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破壊魔法、ただの超精密なフォーム矯正セミナーになる

学園、宮廷、さらには裏社会。

僕の預かり知らぬところで、ルーク・フォン・アルカディアという人間の株価は天井知らずの爆上がりを続けていた。

だが、僕は諦めない。


ここで心が折れたら、一生魔王軍との最終決戦の最前線でコキ使われるという絶望的な未来が待っているのだ。絶対に平穏なスローライフを手に入れてみせる。


「そのためには……今度こそ、国家反逆罪の一歩手前、言い訳無用の大不祥事を起こすしかない」


僕は放課後、学園に隣接する第一近衛騎士団の広大な訓練場へと足を運んでいた。


今日の標的は明確だ。

国家の最高戦力であり、国王の盾と呼ばれる近衛騎士団。そのトップに君臨する、『氷の女騎士団長』カトリーヌ・フォン・ローゼンバーグである。


彼女は、二十代前半という若さで騎士団長に上り詰めた天才剣士。規律に厳しく、一切の妥協を許さない鉄の女として恐れられている。


そんな彼女たちが真剣に演習を行っている最中に、僕の得意な『超広範囲・高威力破壊魔法』をわざとコントロールミスした風を装って乱入・暴発させる。


演習場をめちゃくちゃに破壊し、国家の精鋭たる騎士たちを危険に晒せば、「アルカディア公爵家の長男は、己の力を過信して他者を傷つける危険な狂人だ」として、即座に謹慎、あるいは投獄からの国外追放処分が下るはずだ。


「これならいける。なんせ相手はあの『鉄の規律』のカトリーヌだ。僕がどれだけ言い訳をしようと、演習を妨害された時点で激怒して僕を罪人として捕らえるに違いない!」


僕は訓練場の隅から、砂煙を上げて模擬戦を行っている騎士たちを見下ろし、不敵に笑った。


「そこまでだ! 構えが甘い! それでは魔獣の一撃を防ぐことはできん!」


訓練場の中央で、凛とした美しい声が響き渡る。

燃えるような真紅の髪をポニーテールに結び、白銀の甲冑を纏った美女――カトリーヌが、大剣を片手で構えながら部下たちを厳しく叱責していた。その立ち姿は、一輪の孤高の氷花のようで、凄まじい威圧感を放っている。


(よし、今だ。カトリーヌが部下に背を向けた、あのタイミングで魔法をぶち込む!)


僕は物陰から飛び出すと、悪役らしく傲慢に叫んだ。


「ハーーーッハッハッハ!! 随分とぬるい訓練をしているね、騎士団長! そんな大荷物を抱えてウロウロしているから、隙だらけなんだよ!」


僕は無詠唱で、裏で極めすぎた第五階梯の破壊魔法『ブラスト・ノヴァ』を展開。右手に禍々しい、太陽のような高熱の魔力球を発生させた。


「なっ……!? ルーク・フォン・アルカディア公爵令息!? 何を――」


「消し飛びなよ、無能な騎士ども!!」


僕はわざと魔法の制御を「放棄したフリ」をして、カトリーヌの背後の地面に向けて、最大出力の魔力球を力任せに投げつけた。


ドガァァァァァァァァァン!!!!

大地が激しく爆発し、猛烈な爆風と土煙が訓練場全体を包み込む。

凄まじい衝撃波。並の騎士なら吹き飛ばされて気絶するレベルの威力だ。


(よっしゃぁぁぁ! やってやったぞ! 訓練場はクレーターだらけ、騎士たちは全員腰を抜かしてる! これで僕は一発アウトの危険分子だ!!)


僕は土煙の中で、勝ち誇ったように笑った。

……しかし、土煙が徐々に晴れていくにつれ、信じられない光景が目の前に現れた。


「……信じられん」


カトリーヌが、ボロボロになった自分の白銀の甲冑を見つめながら、呆然と呟いていた。

彼女の背後にいた部下の騎士たちは、誰一人として怪我をしていない。それどころか、爆風によって訓練場の周囲にあった「老朽化した危険な防壁」だけが木っ端微塵に粉砕され、綺麗に更地になっていた。


(あれ? おかしいな。確かにカトリーヌたちを狙って撃ったはずなんだけど……)


カトリーヌはゆっくりと大剣を鞘に収めると、僕の方へと歩いてきた。その顔は怒りに震えている……かと思いきや、信じられないほどに紅潮し、その瞳は驚愕と、深い『感銘』に満ちていた。


「ルーク殿……。あなたは、気づいていたのか」


「は? 何をですか?」


カトリーヌは僕の前に立つと、自身の甲冑の胸当てを指差した。そこには、小さな黒い亀裂が入っていた。


「私のこの甲冑……前回の魔獣討伐戦以来、内側に『魔力の歪み』が生じていた。それは私の剣技の呼吸を狂わせ、致命的な隙を生み出していたのだ。自分でも原因が分からず、焦っていた。だが、お前は……それを見抜いていたのだな?」


