第33話:体育祭⑥
ブクマ、評価、いいね ありがとうございます。
体育祭編 終了です。
「ごめん、遅くなった。どんな感じ?」
桜井さんを保健室まで連れて行った私は、またグラウンドに戻ってきた。
「おう。まだ大丈夫。桜井さんは?」
私の前を走る吉井も彼女を心配しているようだ。競技中に勝手にいなくなったことには触れず、彼女の様子を伺う。
「大丈夫。擦り剥いただけみたいだから。それで順位は?」
「とりあえず、3組は少し失速した。やっぱり中盤に速い選手を持ってきたみたいだ。それを5組が猛追してる。2組と4組はどっこいどっこいで、すこし離れて1組だ。」
「残りの選手は?」
「いまの女子が走り終わると…、7人だな。」
「厳しいな…。」
「ああ、このままだとアンカーに負担がかかるな。」
実はこの種目のアンカーは、選抜リレーの時よりももう1周余計に走ることになる。その方がドラマが生まれやすいという演出らしい。
「さすがに2周全速力はきついな…。」
「そうだな。ペース配分は重要になるけど、その余裕があるかな。1組に…。」
そう言っている間にもリレーは次々と進んでいく。次を走る大輝がスタート地点で選手を待つ。
「大輝ー。がんばれー!何とか2組と4組をかわしてくれ。」
「ああ、何とかしてみる。このままじゃ終われねえ。」
大輝がバトンをもらい、走り始めた。さすがにサッカー部で鍛えた脚力である。2組と4組を猛追し、バトンを渡す頃にはその差をほとんど埋めていた。
次の選手は倉本さんだった。彼女も足が速く、陸上部ともいい勝負ができると言っていた。その証拠に2組と4組を追い越し、少しの差だが3位まで順位を上げた。「がんばれー!凛ちゃーん!」「倉本あと少し!」1組の声援は自然と熱くなる。
次。おそらくクラス最速の吉井。彼にバトンを受け取る直前、2位を走っていた5組のバトン渡しがうまくいかず、バトンを落としてしまった。その機を逃す彼ではなかった。素早くバトンを受け取ると、一気に加速する。5組と1組の差はもうほとんどなかった。それを最速の吉井が追い抜こうとする。「いけー!吉井ー!」男子たちの声援は最高潮に達しそうだった。しかし5組も速い選手を配置しているのか、すぐには抜けなかった。ただそれでもバトンを渡す時は同時だった。
そして女子のアンカー、野崎さん。彼女は間違いなくクラスの女子で最速。一気に2位の5組を振り切り、前へ出る。「そのまま抜けー!野崎!」「行けー!奈々ちゃーん!」クラスの応援は最高潮になった。
「なんと、さっきまで最後尾だった1組が猛追を見せています。このまま追い越すことができるのかー。」
放送部による実況も盛り上がっている。
そしてクラスのアンカーの私にバトンが渡る順番になった。不思議と緊張はしていない。桜井さんは後悔と申し訳なさのあまり号泣していた。彼女にこのまま終わってほしくない。彼女は優しい人だ。たとえ、クラスのみんなが彼女を責めなかったとしても、彼女は自分で自分を責めてしまうだろう。そんなことはさせたくなかった。
それに他のクラスメイトも優勝目指して、精一杯走ってくれた。
あとは私がやるだけだ。「大丈夫。俺が何とかしてみせるから。」と約束したことを私が守るだけだ。
野崎さんからバトンを受け取る。彼女のおかげで2位まで順位を上げた。あとは1位の3組を追い越すのみ。しかし、3組もアンカー。遅い選手を配置するわけがなかった。その証拠にその差はすぐには縮まらなかった。しかも最後はグラウンド2周。ペース配分を間違えると、逆に抜かれてしまうかもしれなかった。
「城田くーん!がんばってー!」「悠真!いけー!」クラスの声援がよく聞こえた。「1組が3組を猛追しています。これは追い付くかー!」放送部の実況も私を後押ししてくれている気がした。
それを聞いて、私はペースを上げた。もう全速力で2周を走り切ろうと思ったのだ。ここで後悔したくない。いまこの時しかできないことを最大限やってやろうと思った。
「おーっと!ここで1組がさらにペースを上げた。果たして大逆転はあるのかー!」
放送部はいい実況をする。そこまで言われたら、その期待に応えるしかない。
