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黒猫と白い部屋

 両手首の炎症による痛みは治まりました。

 すごい久しぶりの更新に……。

 ちょっと短めですが、あんまり長く黒猫を出すのもねぇ。

『おーい、起きてよー』


 なんとなく聞き覚えがあるような、だけど初めて聞いた気がするような、そんな声が耳元でしてるような気がする。ただ、なんて言ってるのかは分からないんだけど。


『ねぇ、起きないと色んなとこ舐めちゃうからねー?』

「んー、もう! なんなのよー」


 結構なうるささに、あたしは目を覚ました。

 んーん、目を覚ましたつもりだったけど、どうやらまだ夢の中みたい。だって、周りの風景は真っ白だし。


『あれー? 中央大陸語じゃない? えーっと、今のは……魔人語かな?』


 なんだろう? 後ろの低い位置から何て言ってるのか分からない言葉が聞こえる……。

 振り向いてみると、あたしの頭があった辺りに真っ黒い猫が座ってて、おもむろに右手を挙げて話し始めた。


「今度は通じるかな?」

「……猫が喋ってる……」

「お、通じてるね。見た目は幼そうだけど、幾つになったんだい?」

「じゅ、17歳……だけど、あなたはどうして喋れるの?」

「あー、前にも説明はしたんだけど、まだ思い出せなくても当然かな。それは置いといて、一応17歳に達したからリミッターが外れ始めてるって感じかなぁ?」


 黒猫はあたしを無視して、ぶつぶつと独り言を始めてしまった。だからあたしは黒猫の髭を両方に引っ張ってやった。

 質問に答えてあげたのに、こっちの質問に答えなかったんだからこれくらいは当たり前だよね?


「痛い! 痛い!! 痛い!!! 何すんだよー!」

「痛っ!」


 黒猫があたしの両手を引っ掻いて、思わず手を離してしまった。

 黒猫は両手の肉球でほっぺの髭の付け根をムニムニと揉んでいる。


「髭を引っ張られるのは痛いんだから止めてよねー」

「ご、ごめん」


 本当に痛そうだったから、取り敢えず謝る。


「まぁいいや。取り敢えず説明するよー?」

「うん、お願い」


 あたしは黒猫の方を向いて、膝を抱いた格好で座った。いわゆる三角座りというやつね。

 それを見た黒猫は髭をピンと張ると喋り始めた。


「我輩は君を転生させた存在で、君はここに来るのは2回目なんだよ」

「2回目? でも、こんな処に来た覚えはないけど?」

「それは仕方ないんだよ。転生させる時に記憶を封印したからね。で、一般的な人族の成人年齢に達したらここに来るように、幾つかのキーワードをあらかじめ決めておいたんだ。……君には早過ぎたみたいだけどね」


 あたしの体を一瞥いちべつして、自分の肉球をペロペロ


「ふーん? でも、なんでここに呼んだの?」


 こてん、と首を右に傾ける。


「きちんと体が成長してから前世の記憶を戻すためにここに呼んで、ここでその処置をする予定だったんだけどね。君はまだ充分に成長しきれてないようだねぇ。このままではちょっと処置は難しいかな」

「前世の記憶? って、どういう事?」

「一応、転生前には説明したけど、君の魂には周囲の存在に良い影響を及ぼす程の力があるんだ」

「良い影響? 例えば?」

「例えば……そうだなぁ。性格が穏やかになったり、技能の習得や成長がしやすくなったり、って感じかな。まぁ、君自身には影響しないんだけどね」


 なん……ですと……? あたしには影響が及ばないなんて……なんて無意味な……。

 つい項垂れてしまう。


「まぁまぁ。君自身に直接影響がなくても周囲が良くなれば結果的に君も良くなるんだから、そんなに落ち込む必要もないさ。んで、ちょっと前にさ、君みたいな転生じゃなくて、直接肉体ごと転移させたチート山盛りな『適合者』達がやらかしちゃって、世界が壊滅寸前なんだよね。だから、世界を良い方向に向かわせられそうな『適合者』の魂をいくつか融通してもらったんだ。君もその内の一人だね」


 そう言って黒猫はひょんとあたしの膝の上に飛び乗ると、右前足の肉球をあたしの額に押し当てた。

 急に膝に飛び乗られたあたしが思わずったのは仕方がないと思う。倒れこそはしなかったけどね。


「ちょっと見せてね。……ふむふむ。あー、君はあの時のえっちな女子高生かぁ。ミハイア族に転生してて、割り込み憑依型の『適合者』の父親の子供として生まれたのかぁ。なるほどねぇ」