「いや、そんな所、全く見てませんけど。ただ適当に狙って撃っただけで――」


「隠さずとも良い。お前が放ったあの『ブラスト・ノヴァ』の衝撃波……私の甲冑の歪んだ魔力回路だけを正確に焼き切り、周囲の部下たちには一切の害を与えず、むしろ彼らの体に滞っていた古い魔力を霧散させて活性化させた。……それだけではないな」


カトリーヌは、粉砕された古い防壁を振り返った。


「あの防壁は、来週にも取り壊し工事が予定されていた、崩落寸前の危険なものだった。あなたは……私に『隙だらけだ』とあえて挑発の言葉をかけることで、私の意識を前方に集中させ、背後での超精密な『破壊と再生の魔術』を無意識のうちに成功させたのだ……っ!」


(違う!! あれは本当にただのコントロールミスで、たまたま威力が逸れて古い壁に当たっただけなんだよ!! なんでそんな都合よく危険な壁がそこにあるんだよコンチクショウ!!)


カトリーヌは、鉄の女と呼ばれた普段の姿からは想像もつかないほど、熱い、情熱的な目で僕を見つめてきた。


「私は誇り高きローゼンバーグ家の人間。剣の隙を突かれ、完膚なきまでに正されたとなれば……敗北を認める他ない。ルーク殿、あなたは私の『剣の師』であり、この心を正面から屈服させた唯一の男だ」


「剣の師!? いや、僕は魔法使いですし、あなたを屈服させるつもりなんて微塵も――」


「その圧倒的な武力、そして誰にも理解されずとも国のために影で尽くすその高潔な生き様……。不肖カトリーヌ、魂を揺さぶられた。今日より、私の剣はあなたのために振るおう。あなたを私の生涯の主と定め、その身に迫る全ての害悪を、この命に代えても断つと誓う!」


カトリーヌが、訓練場の硬い地面に片膝を突き、僕に向けて最敬礼を捧げた。

周囲の近衛騎士たちも、それを見て一斉に剣を抜き、天に掲げた。


「「「聖王ルーク様、万歳!! 第一近衛騎士団は、ルーク様と共にあります!!」」」


(なんで近衛騎士団が丸ごと僕の私兵みたいになってるんだよおおおおお!! 国王の盾だろお前ら! もっと国家に忠誠を誓えよ!!)


僕の必死の言い訳(本音)は、カトリーヌの「脳内最強美化フィルター」によって、完璧なフォーム矯正セミナーと騎士団への愛の鞭へと変換されてしまったのだった。


◆◇◆◇

翌日、学園の生徒会室


「ルーク様、またしても素晴らしい功績を上げられたそうですね」


生徒会長のデスクに座る聖女エレノアが、蕩けるような笑顔で僕を迎えてくれた。

彼女の手には、カトリーヌから届いたという「ルーク様の超精密魔力指導による、騎士団の戦闘力向上に関する報告書」が握られている。


「カトリーヌ団長、あんなに頑固で男嫌いだったのに、ルーク様に完全に心を開いてしまって……。私、少しだけ嫉妬してしまいそうです。でも、それだけルーク様が素晴らしいお方だということですね」


エレノアが少し頬を膨らませながら、僕の腕に自分の胸を押し付けるように抱きついてくる。極上の柔らかさと香りが僕の脳を狂わせそうになるが、心の絶望がそれに勝る。


「兄上!」


そこへ、弟の勇者アレンが血相を変えて飛び込んできた。


「カトリーヌ団長から聞きました! 兄上のあの『ブラスト・ノヴァ』の制御、神業の域に達していたそうですね! 僕は……僕は本当に誇らしいです! 兄上のような偉大な方が僕の兄でいてくれて!」


(アレン、頼むからそんなキラキラした目で僕を見るな……。僕はただ、お前をいじめて、実家から追放されたいだけの、ただのちっぽけな悪役なんだよ……!)


窓の外を見ると、訓練場の方から「ルーク様直伝の呼吸法!! 感謝の素振り一万回!!」という、カトリーヌ率いる騎士たちの狂気じみた掛け声が風に乗って聞こえてきた。


学園、裏社会、そして国家最高戦力(近衛騎士団)までをも手中に収めてしまった悪役令息ルーク。


彼の国外追放スローライフへの道は、またしても遥か彼方の彼方へと遠ざかっていくのだった。


(絶対に……絶対に次こそは、言い訳不可能な大犯罪を犯してやるんだからなっ!!)


────────


第5話予告:『暗殺料理、ただの薬膳フルコースになる』


ルーク、国際的にも聖人になる。


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