表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/104

襲撃されました

 まーちゃんへ


 私は相変わらず、ノイッシュさんの自宅に潜伏しているよ。

 侯爵一味は血眼になって、私を探してるんだって。


 私たちはスープとパンの夕食を終えたあと、ルキスが言った。

「カシェ様。敵がこの辺りをうろついていないかどうか偵察してきてくださいよ。今日、運命が動く可能性が高いので」

「……わかりました」


 カシェは運命が動くという言葉に、露骨に嫌そうな顔をして、外へと出ていった。


 それから、ルキスは、

「皆さん。残念ながら、このあと間もなく、ここは襲撃されます。ノイッシュさんご夫妻は今から、北西の方角に向かってください。そこで出会った人にご自宅の場所を教えてください」


 ノイッシュさんは騎士団長らしく、

「それなら、自分も残って戦います」

「いえ、それではあなたは死ぬ運命です。あなたは生きて、アニエラさんを支えないといけません。早く奥さんと一緒に行くんです」

「……わかりました」


 ノイッシュさんは不服そうだったけれど、奥さんと一緒に家を出ていった。


 ルキスは私を見て、にこやかに、

「あなたは何も言わないんですね。たとえば、自分はどこに逃げればいいのかとか」

「必要があれば、あなたから言うでしょう」

「まあ、そうなんですけど。それにしても、全く怖がらないんだなと思って」


 私はしばし考えてから、

「恐怖はありますけれど、あなたの視た運命を信じていますから」

「そう言ってもらえると助かります」


 それから、ルキスは急に真顔になった。

 いつもニコニコと笑っている彼とは打って変わった雰囲気に、私は思わずハッとした。

「アニエラさん。運命というのは一つだけではありません。ただし、オリヴィエ王の子種がないというのは先天の運命なので変えようがありません。それは宿命だからです」

「そうですか」


 ルキスは自身の胸に手を当てた。

「でも、後天の運命は変えることができます。行動も大切ですけれど、いちばん大切なのは――心です」

「……心」

「そうです、アニエラさん。あなたは一度だけ大切な人の元へ帰ることができるチャンスを与えられます」


 大切な人……。


 ルキスは言葉を続ける。

「僕が前に渡したネックレスをまだ身につけていますよね? それが運命の鍵となります。戻るも進むもあなた次第です」


 私が困惑していると、外が急に騒がしくなった。

 私はその時が来たのだと、背中がゾクリッと震える。


 力ずくで、木製の扉が部屋に押し入ってきたのは、武装した男たち。

 背の高い男が一歩踏み出すと、私の頭一つ分以上も体が盛り上がった。大きな斧を振りかざしている。


「お前が奴隷だな! 手足をもいで、侯爵のもとに連れてってやるよ!」

 大男は下品な笑みで下品な言葉を叫んだ。


 ルキスが懐から取り出して何かを投げた。途端に、煙が広がる。


「アニエラさん、こっちです!」

 彼はそう言って、私の手を引き、勝手口から走り出す。


 私たちは建物の角を曲がりながら、走って逃げる。でも、私の足が遅い。


 ルキスは簡単な攻撃魔法を唱えたり、懐から取り出した爆弾を投げたりしながら、追っ手を振り切ろうとする。


 でも、逃げ切れなかった。


 ルキスは言った。

「もう大丈夫だな。じゃあ、あとは頼みましたね」

「え?」


 大男が私たちに迫り、斧が私に振り下ろされようとした時、ルキスが私の前に出た。


 斧が残酷にも、彼の体を引き裂いた。

 血を吹き出しながら、冷たい地面に転がる。


 叫びも、血の匂いも、すべて遠くにあるようだった。

 ただ空気が止まり、世界の色が抜け落ちる。

 目の前の光景だけが、妙にくっきりとしていた。


 返り血を浴びた大男は舌なめずりしながら、

「次はお前だ。殺しはしない。爪を一枚ずつ剥がし、指をもいでから、手足を一本ずつぶった切ってからだ」


 その表情は恍惚に歪んでいる。

 なんて気持ちの悪い人間なのだろう。


 私に抵抗する術はない。拷問の果てに殺されるのか。

 嫌悪で思わず顔が歪んだ。


 まるでスローモーションの世界に私はいる感覚なのに、急に思考だけが動き出した。

 私はなんとかチャンスはないかと思案する。


 いきなり、大男が火達磨になった。


「ぎゃぁぁぁ!」

 男の叫び声が私の鼓膜を震わせる。


 のたうちながら、最期は地面に転がった。


 でも、私の胸中は今はそれどころじゃない。けれど、あっちに構えないし……。


 消し炭になった男の背後には、右手に魔法で作り出した青い鞭を持ち、左手に魔法で作り出した炎を揺らしている女がいた。


 侯爵の手先だ。


 女は呆れるようにしながら、私に言った。

「あんた、まだこんな町にいたのかよ」


 それから、私に尋ねた。

「なあ、あんたがこの町にいる理由はなんだ?」


 背後で手下たちが低く息をつき、武器を構え、今にも襲いかかろうとしている。だというのに、女は平然と彼らに背を向けている。


 女の左手で揺れる炎が、彼女の冷たい青い瞳を照らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