 頷きつつあたしの膝からサマーソルトで飛び降りる黒猫。


「おぉー」


 ぱちぱちぱちと思わず拍手してしまったほど格好良かった。

 若干照れたのか、黒猫は両手で顔をグルーミングしてから話を続けた。


「んー、しかしこのままだとオーバーフローしちゃうんだよねぇ。どうしよう?」


 右前足の肉球を舐めながら、黒猫は思考の海に潜っていった。

 もちろん、あたしはほったらかしだ。

 良く分からないけど、邪魔をするのはヤバい気がしたから大人しくしていた。


 ぽん! と効果音付き(自前)で黒猫は手を叩く。


「容量が足りないなら増設しちゃえば良いんだよ。そうと決まれば」


 そう言うやいなや、黒猫はあたしのおでこに飛び蹴りを放ち、それをまともに食らったあたしは後ろに倒れ込んだ。倒れた拍子に後頭部を床で強打してしまった。


「ちょっと! 何すん……っん!」


 抗議の声をあげようとしたら、黒猫にキスされて口を塞がれた。ビックリしてる間に黒猫のざらざらした舌が口内に侵入してくる。不思議と生臭くはなかったけど、黒猫の舌があたしの舌を搦め捕り口内を暴れまわる。


「んー!んふっ! んっ!」


 体を動かして黒猫を払い除けようと思うものの、まるで床から生えた透明な触手に身体中を締め付けられてるかのように身動きが取れなかった。


 数分後に無理矢理なキスから解放された時そこには黒猫は居なくて、代わりに素っ裸のあたしがあたしの上に跨がって両手で肩を押さえ付けていた。

 その素っ裸のあたしとあたしの唇の間には唾液が糸のように繋がっていた。


「ふぅ……。どお? そっくりでしょ? でも、これで終わりじゃないんだよねぇ」


 声まであたしとそっくりだ。

 右手の甲で口をぬぐいつつ、素っ裸のあたしが立ち上がる。

 あたしと同じで未分化のままの体はのっぺらとしててつるんつるんだ。隠す素振りもない。

 その素っ裸のあたしが何かをブツブツ呟くと、急にその体が光を放ち出した。


 あまりの眩しさに目をつむっていると、あたしの声で呼び掛けられた。


「もう目を開けても大丈夫だよ」


 今度はあたしそっくりの声じゃなくて黒猫のこえだった。その声に恐る恐る目を開ける。

 するとそこには素っ裸のあたしの姿はなく、代わりに体長30センチ程のあたしそっくりの妖精が居た。その背中には光を撒き散らしている4枚の光る羽根があり、体はやはり素っ裸みたいなんだけど、淡く光っていて若干霞んで見える。

 そして、その足下には黒猫が居た。


「じゃーん! この子は君から作り出した新しい精霊だよ。あの世界には火・水・風・土・雷・光・闇の7つの精霊が居るのは知ってるかい?」


 黒猫の言葉にあたしは首を横に振る。

 精霊魔法という、お父さんくらいしかまだ使い手が居ない系統の魔法がある事は聞いたものの、その内容までは詳しくは聞いていない。


「君のお父さんが使える精霊魔法は、これらの精霊と契約をして魔力と引き換えに魔法的な何かを起こしてもらう魔法なんだよ。精霊毎に出来る事が決まっててねぇ、魔法みたいに複数の属性を混ぜ合わせたような効果は及ぼせないけど魔力操作自体は殆ど行わなくて良いからぁ、君みたいに魔力操作が上手く行えない人でも使い方次第では何とかなる凄い魔法なんだよ。ま、そこら辺は後でお父さんに詳しく聞いてね」


 そう言って黒猫は後ろ足で立ち上がり、あたしそっくりの妖精……もとい、精霊の紹介を始めた。


「んで、この子は君の魂から作り出した、魂の精霊って事になるよ。精神と記憶も魂の範囲に入るから、前世の記憶をこの精霊の中に詰め込んである。言うならばもうひとつの君の脳みそって感じかな。この精霊は直接君の魂と繋げてあるから、通常の精霊契約よりも繋がりが強くなってるよ。この子とは別に魂の精霊を複数作っておいたから、君のお父さんも魂の精霊を使って魔法を行使させる事も出来るよ。もちろん、契約は必要だけどね。どんな魔法が使えるかは自分で確かめてね」


 黒猫はそう言うと、小さな白い石をどこからともなく取り出してあたしに手渡した。


「これは魂魄石っていう石で、ミハイア族の性分化の儀式の時に入る洞窟の中にこれの大きいのがあるよ。それを使って性分化を行っているからね。君達ミハイア族が性分化する時に選ばれなかった方の性別の精霊が魂魄石から生まれて来るようにしておいたから、お父さんにも説明しておいてね。他の精霊達もそれぞれの属性の色をした特別な石から生まれて来るようになってる。そういう石を見付けたら近くに精霊が居るはずだから見付けて契約すると良いよ」


 急に視界が歪み出す。


「あ、そろそろ時間みたいだねぇ。ちょっと説明したりない気がするけど仕方ないね。多分、次に会えるとしたら性分化の時だと思うから元気でね」


 そして視界が白一色になったところで、あたしはまた意識を失った。


 結局、黒猫が慌ただしく言いたい事を言うだけ言っただけだったけど、取り敢えずあたしがお父さんと同じで別の世界からの転生者だって事だけは分かったかな。

 何にしても目を覚まさないと始まらないし、お父さんから精霊魔法を習わない事には折角の魂の精霊との繋がりも宝の持ち腐れだよね。頑張らないとっ!

 次はいつになるやら……。

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