鳥籠の鳥のような私(セリーヌ視点)
ああ、憎い。
憎い。
オリヴィエが、あの女奴隷が、憎い。
私を、こんな塔の、狭い部屋に閉じこめるなんて。
小さな窓からは城が見える。
少し前まで、私が暮らした、私が、王妃として君臨した城が……。
私はこの塔に閉じ込められてから、オリヴィエに何通も、何通も手紙を書いた。
きっと、甘い奴のことだから、私を外へと出すだろう。
姦通の罪で、私を裁いたとしても、きっと慈悲と称して、自由にする。
彼はそういう――男だ。
私は、それでまた城へと戻れる。
だって、私は、奴の婚約者として、王妃として育てられてきたんだもの。
私は絶望していない。
何もせずに、ぼんやりと過ごし、夜になり、眠くないのにベッドへと潜った。
一人で寝る夜は慣れたけれど、……寂しい。
夜中に、私は誰かに揺さぶられて目を覚ました。
そこにいたのは、かつて私に愛をくれたエルスピオだ。
「どうしてあなたが……」
「あなたを救いに来たのですよ」
エルスピオは口角をニヤリと上げて言った。
私の心に、希望の灯が灯った。
エルスピオは言葉を続けた。
「真の王妃がこんな場所にいていいはずがない」
「その通りだわ! 私は何も悪くない! 悪いは子種がないオリヴィエなのよ!」
私はすがるように叫んでいた。
「そうですよ。あなたに良いものをお見せしましょう」
「良いもの?」
「あなたの真の運命の未来ですよ」
そう言って、エルスピオは袋から少女の人形を取り出した。
人形の瞳が光ると、空間が変わった。
目の前に現れたのは、着飾った私。
私は隣りにいる女に男の赤子を抱かせている。
私は言った。
『私が産んだ大事な坊や。なんて可愛いのでしょう』
『未来の陛下でございますよ』
赤子を抱いた女が言う。
二人とも微笑んでいる。
エルスピオが再度、
「その人形は、あなたに、未来を見せているのです」
「私は、王妃として、赤子を生むというの?」
「そうです。しかし、それには、子種がないオリヴィエが邪魔なのです」
「……そうね。じゃあ……、私の望みは……」
私は呟いた。
エルスピオは私の胸に手を当てた。
そういえば、彼は私の胸にかつて、何かの魔法を刻んだっけ……。
「問題ありません。あなた自身の手で王を変えればいいのですよ」
私の体に衝撃が走ったかのように、背中が思わず反った。
「胸が! 胸が熱い!」
「あなたの、感情のエネルギーをあなたの胸に、集め、溜めたのです」
エルスピオは冷静に言った。
「あぁあぁあぁ」
叫び終わった私の体から痛みが消えた。
八重歯が伸びて、角が生え、爪は鋭く尖っている。
エルスピオは微笑んだ。
「素晴らしい。あなたの憎しみや怒りが、その姿に変えたのです」
「……憎しみ、……怒り」
「さあ、オリヴィエを殺しに行きなさい。新たな王と、王妃として交わり、子を成しなさい。それで、あなたの望みは叶えられる」
私は、窓から満月が輝く夜の空へと飛び出した。
憎いオリヴィエを殺し、王妃として、可愛い坊やを生むために。




