたらしく、右膝からは血が出ていた。しかし、彼女は泣きながらも走り切り、次の走者にバトンを渡した。


―――――


 正直焦っていた。


 みんなで組んだ円陣は楽しかったし、クラスが一体となっている気がして嬉しかった。だからこそ、このリレーに勝って優勝したかった。


 だけど、3組がダントツで1位で走り、5組が少し追い上げて2位。私たち1組は3位だけど、そんなに後ろと差は付いていなかった。


 私は運動神経が良くも悪くもない。いわば普通だった。だから城田君やひなたちゃんみたいに、この状況をどうにかできるわけがない。だからこそ、順位を守って次に繋げなきゃという思いが強くなった。それで焦っていたし、いつもより緊張していた。


 前の根尾君からバトンをもらって走り始めた。だけど緊張しているのか、すでに息苦しかった。もうどちらの足で走っているのかわからなかった。そして自分の足につまずいて、転んでしまった。


 すぐに起き上がろうとしたけど、身体が言うことを聞かなかった。すぐ横を2組と4組が走り抜けていった。その時に1組がビリになったことに気付いた。早く立ち上がらないと思えば思う程、身体は反応してくれなかった。自然と涙が出てきて、目の前がぼやけて見えた。


「桜井さーん!立ち上がって!ここで諦めたらだめだ。あと少しだから立ち上がって!」


 そんなときだった。彼の声が聞こえたのは。横を振り向くと城田君がいた。私はそれだけで勇気をもらえた気がした。


 何とかして立ち上がり、涙で前がよく見えなくても、膝に痛みがあっても、走った。そしてバトンを次の岡本君に渡した。


 コースの横で座り込んで、俯いてしまった。涙が止まらなかった。私のせいでせっかくの優勝のチャンスが、と後悔する気持ちがどっと押し寄せた。


 だけど、「ごめんね。」と言われ、自分の身体が持ち上げられたのを感じた。城田君だった。彼が私を借り物競争の時みたいに抱き上げていた。そのまま彼は何も言わず走り出した。


「えっ、ちょっと…。」

「ごめん。少し我慢してね。」


 彼が向かったのは保健室だった。彼は保健室の渡辺先生に「怪我した人を連れてきました。」と言って、先生の案内するままに私をベッドに横にした。先生が「あら、擦り剥いてるわね。いま消毒するわね。」と言って、薬を付け始めた。


「大丈夫、桜井さん。」

 大丈夫じゃないよ…。そんなに優しくされたら、また涙が出ちゃうよ。


「ぐすっ、ぐすっ。ごめんね。私のせいで…。」

「気にしないで。まだみんなあきらめてないから。桜井さんのせいじゃないから。」

「うん…。だけど、だけど…。」

「大丈夫。俺が何とかしてみせるから。だからもう泣かないで。」

「うん…。ありがとう。」

「じゃあ、俺もう行くね。」

「うん。がんばってね。」

 そう言って、彼はすぐに戻っていった。彼の後ろ姿がとてもかっこよかった。


「素敵な彼氏ね。」

 先生に揶揄われ、頬が赤くなるのを感じた。

読んで下さり、ありがとうございます。


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もし「おもしろい」「続きを読みたい」と思われた方は、宜しくお願い致します。


また、感想もお待ちしております。

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