1周を走り切り、残り1周となった。間違いなく差は縮まっている。あと少しで追い抜ける。すでに息は苦しかった。でも関係なかった。向こうも十分息苦しいはずだ。最後のコーナーに入る。絶対に抜く。私はラストスパートをかけて走った。
―――――
保健室で消毒をし、大きめの絆創膏を貼ってもらった私は、すぐさまグラウンドに戻った。まだリレーは続いていた。しかも城田君が走る番だった。気になる順位は一瞬ではわからなかったけど、放送部の実況で追い上げていることはわかった。
バトンが城田君に渡った。アンカーは襷をかけているので、それを見た感じ、自分のクラスが2位であることを理解した。すごい。私のせいでビリになったのに、もうそこまで追い上げている。
「大丈夫。俺が何とかしてみせるから。」
城田君は確かにそう言った。私はそれを信じるしかなかった。本当はクラスの応援席に戻ろうと思ったけど、私の体は動かなかった。リレーに目が釘付けになった。
城田君が1位を追い上げる。表情が苦しそうなのはすぐにわかった。私も辛かった。彼に重荷を背負わせてしまった気がして。彼なら「気にしなくていいよ」と笑顔で言ってくれると思うけど、それが余計に辛かった。
「がんばれー!城田くーん!」
だけど、私にできることは応援することだけだった。
そして、最後のコーナー。彼は1位の選手を振り切り、見事トップでゴールした。放送部も「奇跡の大逆転だー!」と興奮していた。
しかし、城田君はゴールとともに滑り込むように倒れ込んだ。
気付けば私は走っていた。まだ膝が痛むけど、そんなのは関係なかった。すぐに彼のもとに駆け寄り、彼の頭を膝に乗せた。
「はあ、はあ、はあ…。桜井さん?」
「うん…。うん…。1位だよ。城田君」
私はまた泣いてしまった。涙が彼の顔に滴る。
「ありがとう…。約束を守ってくれて…。」
「へへへ…。どういたしまして。」
―――――
「そして、優勝は1組です!」
中学最初の体育祭。優勝で飾ったのは我が1組だった。みんなの喜びははちきれんばかりだった。
閉会式は滞りなく終わり、教室に戻った。藤井先生もおめでとうと自分の生徒たちを祝福していた。
翔太が「写真撮ろうぜ。」と言い出し、みんなで集合写真を撮った。その後も興奮冷めやらぬまま、教室のいろんな場所で写真を撮っていた。私もクラスメイトから一緒に撮ろうと誘われ、いろんな写真を撮った。
ピコン♪
そんなとき、いきなり自分のスマホにメッセージが入った。相手は倉本さんだった。内容は「いますぐ多目的室に来て」だった。気付けば桜井さんや大輝など、いつものメンバーがいなくなっていた。
私はよく意味がわからないまま、多目的室に向かった。多目的室に着いたものの、そこはなぜか真っ暗だった。扉の窓から、室内のカーテンが閉められ、電気が消えているのがわかった。
とりあえず、教室に入る。その時だった。
「じゃーん。今日のMVPのご到着ー!」
「わっ、びっくりした。」
電気が付き、教室内が明るくなった。気付けば大輝と翔太がいた。何故かしてやったりみたいなドヤ顔をして。
「えっと…。」
私は固まってしまった。そこには彼女たちもいたのだ。桜井さんと紺野さん、倉本さんと和知さん、さらに黒紫さん。そして彼女たちはチアの恰好でいた。ちなみに大輝と翔太は学ラン姿だった。応援合戦とは真逆の恰好だった。
「どう?城田君。私たちのチア姿。」
「ねえ、凛ちゃん。やっぱり恥ずかしいよ。スカート短すぎる…。」
「もう、凛は強引なんだから。私も少し恥ずかしい…。」
「でも~。城田君なら見られてもいいです~。」
「確かに少し恥ずかしいですね。」
5人がそれぞれの感想を述べている。どうしよう。みんな可愛い。
「え~と、みんな可愛い。めっちゃ似合ってる。」
「だって~。ほら、美羽。良かったじゃん。城田君に喜んでもらって。」
「うん…。でもやっぱり恥ずかしい。」
「美羽。かわいい~。ほら写真撮ろう。城田君も着替えて。」
「へ?」
私は大輝から学ラン服を渡され、体操着の上からそれを着た。
「ほら、みんなで記念撮影しよ。」
私たちは1枚の写真に収まった。自分たちの心に思い出を焼き付けるように。
読んで下さり、ありがとうございます。
ブクマや評価、いいねを頂けると励みになります。
もし「おもしろい」「続きを読みたい」と思われた方は、宜しくお願い致します。
また、感想もお待ちしております。




